ChatGPTはゴーストライター

夕日ゆうや

末路

「あー。文章考えるの、めんどくさ」

 パソコンと向き合いながら、かれこれ一時間は経過している。

 それでも言葉は何一つ思い浮かばない。

 これはいよいよスランプか。

 まあオレほどの作家になるとそんなこともあるか。

 だって未来の日本を代表する作家だし? これからWEB小説でバンバン書籍化されていく将来有望な作家だし?

 この小説の一話を公開すれば、一瞬で百万PVがつく予定だし?

 余裕のよっちゃんだな。

 未来を想像しくつくつと笑う。

 SNSをながら見しているとAIの描いたイラストが視界に入る

「そういえばchat GPT ってあったな……」

 それはちょっとした思いつきだった。

「小説の続き考えてもらおう」

 カタカタとキーボードを打鍵する音が狭い室内に木霊する。

 自分の思いついたストーリーの文章を書いてもらう。

「おお! 想像以上に面白いじゃないか!」

 やっぱオレって天才~!

 これをコピペして……。

「張り付けっと!」

 タイトルは『ひ弱な僕が異世界行ったら、オタク知識で無双伝説を残す。母ちゃんと姉ちゃん、妹を弟子にしましたが、エッチィことはまだ先のようです。 ~異世界でもHなこと考えます~』だ。略称は『ひ弱H』とする。

 公開はいつにするか。

「まあ、いいか」

 すぐに投稿しよう。

 それから夕飯だ。

 いやー。すぐにPVが一億とかいくんじゃないか?

