第7話 揉め事はヒーローの通り道!?

「ご、ごめんなさい。私、そういうのは………」

「そうか。なら今日は諦めよう」


 以外にも、あっさりと手を引くディー。

 しかしその言い方に違和感を感じた礼紋が訊ねる。


「あの、明日もう一度プロポーズすれば大丈夫、とか思ってない?」

「?あぁ、そうだが?」

「いやダメだからね!?何か問題でも、みたいな顔してるけどさ!」


 首を傾げるディーに、礼紋が叫ぶ。

 モモを含む全員が同意するように頷くが、ディーはまるで気にする様子が無い。


「俺様は俺様のルールに従う。例え―――そういえば、名前を聞いていなかったな。お前、名前は?」

「も、桃園モモ、ですけど………。あの、名前も知らなかった人に告白、それもプロポーズだなんて……ひ、非常識だと思います!」

「カガヤーク王国には『一目惚れ』という言葉がある。おとぎ話や英雄譚で度々耳にする言葉だが………その意味は、名前も知らない、初めて会ったばかりの相手と恋に落ちる事で」

「全く同じ言葉がこの世界にもあります!!でも、それとこれとは違いますから!!」


 本気で迷惑そうに拒絶するモモだが、ディーは「やれやれ、困った女だ」とどこ吹く風。

 それどころか、断固として拒絶する態度に、さらに燃え上がっている様子だ。


 どうしたものか、と頭を抱えたその時、幸か不幸か、怪人出現の警報が鳴り響く。


 唯一警報の意味を知らないディーも、彼らが表情を引き締めて厨房を飛び出して行く姿を見て、何となく察し、一緒になって駆け出した。













「シャーワシャワシャワ!このシャワージャビル様に続けぇい!」

「ジャコー!」

「ジャッ、ジャッ!」


 シャワーヘッドを頭の代わりに生やした怪人が、無差別に水を撒く。

 水が触れたモノは、建物でも、車でも、人でも、皆溶けて、流れてしまう。


 駆け付けたソルジャーズは眼前の惨劇に顔を顰め、シャワージャビルに切っ先を向ける。


「やめろッ!シャワージャビル!」

「シャワシャワシャワ!言ったろうイッペソーツ達!先んじて名乗っておけば、怪人の名前を必ず一度は間違えると噂のレッドでも、間違える事は無いのだ!」

「聞いてないっぽいね………。なら、こっちも会話は無しでやっちゃおう!」

「聞いてないというか、随分関係ない話をしてた気が」

「「「「「剣気解放!!」」」」」

「あっ、それはスルーなんですね」

『ZASTERDRIVER………!!』


 絶夢の言葉を遮るように、一斉に錠前に鍵を差し込み、変身する五人。

 慌ててドライバーを装着する絶夢を、ディーが鼻で嗤う。


「おいおい、弛んでるな。―――というか、お前だけなんか違くないか?」

『『レッツ!シャイニング!!』』

「………まぁ、実際違うんですけど」

『SET、ZASTERD』

「ふん。どうでも良いがな。双剣起動!」

「変身ッ!」


 柄の底面同士をぶつけ合わせるディーと、ベルト上部のパーツを叩きつける絶夢。

 ディーは銀と銅の、キラキラしたエフェクトに。絶夢は見るだけで恐怖心を覚えるような、深い黒のオーラに、それぞれ包まれる。


『Get a Forbidden power! ZASTERD!!』

『シルバーパワー!』

『ブロンズパワー!』

『『ゴールデンソルジャーッ!!』』


 銀と銅が混じりあい、金色の輝きに変わる。

 黒いオーラが機械に挟まれ、鎧になる。


「………なんで銀と銅を混ぜたら金になるんですか?」

「はぁ?輝かしいモノ×かける輝かしいモノいこーるもっと輝かしいモノ、だろう?無知を恥ずかしがらない事は美徳かもしれないが、そこまで行くと情けないぞ」

「えぇ………?」

「ザスタード。非常識な事に関する説明をアイツに求めるな。追加の非常識がやってくる」


 ブルーの言葉に深く同意して、シャワージャビルの方を向く。

 全員が変身し終えたというのに、その場を動くことなく、イッペソーツ共々黙って待っている。


 一体どうして、と疑問に思ったその瞬間、レッドが名乗りを上げた。


「勇気と情熱の戦士!レッドソルジャー!」

「知略と冷徹の戦士、ブルーソルジャー!」

「陽気と元気の戦士!イエローソルジャー!」

「魅惑と慈愛の戦士。ピンクソルジャー!」

「強靭と無敵の戦士………ブラックソルジャー!」

「あ、名乗り待ちか」


 ポーズを維持したまま硬直する五人。

 またしても自分を待っているのか、と苦笑しつつ、しかし正式な順番的にはゴールデンの方が先だろうと、彼の方を向く。


「あの、先にゴールデンさんが名乗らないと」

「は?なぜ俺様がお前たちと一緒に名乗りを上げなければならない?」

「いや、そういうお約束というか………」

「ふん、断る。というか、お前たちの名乗りが終わるまで付き合ってやるのも癪だ。俺様は先に戦わせてもらうぞ」

「あっ、ちょっと!!」


 ヒイロの制止も空しく、ゴールデンがシャワージャビルへ襲い掛かる。

 律儀に待ってくれていたシャワージャビルは、まさか向こうの方からお約束を崩してくるとは予想だにしておらず、「卑怯なぁー!」と叫んで尻餅をついた。


