第6話 料理対決!?まさかのプロポーズ!!?
レストラン大崎は、ソルジャーズの秘密基地が内蔵されている建物である。
当然それを知るのは、ソルジャーズのメンバーと大崎藍治の六人―――もとい、七人のみ。
だが、秘密基地がある以前に、レストラン大崎は料理店。
ソルジャーズとは関係無しに、その料理の美味しさから、多くの客が訪れる。
「なんで絶夢が働いてるの?」
「タダで住まわせて貰うのは、なんか落ち着かなくって………だから、店のお手伝いをさせてもらう事にしたんです」
純粋に客として来店した礼紋に、立ったまま事情を説明する。
休憩時間にはまだ早いので、注文を取るついでに話すだけに終始させたのだ。
「………高校生の絶夢だって、ああ言って働いてるのに。ヒイロと来たら………」
厨房へ向かう絶夢を見送りながら、呟く。
絶夢よりも、なんなら自分よりも歳上なはずのヒイロが働いていないという事実。
子供たちと遊んだり、困っている人を探しては手助けしたりと、ボランティア活動に勤しんではいる。だがそれを加味しても、リーダーが無職というのは、礼紋的には複雑な所であった。
生活費から何まで、全て藍治に負担してもらっていると知っているのもあるだろう。
「ふーん。この世界の料理屋も、俺様の世界と同じ形式か。文化的にはそう劣っている訳でも無さそうだな」
「げ、アイツは……!」
咄嗟にメニュー表で顔を隠す礼紋。
悪趣味としか言えない服装の男は、ディー・カガヤーク。一応ジャークダアク帝国と戦ってくれるらしい、絶夢曰く『本当の新たな戦士』。
たった一度会っただけで強烈な苦手意識を植え付けてきた彼は、絶夢を見つけるや否や顔を顰め、ズカズカと彼に歩み寄った。
「おいおいおいおい!!お前!」
「………。はい、何かご用命でしょうか?」
「何か、では無い!お前、まさかここで働いているとでも言うのか!?」
「はい、その通りですが……」
「ふ、ふざけるな!戦士ともあろうものが、料理屋敷の下働きだと!?信じられん!俺様は、カガヤーク王国は、こんな男に侮辱されたというのか……!?」
面倒なのが来たよ………と表情が死ぬ絶夢。
流石の彼も、職場で遭遇しては笑顔を保つことが難しかった。
「席にご案内しますね」
「何がご案内だ!ふざけやがって……!表に出ろ、決闘だ!」
「この国、決闘すると罪に問われるんですよ」
「うるさい知るか!戦う気が無いというなら、せめて大人しく斬り捨てられろ―――ッ!!」
剣に手をかけたディーだったが、いつの間にか背後に立っていた藍治にその手を止められる。
驚愕しつつ藍治から距離を取ったディーは、鋭く彼を睨む。
「お前、何者だ?俺様の背後を取るとは……」
「私はこのレストランの店長だ。―――お客様。店で喧嘩をされると、非常に迷惑です。凶器を取り出すなど以ての外」
「………だから表に出ろと」
「そういう問題ではございません。―――そこまで彼に思う所があるのなら、考えがあります」
「何?」
「『料理上手はどっち?新たな戦士対抗、お料理対決』~!!」
礼紋が音頭を取り、藍治とソルジャーズが拍手をする。
流されるままに台所へ立たされた絶夢は、ここに来て我に返り、叫んだ。
「なんで!?」
「言っただろう、これは決闘だ。お前を料理の腕で捻り潰し、そのまま叩き斬ってやる」
「そんな話でしたっけ!?」
「ルールは簡単!冷蔵庫の中にある食材を使って調理し、完成品を審査員に実食してもらい、より美味しかった方が勝ち!コンロや調理器具は二人分用意されてるけど、食材と調味料は共有!」
「要は奪い合いだろう。―――覚悟は良いか?」
「覚悟も何もまずこの状況からイマイチ受け入れられてないんですが!?」
困惑する絶夢だが、無情にもタイマーがスタートする。
ディーは素早く冷蔵庫の前に向かうと、絶夢が中を見られないような立ち方で物色し始めた。
