DayEx 後日談
「さて、説明してもらいましょうかね!
お菓子! ステッカー! 銀テープ!
うちは芸能事務所か! アイドル気取りかテメェら!」
ステラさんは机を叩く。
お菓子の袋、ハートのステッカー、銀色のテープ。
空から降ってきたものを集め、俺たちに問い詰めている。
「もういいじゃん。犯人も捕まえてくれたんだしさ。
解放しようよ、こっから先はウチらの仕事でしょう?」
「よくないからこんなことになってるんでしょうが!
マジで死んでたかもしれないのに!」
「だから、花澤はまたしても何も知らない被害者なわけじゃん。
家から出ないほうがいいって。何ならカイトに保護してもらった方がいいって。
てか、そうなるとご実家が危ないからウチらの寮に来てもらった方がいいって。
一人暮らしだよ? 超楽しいよ? どっか空いてるところないの?」
「まあ、一人暮らしは考えておきますけど。
でさ、カイト! お前もお前だよ!
外に出たらカメラ持ってるし、お菓子は飛んでくるし!
お菓子が終わればステッカー、次は銀テープで!
意味が分からないし! もう心臓が飛び出るかと思った!」
「そうだよ。さっさと仕事しないと、花澤がマジで死ぬよ。
事務所に帰っていい?」
モモさんが気だるそうにしている。
これ以上、話が発展しないから困っている。
タナバタの鍵付き個室で説教と事情聴取を受けている。
俺たちを捕まえて、数時間が経っている。
「大体、よその人から許可なく魔法をもらうな! なんだ、そのカメラ!
聞いたことないんだけど!」
こんな感じで、俺と風太くんが延々と絞られている。
この前のイベントで起こったことはあっという間に拡散されて、問い合わせが相次ぎ、大変なことになっている。
なんか一つの都市伝説が打ち立てられそうなくらい、話が盛り上がっている。
「ステラさん、もういいじゃないですか。許してやってくださいよ。俺の魔法なんだから、許可とかもいらないでしょ?
大体、俺はカイトに魔法をあげたんですよ?
現に契約書も書いてないんですから。
イベント以外で使用不可とか、普段は花澤くんに持っててもらうとか、いろいろやりようはあるじゃないですか」
シェフィ君がカメラを手に取る。
魔法を渡した責任があるということで、ここに来てもらった。
この人はカメラの所有権を俺に委ねると言いつつ、親衛隊に入りたいだけだと思う。
「そもそも、あなたもあなたなんですよ! いつもお世話になっていますけども!
ここまですることないでしょう!」
「そうだよ。連絡くれれば、もっとちゃんとしたのに」
正論だ。ぐうの音も出ない。
「イレギュラーがあると余計に緊張するかと思ったんだよ。
俺も始まる寸前にもらったから、連絡する暇もなかった」
「俺も連絡がなかったらカメラを渡せなかったしね。
殺意がバチックソに高かったから、こっちもこっちで走り回ってたし」
「だからといって、実行役を全員簀巻きにして渡してこないでくださいよ!
いきなり来られても困るんですよ!」
大変なことになっているだろうとは思っていたけど、そんなことになってたんだ。
テントに戻ると、ロープで縛られた男たちが並べられて、警察と他の仲間で話を聞き出していた。
「いや、捕まえたのは大先輩ですし。
最後まで責任持たないと」
「ウチらのテントに来たの、その人」
「なんかやけに髪長い男だってことしか覚えてないんだけどさ。クソでかい巻き物から実行役を取り出して渡してきたんだよ。
『これで悪さする奴はいなくなった』とかなんとか言って。アンタらに常識はないんですか!」
「そりゃあ、もちろん! なんてったって、あの人は悪名高き喪服の悪魔! その名は色欲ってなくらい、有名ですから」
シェフィ君が得意げに自慢すると、ステラさんが言葉にならない悲鳴を上げる。
悪魔の溜まり場みたいになってるな。
「俺はカイトに魔法をあげて、実行役の居場所を特定した。あとは全部大先輩がやってくれたんです」
裏で暗躍する悪魔か。ケンカを売ったら倍返しされるわけだ。
「俺は君の魔法を見るために来たようなもんなのに、何も見られなかったしマジ最悪すぎる〜。
こうなったら徹底的に叩き潰しましょうよ〜」
「そこなんだよね。話が終わらないからアレなんだけど。
今回の件はマジで笑えないし、誰かが糸を引いてるとしか思えないんだよね」
「それも調べてみるっスわ。
なんか嫌な予感がするし」
「結局、先生は何者なんだ?