 思わずニヤけづらになる。

 ローストビーフ丼を食べながらPVの数を見る。

「おお! 三十分で三万PV! いける!」

 さすがChatGPTだ。

 まあ、オレの基礎がなければこうはいかないよな。

《すごく面白いです! 続き楽しみにしています!》

「コメントもすごく嬉しいな!」

 オレは丁寧にコメントを返していく。


 そのあとも『ひ弱H』は人気になり、一週間で二億PVを突破。

 すぐに編集部から連絡があり、書籍化の流れに移行した。

 ちなみにWEB小説での完成度が高すぎて編集部はそのまま出版すると言い出して聞かなかった。


「いや~、人気作家つらいっす」

 一巻の発売と同時に重版。

 発売から二か月で百万部を突破し、そのあとも右肩上がり。

 すぐに二巻の打診がきた。

「またChatGPTに任せるか」

 大まかなストーリーとキャラを書いて、あとはAIに任せるだけの簡単な仕事。

 いや、小説家ってマジ楽な職業っすわー。

 印税だけで一生食っていける。

 そんなことを考えていると、編集部から電話が来る。

「もしもし?」

「ああ。〝鬼神きじん〟さん、良かった。つながった」

「なんの用? 締め切りはまだだよね?」

「すみません。実はアニメ化の依頼が来ているのです」

「アニメ化!?」

 それは小説家なら一度は夢見る目標の一つだ。

 まあ、オレの実力なら当然か。

「分かった。でオレは何をすればいいんだ?」

「はい。まずはアニメ化に必要な巻数をお願いします。まずは三巻まで」

「ふむ。三巻まで書けばいいんだな?」

「あと、特典でつける諸々のショートストーリーを書いてください。締め切りは来週中です。データで送ります」

「了解~」

 まあ、楽勝だな。

 電話を終えたあと、オレはメールをチェックする。

 いくつか候補に挙がったショートストーリーをChatGPTに打ち込む。

 返ってきた文章をそのまま、コピペする。

 締め切りには間に合った。

 むしろ暇すぎるくらいだ。

「暇だ」

 ベッドでゴロゴロしながらエゴサする。

 オレの作品の感想を見ているだけでニヤニヤする。

「ん?」

『これってマホマジの三巻と似てね?』

 そんな指摘がちらほら見えてくる。

「何言っているんだ? こいつ。オレの実力に嫉妬してんのか?」

 オレはそのコメントを残した奴にコメントをする。

「お前は脳みそ腐っているのか? よく見ろ。オレ様の方が完璧で、面白いだろ? てめーのウジ虫の沸いた頭じゃ理解できねーかもな!」

 そんな内容を送ってみると、一瞬凍り付いたSNS。

 そのあと、すぐに炎上。オレのことを罵る言葉が乱雑する。


 すぐに編集部から電話がかかってくる。

「オレ何かやっちゃいましたか?」

「当たり前です。すぐに投稿を削除して謝ってください」

「はっ。なんでオレが」

「すぐにしてください。じゃないと、編集部もあなたを庇いきれません」

「おいおい。嘘だろ? そんなわけねーだろ。悪いのはあっちだぞ?」

「すぐに! です!!」

 大人の本気で怒る声が耳朶を打つ。

「ちっ。分かったよ」

 オレはSNSを開いて当該のコメントを削除する。

 すると、さらに炎上が広がりあちこちでネガティブなコメントが散見できるようになった。

「なんだよ。こいつら」


《これって9&Sのパクリじゃね?》

《こっちはどや変だぞ?》

《ああ。これってすべて引用しているんだな。それも有名作のばっか》


「は? 何言ってんの? オレ様の考えた最高作だぞ?」


《こいつ全部、他人のまねごとしかしてねーな》

《見ろよ。設定まで一緒だぞ》

《青き双眸を涙でぬらした。その龍垓りゅうがいは絶望した。》

《全くのパクリだな》


「ふざけんな! オレの作品だぞ!」

 編集部からまた電話がかかってきた。

「すみません。削除するのが遅すぎたようです」

「は。何言って――」

「あなたとの契約は打ち切ります。契約時にお話しましたね? 社会的責任はとって頂きます」

「バカなことを言うな。オレが一番の稼ぎ柱だろ?」

「本の返品と、アニメ化の打ち切り。コミカライズの担当Meミーも被害を受けています。このままでは会社が破綻します」

「そんなわけねーだろ。ただ一人の妄想だけで終わるはずがねーだろ!」

「妄想ではありません。現実です。それから執筆にAIを用いているという噂もありますが?」

「それくらいいいだろ? AIなんて使わなきゃ損だろ。道具なんだし」

「そういう問題ではありません。とにかく、こちらとしてはあなたへの告訴を行う予定です」

「こくそ?」

 まともに勉強もしてきていないオレにはなじみのない言葉だった。

 全てが面倒で学校もろくに行っていない。

「これで失礼します」

 一方的に切り上げる編集部。

「なんだよ。たくっ」

 まあ印税が入るから問題ないが。


《〝鬼神〟の作者、港区に住んでいるらしいぜw》

《マジか。めっちゃ訴えられているものな》

《ははは。バカはどこまでもバカだよな》


「ふざけんな。てめーらよりはまともだよ」

 オレはコメントを書き込む。


 数ヶ月後。

 社会的信用を著しく傷つけた編集部との裁判があった。

 そのあと著作権の侵害を訴える作家との裁判があった。

 さらに精神的苦痛を味わったとするSNSとの裁判があった。


 オレは今回の事件で知った。

 今まで楽をしてきた分、オレは制裁を受けるのだと。

 弁護士すらもろくに相手をしてくれない日々が続いた。

 これはコミュニケーションやAI活用といった日頃の努力を怠った結果だ。

 オレは小説『ひ弱H』の権利の剥奪と、罰金刑により全財産を失い、ついでに特定班により家を追われることとなった。

 すべてを失ったオレは生活保護を申請したが、まだ働けると見なされ、それも叶わなかった。


 その後、〝鬼神〟という作家がどこでどうしているのかという話題は上がることなく、その存在はみなの記憶から抹消されていくのだった。


 今、彼がどこで何をしているのか、誰にも分からない。

 ただ一つ言えることはAIは人の過去禄から書いている。もし人の遍歴がなければ、物語を接ぐこともできない。

 人の代わりなどできやしないのだ。


 AIの時代は終わっているのだった。

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