仕方がないので調味料の方を見に行った絶夢を、ディーの蹴りが襲う。
「だからなんで!?」
「おぉーっと、スポーツマンシップの欠片もない、ノールックのキック!絶夢選手は難なく躱すが、開始二分にして既に大乱戦だ!」
「容認されてるし!」
「勝負を受ける代わりに、私達が手出ししてはいけない、という条件を提示してきてね………。度が過ぎた攻撃をして来たら、流石に私達も止めに入るから」
「えぇ………?」
仲間に引き入れないといけなかったとは言え、あそこまで煽ったのは失敗だっただろうか。
繰り出される蹴りを躱しつつ、とりあえず必要になりそうな調味料を選別した絶夢は、それを躊躇なく自分の調理場へと持ち帰る。
ここまで好戦的な相手との一騎打ちで、優しく受動的に立ち回れるほど、絶夢は平和主義者ではない。
物腰こそ柔らかだが、彼は割と喧嘩上等なタイプだ。
調味料を隠し、冷蔵庫へ近づく。
ディーの蹴りを躱すと、彼は容赦なく顔面を殴りつけた。
「ぶへぁっ!?」
「え゛ぇ゛ッ!?」
「お、おぉー!!絶夢選手、ディー選手に強烈な一撃をお見舞い~!!」
「肉、卵、玉ねぎ、ピーマン、キノコ……」
ドン引きする仲間達と、床で悶えるディーを無視して、急いで食材を確保する絶夢。
別にディーに対し鬱憤が溜まっていたという訳ではない。純粋に、相手がそう来るならこっちも、という考えのままに行動しただけだ。
今この時ばかりは、子供向け特撮番組のヒーローを目指す者としての己を忘れ、
強い覚悟が、彼にはあった。
「あ、相手を殴るだなんて卑怯だぞ!料理で競え、料理で!」
「最初に蹴ってきたのはそっちでしょ。当たったから文句を言うってのはどうなんですか?」
「ぐっ……!ふんっ、良いだろう、そんな小細工に頼らずともお前を超えるくらい簡単だ!」
「………そもそも、アイツ料理作れるの?」
「アレは作られた飯をふんぞり返って食って、好き放題講評するタイプに見えるが……」
手際よく調理を進める絶夢に対し、これまた慣れた様子で料理するディー。
彼らの予想に反して、ディーは料理が得意なようだった。
一人で世界を渡り歩いている内に身に着けた技能、だろうか。
「暴力行為なしの、真剣な無言調理が始まってからそこそこの時間が経過しましたが………二人とも、調理は佳境のようです。先に作り終えるのは、果たしてどちらか!我らが店長、藍治さん。どう思いますか?」
「ふむ。二人とも大体同じに見えるが、玉ねぎを飴色になるまでしっかりと焼いた分、絶夢君が少し遅れているかな。仮にディー君が先に調理を完了したとするなら、確実に提出前に妨害を仕掛けてくるはず………そうなった時の対処方まで考えているのか、それとも先に終わらせられる自信があるのか。そこが重要だね」
「なるほど。―――と、話している間に二人の調理が終わった!しかし先に盛り付けを終えたのはディー選手!悠然と審査員席へ近づいていきます!」
皿を片手で持ち、自信満々な表情を見せるディー。
テーブルの上に置かれた料理は、見るだけで食欲をそそられる厚切りのステーキ。
「俺様が手ずから作った食事だ。感謝して食うが良い」
「おぉー、普通に美味そう」
「人は見かけによらない………か」
「あ、ミディアムレアなんですね」
切り分けられたステーキを、一斉に口に運ぶ。
彼らは咀嚼しつつ、感嘆の声を上げた。
「美味いな!」
「この絶妙な焼き加減、一体どれほどの場数を」
「味付けも良いですね!」
「………悔しいけど、美味しい」
「はっはっは!そうだろうそうだろう!ただ肉を焼くだけじゃない。調理工程の細部に至るまで拘って、ようやく輝きMAXな食事が完成するんだ」
べた褒めされ、上機嫌になったディーが高笑いする。
そんな彼の横を、盛り付けを終えた絶夢が通り過ぎ―――
「おっと、足が滑った!」
