お次の紅茶は再開の時に
瑠栄
クリスマスイブ
『もうすぐ終点・三島空港、三島空港でございます。ご乗車ありがとうございました。お下りの際は、お忘れ物や落とし物ございませんようにご注意ください』
「!?」
バスの聞き慣れたアナウンスで起き、慌てて荷物を整理する。
いけない、もう午前三時だからか眠過ぎて寝落ちしてしまっていた。
バスが停車して扉が開くと、バスの乗客数人が立ち上がりだした。
俺は1番前の席に座っていた為、全員が通り過ぎるのを待ってから席を立つ。
"ピッ"
「ご乗車ありがとうございました」
「どうも」
俺が降りると同時に、バスのドアが閉まり走り出す。
バスの運転手さんも大変だなぁ。
…なんて呑気な事を思いながら、息を吐く。
寒さで真っ白な息が空気に消え、星が瞬く冬の空を見上げる。
遠くの方から飛行機が一機、こちらへ飛んできている。
あいつが乗ってるの、あの飛行機かな。
"ピロンッ"
「おっ」
景気の良い着信音に反応し、スマホを開くと何ともタイミングよくあいつからのLINEだった。
【そろそろ着きそー。そっちは、どう??】
相変わらず軽い文章に、少々呆れながらも笑った。
あいつらしくて、ほっとした。
【今着いた。寒いから、マフラーでもして来いよ】
【持ってないよ!?】
【何でだよ、持って来いって言ったのに】
【数年もあっちいたんだから、忘れちゃってもしょうがないじゃん!!あんた、マフラー持ってる??】
【持ってる】
【じゃあいいや】
【何が】
【あんたからかっさらう】
【ふざけんなよw】
スマホ上ではそう言いつつも、しっかりあいつの分の防寒具まで持って来てる。
(忘れてんだろーな)と思ってたら、案の定だった。
【土産は?】
【激辛お菓子】
【わかってやってんな】
【うそうそ、チョコ】
【っしゃあ!!!】
【甘党が】
【るっさいな、このまま帰るぞ】
【土産渡さんぞ】
【卑怯過ぎんか】
【等価交換だ。大人しく待ってろい。あ、そろそろ着くわ。また後で~】
【またな~、帰るから】
【帰ったら許さん】
【待ってます】
【よろしい。じゃ、ロビーでね~】
【へーい】
スマホをしまい、もう一度空を見上げる。
今日はクリスマスイブ。
あいつも、それをわかっててこの日に帰って来たんだろう。
本来なら、2週間後に帰国予定だったのに。
まあいい。
家はクリスマス仕様に飾り付けしてあるし、ケーキも焼いた。
あいつの好きな紅茶の葉も買ってきておいたし、パーティーの準備万端無問題。
2年と8カ月ぶりの再会。
その期間、俺は大好きな紅茶を飲んでない。
紅茶ってのは、あいつと飲むのが美味いんだから。
肌が凍るような寒さに軽く身震いしながら、空港のロビーへ足を向ける。
帰ったら、いの一番に温かい紅茶を淹れてやろう。
―――――あいつが大好きなレモンも入れて。
お次の紅茶は再開の時に 瑠栄 @kafecocoa
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