第14話 キーファーの秘密

 夜になった。

 待ち構えていたあたしは、父ちゃんとの明日の仕込みを終えて自分の部屋に帰ろうとするキーファーに声をかけた。


「おやすみ、キーファー」

「おやすみフラン」


 毎日のお約束に、にっこり笑いかけてあたしに返すキーファー。あたしは家族が近くに居ないのを確認してキーファーに近づいた。


「また、明日頑張ってね。おやすみのキスしましょう」


 ……なによ、いいじゃない。キスぐらい。

 あたしはこうやって毎晩、キスで我慢してるの。

 かわいい子供のような無垢なキーファーに淫らなことなんてしないわよ。


「うん」


 キーファーが頷いてあたしの額に唇で触れた。

 微かに額に感じる体温。嬉しいけど、寂しい。


「ほ、ほっぺたにしてくれない?」


 ドキドキしながら乞うと、うん、とキーファーは頷き、言われた通りに顔を寄せた。

 やった。

 ああ、やっぱり男前。きれいな肌と顔立ち。

 労働の汗の匂いがするけど、キーファーの体臭は松の香りと混ざってちっとも嫌な匂いじゃなかった。幸せ。

 いつか、この匂いに包まれてベッドで眠りたい。そう、いつか夫婦として。


 キーファーはあたしの頰にちゅ、と唇を押し当てた。

 大好きよ、キーファー。


 切なく思いながらキーファーが離れるのを我慢したあたしだけど。

 次に起こった出来事に一旦、思考が停止してしまった。


 あ、あれ?

 あたしの口をキーファーが塞いでる。

 あれれ。

 しかも、なんか口の中に入ってきたんだけど。


 熱いねっとりしたキーファーの舌があたしの口内に進入する。

 かき回し、舌に絡みつく様にあたしは頭が真っ白になった。


「ん……」

「かわいい、フラン」


 あたしの目を見つめて目を細め、キーファーはあたしを抱きしめた。


「フランは僕に触って欲しい? 女の子はみんな僕に触ってって言うよ。フランもそう? 同じ?」

「え」


 キーファーはあたしの胸に服の上からそっと触れた。


「触ってもいい?」


 どうぞ!

 触って欲しいけれども! もちろん!

 で、でもちょっと待って。


 あたしの返事を待たずにキーファーはあたしの首元からするりと手を差し入れて胸を鷲掴みにした。


「やわらかい」


 次の瞬間、キーファーはあたしを抱き上げて運び、パンを捏ねる台に押し倒した。粉がふわっと舞い、あたしたちにふりかかる。


「キ、キーファー、ちょっと」

「フラン」


 キーファーはあたしの上衣を押し下げて、ぷるんと胸をむき出しにした。胸を両手で掴んだあと、顔を埋めて口に含む。


「フラン。甘い」


 あたしは混乱しながら答えをなんとか導きだした。

 これは、アレよ。

 子供に戻ったキーファーが淫らなことをするわけないもの。おかあさんのおっぱいを恋しがる子供と同じようなものよね。

 どおんと、母親のように構えなきゃ。


「あ」


 そういうつもりでいたのに、舌の刺激にあたしは思わず身が震え甘い声が出た。


「フラン。気持ちいい顔してる。もっとしてあげる」


 ぺろり。とキーファーは見守るあたしの前で乳首を舐め、綺麗な歯で軽く噛んだ。


「あ」


 甘い痛みに胸の先が疼く。


「こっちも触ってあげるね」


 言ってキーファーはあたしの脚の間に身体をぐいと割り込ませるとあたしのスカートをたくし上げた。


 ちょっと待って。誰がいつ、こんなことをキーファーに教えたの?

 アンナ? それとも違う女の子?

 いつの間にこんなことをキーファーに吹き込んだのよ!


