狼の神

狼の神

 みるみる麗華の表情が暗くなっていく。


「その、カイさんとケイさんが……」


「カイが暴走した。ケイは重症、現在遥先輩が応戦中。」


その時、例の夢が頭をよぎる。

地べたに倒れるケイとそれを見つめるカイ。そして、目からハイライトが消えた遥が倒れているカット。

このまま行くと……

僕はすぐにその場から駆け出した。


「遥先輩がもう厳しいそうで……海野さんに協力を仰ぎたい」


「もう向かいましたよ。」


麗華がそう言った時、電話の向こう側から海野の声が聞こえた。




事務所付近

 事務所付近は建物が倒壊し、そこに立っていたのは遥と、カイによく似た背格好の、白髪、犬耳を持った少女。

彼女の後ろには大きな天秤のようなものが浮いていた。


「海野さん、あれがカイ。いや、カイだったもの。すぐに攻撃して。」


「わかった。」


「ごめんね。カイ。」


それまで走って来た勢いを利用しながら、カイだったものに飛び蹴りを入れる。今回も例のごとく、蹴りは何かに阻まれ、届かない。すぐにアイテムボックスから刀を取り出し、切り掛かる。

すると、向こうも


「『顕現 篩の天秤』」


手に武器を出現させ、僕の剣を受けた。その武器は天秤というよりも、最早剣であった。

2本の剣が擦れて火花が飛び散る。

僕は剣に込める力を少し強くする。


「『魂の審判』」


カイだったものが呟く。何かの呪文だろうか。何か派手なエフェクトが出る訳でも無い。


「『魂の審判』が通じない……」


「それより君は誰なんだ?」


「ボクは、『命を刈り取る者』。アヌビス。」


「そっか。アヌビス。一度カイに戻ってくれない?」


「それは……出来ない相談。それよりも、あなた……もしかして『外』から来た?」


「ごめん。質問の意味がわからない。」


「この『世界』の魂のリストにない。さっきの『魂の審判』が通じなかったのもそれ。」


「一から説明してくれない?僕、頭悪いから分かんねえわ。」


少し苛立ちを覚える。時間が惜しい。いつ夢のような状況になるかわからない。とにかく原因になり得る要素を潰さないと。


「『外』から来た人は嫌いなんだボク。」


僕は接近右手を刀から離して懐に忍ばせていたハンドガンを取り出し、アヌビスに発砲した。

球は何故かアヌビスの前に行くと不自然な軌道を描いて逸れた。


「でも、あなたではボクには敵わない。」


「今の奥の手だったんだけどなー……遥手伝ってくれるかい?」


僕は後ろにいる遥に対してそう頼んだ後、遥から貰った刀をアイテムボックスにしまい、2本の短刀を取り出した。


「それじゃあ、久々にこれ使うか……」


『天道流 二刀小太刀』








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格闘技術縛りで最強になる(予定)のダンジョン配信者 海野源 @gen39

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