第41話 暗闇に潜む敵

 別の参加者を捜しながら歩いているが、一向に見つからない。十人の参加者に対してエリアが広いというのもあるが、問題は同行者の瀬名が思ったより足手まといだ。途中で休憩を挟まないと、服は引っ張る大声で喚くで悪目立ちしてしまう。何処に誰がいるか分からない今、集中すべきは目より耳だ。やはり同行を許可するのは誤りだった。




「ちょ、ちょっと響君! 休憩!」




「またか? さっき休憩したばかりだろ」




「ア、アタシは、響君みたいに体力オバケじゃないの!」




「チッ……はぁ、分かった。じゃあそこの木に隠れてろ」




 瀬名は木にもたれかかると、そのままズルズルと姿勢を低くして座り込んだ。いっそ彼女を見捨てて単独行動に切り替えた方が良いのだろうが、それを彼女は見逃さないだろう。彼女はまだ見えない敵よりも、傍にいる俺に集中している。戦力として重視しているのだろうが、こうも身動きが取れないんじゃ、俺も戦力として力を発揮出来ない。




 瀬名が休憩している間、改めて周囲の状況を確認した。木が周りを囲み、地面に浮き出た木の根が所々にある。先の状況を見ようにも、ここから先は木の葉が生い茂る木が並び、差し込んでいた陽光が木の葉に遮られている。




 ここから先は、今以上に音に敏感にならなければならない。その為にも、ここで瀬名に注意した方がいいかもな。




「瀬名。これからの事だが……ん?」




 前方、暗闇に包まれたそこから、何かを感じ取った。具体的に何かは分からないが、その何かは、今にも俺に襲い掛かってくる。俺はわざと全身をさらけ出し、俺を狙う何かが来るのを待った。 




 木の葉の揺れが収まった。その瞬間、反射的に左腕が動いた。俺の左目のすぐ先には、鋭く尖った矢の先。普通の弓矢よりも細い所から察するに、弓で射ったものじゃない。クロスボウだったか。もしそうならば、こうしている間にも既に装填は終わり、狙いを定めている。




「瀬名、ここで待ってろ」




「え? ちょ、ちょっと響君!?」




 木の陰に隠れながら前へと進み、暗闇に包まれた森の中へ侵入した。さっきの場所よりも地面に生えている雑草が伸びているのか、草を踏む音が大きい。僅かな明かりも無い暗闇で視界が悪いが、それは相手も同じ。この状況なら、位置がバレたとしても、そう簡単に矢を射れないはずだ。




 そう思った矢先、鋭い突風が俺のうなじを掠めた。すぐに体勢を低くし、手探りで木を盾にして隠れた。見えないが、さっき俺のうなじを掠めていったのは矢だろう。まさか、あっちからは見えているのか?




 俺は木に隠れながら、周囲の物音に耳を集中させた。頭上の木の葉は陽光を遮る程に密集している、風に吹かれても音はあまりしない。だからこうしてジッとしていれば、敵が草を踏む音が聴こえる。




 聴こえている足音は、今俺が隠れている木の裏側。服が擦れる音から、周囲を警戒しながらこっちへ真っ直ぐ進んできている。




 俺は掴んでいた矢を投げ飛ばし、少し離れた場所で物音を立てた。それに反応して、敵は物音がした方向に体の向きを変え、矢を発射した。次弾の矢をセットし、引く。その間、三秒程。俺が奇襲を仕掛けるには、十分な隙だ。




 木の陰から飛び出し、音がした方向に手を伸ばした。掴んだのは人間の手。手さえ掴めれば、なんとなく人体が想像出来る。腹部に膝蹴りを放ち、えずく声を聞いて顔の位置を確認し、敵の首に腕を回して一気に絞め落とした。首の骨が折れた音と感触がする。




 殺した参加者の足を引きずって瀬名の所に戻ると、瀬名は死体を見て表情を歪ませるどころか、キラキラと瞳を輝かせて拍手をしていた。




「流石流石! 早速一人目だね! それで、彼が使っていた武器はどうしたの?」




「あの暗闇のどっかに落ちてる。絞め落とした時、手から落ちたようだ」




「拾いに行った方がいいんじゃない?」




「いや、俺は射撃が苦手だ。別の方向に進もう。あの暗闇の中に、まだ敵が潜んでいるかもしれない。今回は上手くいったが、次も上手くいくとはかぎらない」




「大丈夫だよ! アタシの目に留まった君なら、きっと次も勝つよ」




「……はいはい。それじゃ休憩終わりな。次に休憩したい時は、もっと静かに教えてくれ」




「はーい!」




 まずは一人目。残る敵は八人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 08:00 予定は変更される可能性があります

俺に彼女はいつ出来ますか? 夢乃間 @jhon_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