おまけ~脱出後の朱殷と恋~
第23話
「あ、戻って来た」
「うん、結構あっさり出してくれて良かったよ」
恋は陽の光に目をパチクリとさせる朱殷を抱き、歩き出した。
「恋さん、ちょっと人目が多いので抱っこはマズイんじゃ…」
気まずく思いながらも、"ただの"ぬいぐるみのフリをする朱殷。
「え、人目が多いからこそ、朱殷さんが歩いてたらマズイじゃない。それに今なら、ここのゲームセンターで取った風に見えるよ」
「あ!確かに!」
朱殷は自分達が今日、×××ショッピングモールに来ていたことを思い出した。
ここの三階の一番端にはゲームセンターがある。
恋は駐車場に停めた車へと向かい、乗り込むと、助手席に朱殷を乗せ、丁寧にシートベルトも付けてあげた。
「うっ、これしなきゃダメですか…?」
「だーめ、朱殷さんが吹っ飛んじゃったら大変だから」
「うぅ……」
(別に吹っ飛んでも死なないのに…)
体にダイレクトに食い込むシートベルトに、朱殷は額の布をギュッと寄せ、不満顔を作る。
「あ、そういえばあの女の人は大丈夫でしょうか?別々の所に出ちゃったみたいですけど」
「あー、あの人は無理だね〜」
車を発進させながら軽い口調で返してくる恋に、朱殷は目を剥いた。
「ええ!?どういうこと!?」
シートベルトによって変に寄ってしまった布を直そうと、ぶにぶにと激しく身を捩らせながら声を上げる朱殷。
「あの人は…たぶん元々魅入られてたんだろうね」
「魅入られ…?」
「うん、どこでどうあんな化け物と出会ったのかは僕も想像出来ないけど、彼女はきっと逃げられない」
恋のキッパリとした言葉に、朱殷はゾクリとした。
「し、死んじゃうんですか…?」
「逆、死ねないの。あの化け物とずーっと生き続けることになるだろうね」
「え、どうしてそんなことが分かるんですか?」
朱殷の問いかけに、恋はバッグミラー越しに目を細めた。
「今の時間を見てみて?」
恋に促され、朱殷は車内の時刻表示を見る。
「13時52分ですけど…」
「うん、僕達が×××ショッピングモールから帰ろうとした時間はだいたいどれくらいだった?」
「えーと、あの変な洋館に飛ばされる寸前の時間てことですよね?……確か13時40分過ぎです、お腹がすいたので帰るって私がお願いした流れだったはず…」
「そうそう、てことは?」
「ああ!時間が全く経ってない!あの洋館には少なくとも30分以上は閉じ込められてたのに!」
「そう、だけどそれはあくまでも僕達の"体感"で、あの館では時間が流れて無かったんだ」
「そんなことが……」
「うん、あるんだよ?あの館の主人は"時間"に縛られない唯一の存在なんだろうね」
「神様みたいですね…」
朱殷の率直な感想に、恋は頷いた。
「まぁでも、アレはきっともっと厄介な…」
(邪神だろうな)
恋は最後にひっそりと心で呟くと、それきり口を噤んだ。
一方で朱殷は、温かな陽の光と、ほどよい車の揺れにウトウトとして、やがて熱い恋の手に頬を優しく撫でられている内に、ゆっくりと眠りへと落ちていった。
迷宮 椿 @Tubaki_0902
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