オタサーの王子化まであと4日


「凄い! 凄い! 昨日投稿したばかりなのに、もう10人もフォローしてくれる人がいるよ!!」


 文芸部にくると、目を輝かせた手塚さんが手をとってぴょんぴょんと跳ねた。


「伊安君のアドバイスのおかげだよ! すっごく嬉しい!」


「そんなことないよ、手塚さんが頑張ったからだよ」


「ううん! 伊安君のおかげだよ! 本当にいいアドバイスだった!」


 そうは言われても大したことはしていない。


 昨日のことを振り返る。


 ***


「キャラを描くのはやめよう」


 ええ!? と目を丸くする手塚さんに説明する。


「アニメや漫画のキャラクターに親近感が湧くって言ってたよね?」


「えっと、それはうん」


「そんな手塚さんがキャラって言い切るような登場人物を書けば、普通の読者には理解が追いつかないと思う」


 俺は好きだけれど、最近は二次元より現実に寄せたキャラクターの方が人気を博している。ただでさえ、そういう風潮があるのに、手塚さんの作品のキャラクターはぶっ飛びすぎているので、読者に受け入れられないと思う。


「そう、かな?」


「うん。あと流行には乗ろう」


「流行?」


「そう。ランキングを見て勉強したけど、流行りのお話にパターンは限られてる。ざまあだったり、異世界転生だったり、スローライフだったりね」


「私も好きだけど、でもオリジナリティがなくないかな?」


「内容でオリジナリティを出せばいいと思う。無双するためのスキルだったりにね」


 手塚さんは渋い顔をした。


「うーん、でも異世界転生とか、ざまあ、か……あまり得意じゃないわ」


「別に嫌々書く必要はないと思う。嫌々書いてたら楽しく読んでくれる読者に失礼だし、楽しんで書けるかつ流行のジャンルを選んで、その中で好きなことしたらいいと思う。結果、オリジナリティが出るしね」


「簡単に言ってくれるわねえ」


「でも難しくはないと思うよ」


 しばらく手塚さんは悩んだ後、天使スマイルを浮かべた。


「わかった! やってみる! 伊安君ありがとう!」


 ***


 なんてことで昨日は終わり、早速書いて投稿したらしい。


 それが順調ならこの上ないが、大したことは言ってないので若干気まずさがある。


「伊安くん、早速で申し訳ないけど、書いた作品を読んでくれない?」


 手塚さんに手を引かれ、ノートパソコンの前まで牽引された。


 俺は着席し、マウスを操作して新しく投稿された小説を読む。


 投稿されていたのは現代ファンタジーの実力を隠していた主人公が成り上がる俺tuee系。昨日読んでいた作品とは違い、キャラがまともなのでストーリーも伴ってまともになっている。だけど、キャラが立っていないわけでもなく、手塚さんらしさが薄まったことで濃いキャラと受け入れられるくらいになっていて、正直魅力的だ。


「どうかな?」


 一話スクロールし終えると、誉められ待ちの子供みたいに目をキラキラさせた手塚さんに感想を求められた。


「うん、面白かったよ。更新し続ければ、もしかしたら人気になるかも」


「ええ!? これ以上人気に!? 10人に読んでもらえるって相当だけど!?」


「うん、相当だし、十分満足だと思うけど、学園祭に呼ぶならもっと人を集めないといけないしね」


「そうね! ……ってあ」


 ベルマーク赤い点がついた。カクヨムでは何かお知らせがあるとここに赤い点がつく仕様になっている。


「もしかして、いいね、してくれた人がいるのかな?」


「本当!? 見ていいかな!?」


 マウスを渡すと、手塚さんは早速ベルマークを押す。すると、エピソードに応援コメントが届いています、という表記と、その応援コメントが表示された。


『めちゃくちゃ面白そうです! 今後に期待!』


 おぉ。好意的なコメントが届いて、なぜか俺も嬉しい。


 手塚さんは、と窺うと固まっていた。


 目は潤み、きらり、と輝く。


 大好きな小説。自分の小説を楽しんでくれる人を見つけた時の喜びは、俺にはわからない。だけど手塚さんが感動するほど喜んでいることはわかった。


「ありがとうね、伊安くん」


「本当に俺は大したことしてないし」


「ううん。ありがとう」


「じゃあどういたしまして。それで、文芸部には置いてくれる気になった? これからも創作の助けになりたいと思うんだけど」


「なったよ……でもいいの?」


「いいって何が?」


「私、ライトノベルのキャラなんじゃないかって言ったよね?」


「うん、聞いた」


「知ってる、伊安くん?」


 と手塚さんは潤んだ桜色の唇を耳にそっと寄せてきた。


「現実ありえないけど、ラノベのヒロインは助けてくれた男の子に惚れるもんだよ」


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