第7話 今日は芹那と一緒に――
「お疲れ様です」
一度自宅に戻った達紀は通学用のリュックを自室に置き、それから自宅を後にしたのだ。
お店の裏口から入り、店内のロッカールームへと移動している最中だった。
「ようやく来たんだね。お疲れ、蓮見くん」
「お疲れ様です」
ロッカールーム前の廊下で、ファミレスの制服に着替えた
芹那は今日、キッチン担当なようで白衣のようなユニホームを身につけていた。
彼女は夕方の五時からバイトに入っており、今は少しだけ休憩を取っていたようだ。
「私、もうキッチンに行くから。蓮見くんも準備が出来たら来てね」
「はい」
達紀はそこで彼女と別れる。ロッカールームに入り、キッチン専用の服装へと着替えるのだ。
接客する場合は、女性はフェイトレス衣装。男性はウエイター衣装を着用する必要性があった。
基本的に達紀はキッチン担当として所属している為、白衣のようなユニホームと白色の前掛け。それから緑のキャップをかぶり、ロッカールームに設置された大きな鏡の前で最終的な身だしなみを整える。
達紀は早速、芹那がいるキッチンへと急いだ。
「お客様二名様。オーダー入りました!」
津城芹那は普段のような優しい表情から一遍。
バイトをしている時の表情は違う。
話し方も異なり、ハキハキトした口調でかつ、大声で話しているのだ。
「ハンバーグ二人分と、フライドポテト大盛りね」
「はい、分かりました」
「私はサラダバーの方が少なくなってるから、そっちの方を担当するから」
「わかりました、津城先輩」
達紀がキッチンに入った頃には、連続してオーダーが入ってくる事もあった。
その日にもよるが、夜の七時から八時頃までが一番忙しかったりする。
達紀がファミレスでバイトをし始めてから一か月ほどが経過していた。
大体の料理方法はバイトの先輩方から教えてもらっていたのだ。
ハンバーグやフライドポテトは工場の方で作られたモノを使う。
それらは冷蔵庫に入っており、それを手順通りに鉄板で温めていく。
フライドポテトに関しては、今から油で揚げる必要性があった。
一〇分くらいで提供できる状況になり、鉄板に乗ったハンバーグを配膳ワゴンに並べていく。
大皿に乗せた大盛りのフライドポテト。
野菜に関しては、お客個人でサラダバーから取って頂く形になっているので、それは不要だ。
「はあぁ……大変でしたね」
「そうだね。でも、蓮見くん、ちゃんとやれてたじゃん。一か月目とは言え、頑張ってるようだし」
キッチン内。
達紀は、芹那から褒められていた。
今は九時頃になり、繁忙時からは解放されていた感じだ。
「でも、それは先輩のお陰ですから」
「まあ、そうかもだけどね。私なんて、三年近くやってるけど、まだまだできない事もあったりするしね」
「そうなんですか?」
「ええ」
「そういえば、先輩は高校生の頃からバイトをしてるんですかね?」
「ええ、そうよ。高校二年生からね。早く一人立ちしたかったし。それにアパート代も支払わないといけないしね」
芹那は少々疲れた顔を見せていた。
夜八時から開始した達紀とは違う。
なんせ、彼女は夕方五時頃からバイトに入っているからだ。
「それなら、先輩の方が凄いですよ! そこまで先の事を考えてバイトするなんて、なかなかできないですからね」
「でも、あの家から離れたかったからね。蓮見くんも目的があってバイトをしてるんじゃないの?」
「えっと……自分は気分転換をしたかったので」
「そうなの? でも、バイトをする事はいい事よ。それだけでも立派ね」
芹那からまた褒められる事となったのだ。
「ラストオーダー無しです」
ホールの方からやって来た学生バイトの女の子が、キッチンスタッフらに大声で話していた。
達紀と同世代の子であり、別の高校に通っている子らしい。
九時半頃になるとホールスタッフが、今いるお客に対して確認してくるのだ。
ラストオーダーが無ければ、キッチン内の後片付けを始める。
「蓮見くん、後片付けをしよっか」
「そうですね」
「私たちは、食器を片付けます」
「はい、了解。こっちはテーブルの方を片付けておくから」
二〇代後半くらいのバイトリーダーの男性の声が聞こえてくる。
達紀は、芹那と共に食器専用のキッチンシンクへ向かう。そこに集まっている使用済みの食器を洗う事になったのだ。
「蓮見くん、昨日の件だけど」
「昨日というのは、あの男性に関係する話ですかね?」
達紀は泡立ったスポンジを手にしながら、隣にいる芹那から話を聞いていた。
「そうね。それで、その被害者の友人から話を聞いたんだけどね」
「早いですね」
「まあ、直接、その子から聞けたわけじゃないんだけど。その被害者の子の友人曰く、少し精神的なショックで休んでるみたい」
「やっぱり、不登校的な感じだったんですね」
達紀は相槌を打ちながら頷いていた。
「そうみたいね。でも、来月からは通えそうだって」
「そうなんですね。その人は良くなるといいですね」
「そうね。精神的によくなればね。その子は、私の弟と半年ほど付き合っていたみたいなんだけど。突然フラれたみたいなの」
「突然ですか?」
「ええ。どういうフラれ方だったかはわからないけど。それ以上詳しくは教えてくれなかったわ。個人的な話だし。まあ、本人と関われて、大丈夫そうであれば聞こうと思ってるわ」
「そうですね……そういう話は結構繊細な話ですし」
「んー、ここは慎重にやって行こうと思ってるわ。後ね、その学校を休んでいる子の友人から聞いた話なんだけど。あの人、嘘をついて仕事をしているみたいなの」
「嘘を?」
「嘘をついて今のスポーツ関係の仕事をしてるってこと。まあ、サッカーが上手なのは本当なんだけど。それ以外で、他人の弱みを握ったりして立ち回ってるみたいなの。噂だからどうかはわからないけど。あの人からしたらやりそうなのよね」
芹那は怒り交じりの顔を浮かべ、慎重な顔つきになっていたのだ。
「二人の方は作業終わったのか?」
遠くからバイトリーダーの声が聞こえてくる。
「すいません、今やってる途中で、あともう少しで終わります!」
芹那が大きな声で返答していた。
「雑談は今は無しで。バイトが終わったら一緒に帰りましょ」
「そうですね。今は集中した方がいいですよね」
二人は泡立っているスポンジを使って、急いで食器の汚れを取り除いていく。
その後で、水で泡と汚れを落とすし、食器洗い乾燥機と呼ばれる大きな機械の中に食器を入れ、除菌まで行うのだった。
付き合っていた恋人を年上の男性に寝取られたので、俺はその男性の妹&姉と付き合う事にした 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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