オタサーの王子化まであと5日


「じゃあ無理ですって何!?」


「そのままの通りです。作品を貶すわけではないんですが、100%読者がつきませんよ」


「ひゃくぱー?」


「ひゃくぱー」


 がくん、と項垂れた手塚さん。漫画みたいな反応するなあ。


「諦めて、インスタとかで人集めしません? 今思いついたけど、読書喫茶って形で出店すれば文芸部の活動になると思うし、入賞も狙えると思うんだけど?」


「ズルいからダメ!」


「そうは言ってもなあ……うん1ヶ月以内は無理。人気にする以外で考えてみない?」


「う、うぅ……でも、創作サポートするって! ついさっきまで、俺の価値を認めさせてやるって息巻いてたじゃない! あまりにも折れるのが早すぎないかしら!?」


「そのレベルで酷いよ」


「伊安君も言ってること酷いよ!」


 たしかに、それはそう。言葉を選ばなすぎた。


 ただ賞を取るには方向性を考えなければならない。


「ごめん、言いすぎた。まあでも、このまま続けても文芸部がなくなるのは避けられないよ。いいの?」


「それだけは絶対に嫌。文芸部がなくなったら私、居場所がなくなっちゃうわ」


 強い言葉に文芸部への思い入れを感じる。でもどうしてそこまで拘るのかは、全くもって理解できない。


 文芸部存続に向けて活動する以上、一度聞いてみた方がいいかも。


「手塚さんはさ、どうしてそこまで文芸部にこだわるの? 別に綺麗だし、たしか料理も上手だし、皆から愛されてるしで、居場所がないなんてことあり得ないと思うけど?」


 手塚さんは首を振った。


「そんなことないわよ。私には文芸部しかない」


「どうして?」


「私ね、アニメや漫画、ライトノベルやゲームが好きなオタク女子なの」


 意外。学園の天使と呼ばれる手塚さんが、オタク女子なんて。


 とは思わない。ここ数日の活動を見てオタク女子だとは気づいていた。上の世代はオタク文化に親しむ人に固定概念を抱いているようだけど、別に儂等学生はそういうのがまったくないので、学園の天使がオタクなんて、とも思わない。


 だけど、しっとりと告げてきたので「そうなんだ」と相槌を打った。


「うん。それでね、いろんなライトノベルやアニメを見ているうちに、私は思うことがあったの」


「何を思ったの?」


「私って、ライトノベルのキャラなのかもって」


「いやそんな筈ないでしょ」


「でも私のエピソードを聞いて断言できる?」


「断言できるよ。聞かせて」


「私、遅刻しそうになったら食パン咥えて走るし、ぐるぐるメガネはずしたら美少女だし、語尾に『わよ』とか『わね』とか普通に使うし、中学の時に創作料理のグランプリとか凄いことしてるし、オタクに優しいギャルだし、現実ダサすぎる学園の天使様とかセンスないあだ名で呼ばれてるし、アニメキャラみたいなエッチなスタイルしてるし、おっぱいだけでアレだし、何なら多分処女でもイ……」


「断言する! 違うよ!!」


 色々と怖くなって俺はきっぱりと言った。


「あはは、そう真剣にならなくてもわかってるわ。でもね、やっぱり二次元のキャラに親近感が湧くし愛着があるから、キャラクターを小説で描くのが楽しくて仕方ないの」


「それでこれからもキャラクターを描き続けられる文芸部にいたいってこと?」


「違うよ。私みたいに二次元でしか見たことないような女が二人もいるから、ここにいると気が楽なの。ああ二人に比べれば私は普通だなあって」


 やっぱり廃部にした方がいいかもしれない。


「ま、それに、文芸部の大好きな二人と大好きな小説を頑張る時間はすっごく楽しいしね。文芸部は廃部にしたくないよ」


「そっか」


「ええ。だからお願い、見捨てないで。大好きな文芸部と大好きな小説の両方を頑張れるwebで人気を獲るって方法を頑張りたいの」


 いつの間にか立場が逆転していたので、立場的に頷くより他にないにも関わらず、それにかこつけて俺は上から言った。


「わかったよ」


「伊安君、ありがとう!」


 学園の天使様に相応しい可憐な笑顔を見て、多少バツが悪くなったが気にせず続ける。


「うん。難しいと思うけど、話しているうちに無理じゃないかも、とは思ってきたし」


「え!?」


「少なくとも今よりは絶対に人気にできるよ」


 そう言うと、手塚さんは目をきらめかせた。


「ほ、本当に!? どうしたらいいの!?」


 前のめりにくる手塚さんに俺は言った。


「キャラを描くのをやめよう」

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