オタサーの王子化まであと一日。
「あ、そっか。ここはここにしか掛からないから、文章を前後させた方がいいんだ」
「うん、そうだと思う」
「流石、伊安くんねえ〜。お姉さん、頼りにしてるわ〜」
「いやいや、ただの誤字修正くらいしか役に立ってないよ」
「そんなことないよ。偉い九九くんには、はい。アダルトポップキャンディーあげるね」
「なぜに、アダルト? あれ、包み剥がすのに手こずりそうなのに、簡単に外れたけど」
「気にしない気にしない、あーん」
と口に突っ込まれると、表面のざらざらがない気がしたが気にしないことにする。
「ね〜え〜、九九くん。私も構ってよぉ〜。構ってくれなきゃ、私寂しくて何するかわかんないよ?」
「何するの?」
「こんな見た目だよ、わからない?」
「莉央さんに限っては」
「じゃあ教えてあげるけど、私構ってくれないと拗ねて一人でゲームする」
「やっぱり至極真っ当なんだよなあ」
なんて会話が行われているのは日曜日の文芸部室。あくまで部活動なので休日にでも活動はあって皆それぞれ執筆作業をしていた。
集中する時間があって息抜きの時間で、今は雑談に花が咲いている。やや息抜きの時間が多すぎるきらいはあるが、それも文芸部に打ち解けたことに要因があるので悪くないかもしれない。
「……私、お昼買ってくる」
すっと見張りに群れを離れる狼みたいな感じで鳴川さんが部室から出て行った。
「あ、俺も行こうか? 荷物持ちとかやれるし」
「……いい、一人で買ってくる」
追いかけて声をかけたが、冷たくあしらわれてしまった。
部室に戻りながら、鳴川さんのことを思う。
二人とは仲良くなれたけど、まだ打ち解けられないんだよなあ。
手塚さんと仲良くなってから水木金土と過ごしたが、関係は全く変わっていない。最初と距離感は同じのままだ。
うーん、やっぱ歓迎されていないよな。このままだと、気まずくなって退部するかも。
手塚さんも莉央さんも文芸部員を大切に思っている以上、退部して仕舞えば伴って解散ということになりかねない。
会長的には目論み通りでいいのだろうけど、俺が原因なのはやはり罪悪感が湧く。
仲良くなるために行動しよう。
とはいえ、ここ数日何もしていなかったわけではなく、あらゆるアプローチを試してはみた。だが手から鰻が抜けていくようにするりと逃げていくのだ。全くもって解決の糸口が見えない。
一体どうしたものか、と文芸部室の扉を開ける。
「あ、帰ってきた。もーう、九九くん。私と離れる寂しさに耐えられなかったんだぁ〜きゃあ〜」
「それもあるけど、鳴川さんに断られちゃって」
「あーまあ、そうでしょうね。来春ならきっと断ると思うわ」
「うん。来春が男子と二人、なんて状況耐えられるわけがないし」
莉央さんの言葉に引っかかって尋ねる。
「鳴川さんって男子が苦手なの」
「うん、まあそうね。苦手だとは思うわ」
「育ってきた環境が環境だからね。小中女子校。高校で初めての共学だし」
なるほど、男嫌いになるのも頷ける。女性ばかりの環境で育てば、男の粗野な部分に冷たくなっても仕方ない。
これはまあ、もうどうしようもない問題ではあるけれど、そう言ってばかりではいられないよな。
「どうにか仲良くなれないかな」
「仲良くならなくていいわよ。来春の分まで私がお話してあげるわ」
「そうそ。私がいれば十分でしょ、九九くん」
「そういうわけにはいかないよ。鳴川さんと不仲のままなら、俺は文芸部を抜けた方がいいだろうし」
サークラにならないように、と俺は言ったが、二人は慌てて手をわちゃわちゃさせる。
「ダメダメ!! 九九くんがいなくなったら耐えられない!」
「そうよ! 伊安君にはもっと私を支えてくれないと」
こいつら本当に初日と同じ人間か?
なんて呆れにも似た感情を覚えたが、気にしないことにしてアイデアを募ることにする。
「俺も文芸部にはいたいけどさあ、気まずさが続けば鳴川さんが退部するだろうし。何か鳴川さんと仲良くするいい案ないかな?」
「何だ、来春のことを思って退部って言い出したんだ。私が来春のいる文芸部を大切にしてると知ってて……やっぱり優しくてハオ」
「伊安君は私を支える延長で来春のことを気にかけてくれてるのね、ありがとう。別にそう深刻に考えないでもいいと思うわ」
自分のために、とすり替えてはいるが、そこはともかく二人は軽い反応。まるで退部の心配はないと言っているみたいだ。
「じゃあ九九君と午後に二人きりにしてあげるから、そこで趣味の話でも振ればいいと思う」
「そうね。それが一番手っ取り早いわね」
二人は簡単にそう言うが、今まで会話は避けられている。そんなことで仲良くなれるとは信じ難い。
「そんなんで大丈夫かなあ」
「大丈夫、大丈夫。じゃっ私らは近くのファミレスでランチしてくるから」
「フライドポテト食べましょう。今日はきっちり二等分にできて嬉しいわ」
「あはは、来春はめちゃ食うからね。割り勘の値段一緒は気に食わんよね〜」
なんて不安がる俺を置いて、二人は文芸部室から去って行った。
激重女子ばかりのオタサーの王子になってしまった…… ひつじ @kitatu
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