 その相手の女に激しく嫉妬しつつも、あたしは太腿を上り、脚の間に手を進めるキーファーに抵抗しなかった。むしろ、めちゃくちゃ期待した。


「あっ、や」


 躊躇いもなくキーファーの手は秘所に触れた。


「触って欲しい?」


 あたしの顔を見下ろして聞くキーファー。


 触って欲しい、です。


 あたしはこくりと頷く。


 だって夢にまで見た憧れのプレッツェルの君があたしの身体に触れてるのよ。

 信じられないほど整った造作の顔と美しく引き締まった身体を持つ彼が。何度この場面を妄想して自分を慰めたのか分からない。夢みてたの、いつか彼とこうなることを。

 やだ、感動して泣きそう。


「フランのおっぱい。甘いミルクの味」


 キーファーの指があたしの花芯を優しく嬲りだす。

 その円を描くような動きにあたしは腰が震える。


 なんで? どうしてやり方知ってるのキーファー。


 せり上がってくる快感にあたしは何も考えられなくなってしまう。


「んっ……!」


 くちゅり、と音が立って。

 あたしのすでにいっぱい濡れたあそこにキーファーが触れ、ぬぷりと指を入れる。


「あ、あ」


 キーファーを思い描いて何度も自分で慰めたあたしの中は待ちに待った快感に歓喜したように震える。


「キーファー」


 好きよ、好き。

 貴方と愛し合ってずっとこのまま一緒に居たい。


「はっ、はあん」


 キーファーがあたしの中で指を曲げた。気持ち良くてたまんないところに当たってあたしは声が出る。

 どうして? なぜ、こんなこと出来るの?

 疑問は続けざまの快感に彼方に消えてしまう。


 キーファーはその場所を押しながら親指であたしの花芯もやさしく押しつぶす。


 だめ、気持ち良くってたまんない。何も考えられない。もっと、もっとして。


「ああんっ、キーファー、あ、ああっ」


 キーファーの手の動きにあたしはキーファーの身体にしがみつく。

 ずっと飢えっぱなしだったあたしの身体はあっという間に上り詰める。


「キーファー! キーファ……」


 あっけなくあたしはびくりと硬直して達した。


「すぐイクんだ。ずっといやらしいことして欲しかったんだね。我慢してたんだ、かわいい顔してフラン」


 あたしの中から指を抜き、キーファーは放心したあたしの顔の前で指を口に入れいやらしく舐めてみせた。

 ざわざわした嫌な予感を胸にあたしはぼんやりと聞く。


「貴方……キーファーじゃないの?」

「そうだよ」


 美しい顔が意地悪そうに微笑む。

 あたしは教会の拷問部屋でマテウス様が一回だけそのように微笑んだのを思い出した。


「君が好きなマテウスは実は二人居たんだ。臆病で情けなくて悲観的だったのが君の好きなマテウス。そんなマテウスが男たちのおもちゃにされる間、昔からずっと交代してあげてたのが私だ」


 キーファーに似た別人はあたしの頰をゆっくりと撫でた。


「男たちを誘惑し、男のものをしゃぶり、淫らに犯される快楽を貪っていたのがこの私だ。魔女は私の方さ。君には感謝してるよ。そろそろ、あそこに飽きていた。老いた醜い男たちに犯されるのはね。あの世界から私を引き出してくれてありがとう。礼を言うよフラン」


 あたしは息を飲んで聞くしかなかった。


「君がエジプトのなんとやらと契約したのとちょうど同じく、マテウスも君を救うために悪魔と契約したのだと言ったら、君はどう思うかな。悪魔との契約で罪を犯すためレオンを殺したのはマテウスさ。臆病なマテウスは魔女になって火炙りになるつもりだったらしいが、私は御免だ。君のおかげで助かったよ……私はこれから悪魔と契約した魔女として本当の人生を生きる」


 涙が一筋ながれたあたしの頰を見知らぬ男はそっと拭った。


「君は恩人だ。だから君のことはしばらく愛してあげる。君の望みのままに」


 あたしは男のはだけた胸肌に手を伸ばし、薔薇のような火傷跡の刻印に触れた。その存在は知っていたけど、今なら明らかに体の他の箇所の傷とは違うと気づく。

 爪を立ててもその刻印はびくともしなかった。

 これが本当の魔女の刻印。


「マテウス様は貴方の中にまだ居るわ」

「ああ、居るよ」

「あたしは諦めない。マテウス様を愛し続ける」

「ご自由にどうぞ。それも私が君に飽きるまでの間だ。その時が来るまで私も君も楽しめばいい。それで良いじゃないか」


 二人目のキーファーはあたしの胸に再び顔を埋め、脚の間の愛撫も再開した。


 あたしは男を抱きしめながら、目を瞑って快楽に浸った。




 マテウス様。

 あたしは貴方をずっと愛し続ける。

 きっと貴方を救い出してみせる。



 あたしは決して諦めない。







 

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甘いあまーい毒入りお菓子の身体 青瓢箪 @aobyotan

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