「お、俺達もさっさと行きましょうか」

「いや、ザスタードの名乗りがまだだろ」

「だから俺戦士じゃなくてゲストヒーローみたいなもので」

「今そういうの良いから!ほら、ブラックの横に立って!」

「え、えぇ………?」


 全員から「さっさとしろ」という視線を浴びせられ、渋々並ぶザスタード。

 彼はそれっぽいポーズと共に、どこか自信の無い声で名乗った。


「さ、災厄の戦士。ザスタード………」

「「「「「戦士戦隊!ソルジャーズ!!」」」」」


 背後で大爆発が起こると、そのまま五人が戦場へ飛び込む。

 ゴールデンに加勢し、シャワージャビルへ攻撃しようと試みるが、彼らを邪魔するようにイッペソーツ達が押し寄せる。


 一匹一匹は取るに足らない小物だが、数が多いと処理しきれなくなる。

 無視できず、突破できない数のイッペソーツに、ソルジャーズは足を止めた。


 その間も、ゴールデンは華麗な二刀流でシャワージャビルを攻撃し続ける。


「ふっ、はっ、せぇいッ!!」

「ちょっ、や、やめろ!待ってやった恩を忘れたか!」

「俺様には関係ない話だ!」

『ブロンズブレード、ブリリアント!』

『シルバーブレード、ブリリアント!』

「ちょぉっ!!もう必殺技!?」


 反撃する余裕も無く、ただ攻撃の手を緩めて欲しいと懇願するしか無かったシャワージャビルへ、銀と銅の輝きを纏った刃を向ける。


「終わ―――ぐわぁっ!?な、なんだ!?」

「初めまして新しい戦士その2。確かゴールデンソルジャーと言ったか?このまま君に勝たれると、少し面白くないんでな。邪魔させてもらおうか」

「ね、ネガソルジャー!!」


 ネガソルジャーの銃撃に後退させられたゴールデンは、不機嫌そうに銀と銅のエネルギーを飛ぶ斬撃に変えて、ネガソルジャーへ放った。

 

 邪魔をするならお前から、と言葉もなく放った一撃だったが、素早く発動された必殺技によって相殺される。


「あ、ありがとうございます!ネガソルジャー様!」

「礼には及ばない。お前のどんなモノでも溶かすシャワーには、ジャークダアク様も期待しているんだ。ここは俺が受け持ってやるから、民間人を襲ってこい」

「はっ、了解です!」


 数人のイッペソーツを連れて、走り去っていくシャワージャビル。

 当然、ゴールデンが後を追おうとするが、ネガソルジャーが行く手を阻む。


 このままでは、守るべき人々に被害が及んでしまう―――ソルジャーズが歯噛みした、その時。


『SET、ERATH QUEAK』

『BREAK………!』

『That blow destroys anything! ZASTERD!!――― EARTH QUAKE』

「逃がすか!」


 地震の力をその身に宿したザスタードが、力一杯足踏みをする。

 すると直下型の大地震が発生したかのように地面が振動し、ザスタードを除く全員が転び、立つことさえままならない状態になった。


「あ、アイツあんな力を持っていたのか!?」

「くっ、やはり欲しいなザスタード!あの時の返事は決まったか!?」

「当然NOだ!ネガソルジャー!俺はソルジャーズの皆と、この町と世界を守るって決めたんだ!」

『MAXIMUM………!!』


 ベルトの上部パーツを叩く。

 まさに『大災害』と言うべき激しい揺れに襲われながらも、このままでは自分含め全滅させられると直感で理解したネガソルジャーは、何とか必殺の構えを取る。


『ジャークチャージ!』

「か、かくなる上は水圧で空を飛んで―――」

「だから逃がすかって言ってんだよ!!」

『EARTH QUEAK NOVA!!』

「残念、俺が必ず逃げさせる!」

『ジャークシュート!!』

『『ノーブルスラッシュ!!』』


 ザスタードの右手から放たれた波動と、ネガソルジャーの銃口から放出されたビームが衝突し、大爆発を起こす。


 爆炎が晴れた時には、ネガソルジャーもシャワージャビルもその姿を消しており、残されたイッペソーツ達は、上司が居なくなった為か、慌てて走り去っていた。


「逃げられたか」

「ネガソルジャー………。アイツ、毎回毎回邪魔ばかりしてきて、うんざりだよ」

「それより絶夢!俺、感動したぜ!あんな熱く言ってくれるなんてさ!」

「あ、あはは………」


 手を掴み、ブンブンと振るヒイロに、照れくさそうに笑う。

 しかし緩みかけた空気を引き締めるように、彼はディーに視線を向け、静かに尋ねた。


「―――それで。どうしてさっき、俺の方に必殺技を使ったんですか?ディーさん」

「は?どういうことだよ」

「そのままの意味ですよ。俺の必殺技を妨害するように、ネガソルジャーと一緒に攻撃してきたんです」


 全員の視線が、ディーへ向かう。


 彼は何も答えず、ただ顔を背けた。

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俺は追加戦士じゃねぇって!! 恋愛を知らぬ怪物 @kaibu2

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