罪人の演劇
第40話 デスゲーム
麻袋・手錠・足枷。指定された場所に行き、案内人を名乗る人物にイベント参加書を渡した瞬間、スタンガンで電流を流し込まれて、気付けば椅子に拘束された状態だ。ルイスに勧められて参加したが、イベント開始前からロクなイベントじゃない事が分かる。
扉が開く音が聴こえると、一人の足音が近付いてくる。顔に被されていた麻袋を取られると、目の前には黒いローブを着た人間が立っていた。顔はガスマスクで隠されていて、目の部分はこちらから見えないように細工されている。
「今から三分後、手錠と足枷が解除されます。自由になったら、外に出てください」
そう言って、ガスマスクの人物は俺に首輪を着けた。
「その首輪はエリア外に出た瞬間に爆破するように作られています。エリアの境界線には目印がありますので、お見逃しなく。それでは、ご健闘を」
ガスマスクの人物は部屋から出ていき、それから三分後、手錠と足枷のロックが解除された。外に出る前に、念の為首輪の状態を確認してみたが、首輪は特殊な金属で出来ている為、強引に外す事は不可能に近い。やろうと思えば外せると思うが、それを想定している場合を考えると、下手に弄らない方が良いだろう。
部屋から外に出ると、そこはジャングルと思える程の自然界だった。見た事も無い木や植物。聞いた事も無い生き物の鳴き声。日本とは違う気温と湿度。気絶している間に、えらい遠い場所まで運ばれたようだ。
さて、これからどうするべきか。外に出るようにと指示を受けたが、肝心の目的が分からない。とりあえず適当に歩き回ってみよう。
暑い。今が七月中旬だとはいえ、この暑さは異常だ。ジメジメとした暑さで、黙っていても体力が減っていく。水も食料も無い状態では、もって三日が限界だろう。天気の変化も考慮すると、二日程か。あまり長居は出来ない。
しばらくあてもなく歩き回っていると、爪で木の皮を削っている変人と出会った。黒髪で平均的な身長と容姿。特徴が無いのが特徴な男だ。
「なぁ、何やってんだ?」
「ッ!? これは僕のだ!!!」
「何がだよ」
すると、男が必死に削っていた木から樹液が溢れ出し、男は夢中になって樹液を吸い始めた。木にしがみつきながら樹液を吸う姿は、まるでカブトムシのよう。それが人間に置き換わるだけで、こうも気味が悪く見えるのか。
対話は絶望的と諦め、別の参加者を探す事にした。他の参加者もあんな虫男のような変人ばかりじゃない事を祈ろう。
真っ直ぐ進み続けていくと、開けた地に出た。周囲の緑色の木とは別の、茶色の落ち葉が地面を覆っている。足で落ち葉をどかしてみると、落ち葉の下には縦に伸びる奇妙な虫が蠢いていた。ムカデのような、ミミズのような。さっきの虫男なら、同じ虫よしみで、これが何の虫か分かったのだろうか。
「あのー」
声がした方へ視線を向けると、なんともナイスなボディをした女子が現れた。金髪ツインテで、ヘソが見える短いシャツに、穴が所々に開いているジーンズ。視線の向き所に困る彼女の姿に、さっきの虫男の存在など記憶から抜け落ちた。
「あー、やっぱり! アナタ、相馬響君でしょ!」
「何処かで会ったか?」
「君は学年問わずの有名人だよ。今時珍しい真っ当なヤンキーとしてね」
記憶を失う前の俺はどんな事をしたんだ? 日に日に記憶が戻ってきているが、完全とは言えない。だから、彼女が言う真っ当なヤンキーとして振る舞った記憶は、今の俺には無い。
「ねぇねぇ! アタシ一人で心細かったの~! アナタが一緒にいてくれると安心するな~!」
「いや、俺は―――」
「お願~い」
彼女は俺の腕に抱き着くと、その自慢なボディをこれでもかと腕に押し付けてきた。なるほど、これがハニートラップというやつか。あいにく、俺は以前の俺よりは賢いと自負している。こんな見え透いた誘惑に屈する訳ない。
「よし、一緒に行こう」
「やった~! アタシ、飯島瀬名って言うの! 瀬名って呼んで! これからよろしく、響君!」
いや、まぁ……男なんだから仕方ない。ここまであからさまに誘惑されて、無下にするのも男らしくないというか。それに、同行者が一人出来たのは双方にとってメリットだ。まだ何をするのか分からない現状で、誰か傍にいるのは心強い。そういう事にしておこう。
瀬名と共に行動するようになったが、依然として目的が分からないままだ。一旦歩き回るのを止め、葉が多い木の下で待機する事にした。瀬名がシャツの襟を引っ張って空気を外に放出する際に、シャツの中身が見えてしまった。俺の見間違えでなければ、下着の類が無かったような気がする。
「暑いね~。いつまで放置されるのかな?」
「瀬名も何も聞かされなかったのか?」
「うん。エリアの外に出たら首輪が爆発する事しか。単位が免除されるって話、嘘なのかな~? 不真面目な生徒を減らす為に、ここで餓死させるつもりかも」
「それが目的なら、こんな回りくどい真似はしないだろ。おそらく、何らかの方法でルールが通達されるはずだ。それに、気付いているか? さっきから俺達、何処かから監視されている」
「監視!? 全然気付かなかったよ!」
「確信したのはさっきだが、間違いない。位置は特定出来ないが、俺達の姿を離さず捉えている」
頭上、周囲、地面。ありとあらゆる場所から視線を感じる。人の目というダイレクトな視線ではなく、何かを介しての視線。どこの誰かは知らんが、覗き見をするなんて悪趣味な奴だ。
木の下で立ち止まったままでいると、サイレンが鳴り響いた。イベントの主催者が、ようやく開始する気になったらしい。
『十名の参加者様に通達します。只今より、単位争奪戦を開始いたします。ルールは簡単。エリア内にいる参加者を殺し、生き残った二名に次の学期へ進める単位を与えます。また、エリア内には役立つアイテムが隠されております。是非、ご活用くださいませ。皆様のご活躍に期待しております』
アナウンスが終わると、テレビ番組でよく聞くような拍手喝采の音源が流れていった。本当に悪趣味な奴だ。
「殺し合いか~。なら、ウチらは勝ったも同然だね! 響君がいるもん!」
「俺が手を汚す前提かよ」
「だってアタシ~、か弱い女の子だも~ん。その代わり……後で一杯ご褒美をあげるからね」
「……なら、頑張って皆殺しにするか」
「アハッ! そうこなくっちゃ!」
敵は九人。素手なら負ける気はしないが、隠されているアイテムによっては傷を負う可能性がある。手数を増やされる前に、速攻で終わらせる。
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