あのカメラで守ってくれたのは分かったけどさ」
シェフィ君が背筋を伸ばして、こちらに向き直る。
「初めまして。魔界評議会が一人、『強欲』の悪魔のシェフィールドとは俺のことです。女王エリーゼ亡き今は、異界史を解説する講師をやっております」
「魔界の悪魔ってその名乗り方、好きだよね」
「まあ、俺は大先輩の真似してるだけなんだけどね。俺は楽しくやれてたので何も文句はないし、そのへんはどうでもいいんだけど。
てか、その大先輩見ませんでした? 俺、あの人から情報をもらってさ。
『フィナーレはコレしかないでしょ』ってあの人、それしか言わないし」
「機械音痴の先輩ってそういうことだったんですか」
「そうそう、話すわけにもいかないから黙ってたんだけど。
ステージに仕掛けられた魔法を絵画から聞いたって言ってたんだっけ、あの人」
「絵画?」
「俺もよく分かっていないんですよ。あの人、よく分からないことしかしないから。
なんか公園の休憩スペースにある絵画が変な人たちを見たって言ってたらしくて。
そこから『ガラクタを操る花吹雪を潰す』って単語を聞きだして、その場にいた俺に伝えてきたんですよ」
「あー……それで花澤に繋がる、と?」
「そう、それでえーっとね。話長くなるから、もう本当に端的に言うからね。
あの人曰く、『ガラクタを操る花吹雪を潰す』が魔法を発動する合言葉。
それを設定したのが今回の黒幕的存在であると。
実行役に聞いたところで末端のクズだから、何も知らないだろうって」
「それは信じていいの? どのみち調べないといけないけど」
「いいんじゃないかなあ。あの人、そういう嘘はつかないもん」
そういえば、変な奴がいたな。
ステージの最後のほうに来て、お菓子をステッカーに変えた人がいた。
銀テープを降らせたのもあの人だ。
「その、大先輩ってステラさんが見た人と同じですか。背が高い金髪の男で、なんかリスペクトを込めて私の魔法を貸すとか言ってたんですよ」
「ハァ⁉ お前、まだ魔法を借りてたの⁉ 返してきなさい!」
「あー、なんかいたな。なんか背が高いカッコいい人。
お前の後ろに立ってて、何やってんだろって思ったらいなくなっててさ。
そういや、あの人が来てからだよな。ステッカーになったのって」
シェフィ君が口で手を押さえ、肩を震わせる。
「ウソでしょ? あの人、ステージにいたの?
俺はずっと走り回ってたのに……え、マジで何しに来たの?
魔法を貸すって何? 俺は聞いてないんだけど!」
「そうだ! あの人、『私ですら扱えなかったガラクタ』って言ってた!
てか、名前聞くの忘れてた!」
「あーもう、絶対に本人だって! うわ、マジか。
あの人、ちゃっかり見に行ってたんだ。腹立つ~!
俺に全部押し付けやがって、あのクソが!」
なるほど、リスペクトってそういうことか。
最強の魔法使いですら扱えなかったから、魔法を貸してくれた。
「この場合、魔法って返さなくていいんですか?」
「顔は見てるんでしょ? 今度、どこかで会ったら聞けばいいんじゃない?
まあ、あの人のことだから、気にしなくていいと思うけどね」
「全然よくないです! その人も魔界の悪魔なんでしょ? 何でこんなにいるんですか!」
「それは俺も知らないです。何ででしょうね」
この人たち、何がしたいんだ。
魔界がなくなった後、フリーになったからその分遊んでいるのか?
「その人、アンタに力を貸してくれたの」
モモさんが静かに聞く。
「そういうことじゃないですか、多分」
「よかったじゃん。ちゃんとした魔法で。
アタシも行けば大先輩とやらに会えたのかな」
「かもしれないっスけど。
モモちゃん、すぐケンカ売るからなー。
マジでよくないよ、そういうの」
「それに関してはマジでそう。
余計に仕事が増えてた」
しばらく不毛な言い合いを続けている。
「アンタら帰っていいよ。
どーせ終わらないから」
モモさんに個室から追い出された。
外は陽が傾き始めている。
「長かったな」
「いつもああなの?」
「いや、もっとちゃんとしてるんだけどなー。
てか、あそこまで怒ることなくない?」
「カメラはどうしたんだ?」
「持ってきたに決まってるでしょ。
悪魔があげるって言ってたんだから。
これは俺らのだよ」
「人間より悪魔の言葉を信用するか」
「嘘をつかないからね」
「そりゃそうだ」
そう言って、手を振ってそれぞれ家路についた。
アドベントカレンダー2024 ~無料配布ペーパーが積み重なって短編集になりました編~ 長月瓦礫 @debrisbottle00
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