第4話 今夜は二人だけで side文乃

 世間話をしているうちに、イルミネーションの行われている公園に着いた。

 定番のクリスマスツリーからイルミネーションで飾られた大きな観覧車や動物の大きな模型まである。


 まるで現実じゃないみたいだ。


「綺麗だね」

「うん……そうだね」


 礼の声が少し沈んでいるように聞こえる。

 横を見てみると、ぎゅっと眉をひそめている横顔があった。


 それでも、手は繋がれたまま。

 私は右手にそっと力を込めて、握り返す。


 楽しくないのかななんて思ってしまったら、失礼だし。


 生まれた不安を、心の奥底に押し込めた。




 イルミネーションもだいたい回って、そろそろ帰ろうかと話していた。


 今日会ってからずっと、礼の様子が少し変だなと思っていた。

 なんだか、心ここに在らずという感じ。


 なにかあったのかと、考えずにはいられなかった。


 私は、礼の悩みの力になれない。

 やっぱり私たちは“幼なじみ”の枠を抜けられない……のかも。



 礼に、帰る道で少し公園に寄ろうと言われた。

 誰もいない公園。


 月と星だけが地面を照らしていた。


「もっと、こっち来て」


 手招きされて、離していた距離を縮められてしまった。


「……なに?」

「ん、えっと……」


 私がそう尋ねても、曖昧な返事。

 なんだかそわそわしている礼は、コートに手を突っ込む。


「え……礼?」


 まさか……まって、別れ話なのだろうか。


 “幼なじみ”に戻ろう。


 と言われるところが想像できてしまって、胸がぎゅっとなった。


「……礼」

「文乃」


 名前を呼ぶ声が被って、目が合う。


「あのね、文乃」


 礼が私に一歩近づき、コートのポケットに入っていた右手を取り出した。



「クリスマスおめでとう、文乃」


「え……っ」



 右手に乗っかっていたのは、ちょうど手のひらくらいの箱だった。

 そっと受けとると、軽くて、でも私の手からは少しはみ出していた。


「プレゼント。開けてみて」


 言われたとおりに斜めに結ばれたリボンをほどいて、箱を開けてみる。



「……うっ」


 胸の奥からなにかがこみ上げてくるのが分かった。



「文乃に似合うのを、選んできたつもりなんだけど……」


 箱の中のクッションの上に乗っているのは、星がワンポイントになっているネックレスだった。

 クリスマスツリーの一番上に乗っている……ううん、それよりも輝いている星だ。


「これ渡すのに緊張して。……ごめん、今日、変だったよね」

「ううん。でもそれより、私、なにも用意してないっ」


 頭に重みを感じた。


「いいよ。文乃がそばにいてくれるだけで、僕は幸せだから」


 礼が私の頭をゆっくりと撫でてくれる。


「……っ」


 なんで別れ話なんて疑っちゃったんだろう。

 そんな私が情けない。



「文乃。大好きだよ」

「わっ、私も……ごめんね。大好き」



 そのあと、なんで謝るのって笑われてしまった。



 —————————―――――――――――――――――――



 数日後、クリスマスのときのことを礼に話した。


 そしたら、「別れたりしない。それはもちろん、文乃のことが大好きだから」

 って言ってくれた。まあそのあと、自分で照れてたけど。



 —―――私も大好き、礼。


 胸元では、星がきらきらと瞬いていた。

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聖夜の星たち 桜田実里 @sakuradaminori0223

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