「ディー選手、滑ったと言いつつ全力の足払い!!流石の絶夢選手も、これには成すすべなく転ばされ――えっ、無い!?凄いです!ディー選手の足をジャンプで躱し、そのまま再び顔面に攻撃!今度は蹴りです!痛そうですねー!」
―――ようとした所をディーが襲ったのだが、礼紋の実況の通り、奇襲は失敗。
それどころか再び顔面に攻撃を受け、ディーは倒れた。
優雅に着地した絶夢はディーを一瞥もせず皿を置く。
彼が作ったのはオムライス。それも店で出てきそうなドレス・ド・オムライスだ。
「す、すごっ!お前高校生だろ!?」
「進学の都合で、一人暮らしだったんで。必要に駆られて始めた自炊が、段々趣味になって、凝るようになっちゃって………」
照れくさそうに語る絶夢を前に、各々が自分の分をよそって、食べる。
瞬間、全員が目を見開いた。
「「「「「お、美味しすぎる―――!」」」」」
「な、何ぃ!?なんだその反応は!まさか、演技しているわけじゃないだろうな」
「疑うなら、食べてみます?」
「言われなくても確かめるつもりだった!………ふんっ、こんなの、見た目だけ―――」
スプーンが手から滑り落ちる。
硬直したディーは、それでも咀嚼だけは止めず、呑み込んでから呟いた。
「………う、美味すぎる」
「そりゃ良かった。―――皆、オムライスの時はこんな反応をしてくれるんですよね」
味の評価とか、そういった事を一切合切忘れて、残るオムライスを食べ進める彼らを見つつ、絶夢はしみじみと呟く。
思い出すのは、元の世界での出来事。
彼の親友に、何気なく振舞ったオムライス。凝った見た目に感激し、一口食べてまた感激。ヒイロに似た性格で、とにかく元気で、そして騒がしかった彼は、それはもう大きな声で感想を言ってくれた。
『やっぱ絶夢はすげーなーッ!頭もいいし、運動もできるし、料理も上手だし!憧れちゃうなー、ほんと!』
―――あの時は、素直に受け取れなかったけど。
あの賞賛は。否、彼がくれた全ての言葉は、嘘偽りの無い本物だった。
「………んんっ。さて審査員の皆様。どちらに投票するか決定いたしましたでしょうか!」
礼紋の言葉に、現実に引き戻される。
これ以上思い出したら泣くところだった、と密かに安堵しつつ、結果発表を聞く。
「では、ディー・カガヤーク選手の方が良かったと思う人!」
モモが手を上げる。
ディー本人でさえ絶夢の圧勝に終わると思っていた為、全員が困惑した。
くろねに至っては、「同情票?」と呟いた。
「では、底無絶夢選手の方が良かったと思う人!」
モモを除く全員が手を上げる。
司会を兼任していた礼紋も、こちらに上げた。
結果は、数えるまでも無く絶夢の圧勝。
ディーは悔しそうにこそしているが、実際に食べたことで実力差を理解したのか、文句を言うような事は無い。
それ以上に、なぜモモが自分のステーキに手を上げてくれたのかが気になったようだ。
「………なぜ俺様の料理を選んだ?」
「あはは………。これは、私の感覚的な話なんですけれど………その、当然ながら、二人を比較する、という話なら絶夢君の方が断然料理上手でした。あのオムライスには、かなり驚かされましたし」
「なら、なぜ?」
「………その。上手すぎた、ので」
全員が首を傾げる。
恥ずかしそうにしつつも、モモは説明を続けた。
「私、いつかコックさんになりたいんです。自分の店を持って、自分の作った料理を食べてもらう料理人に………。だから、私よりもずっと美味しい料理を作った絶夢君に………し、嫉妬、しちゃいまして。どうしても、素直に評価できなくて………」
俯きつつ、消え入りそうな声で語った彼女へ、ディーがおもむろに近づく。
彼は彼女の手を両手で握り、真っすぐに見つめて一言。
「―――お前、俺様の花嫁にならないか?」
「えっ」
「「「「「「えええええええええッ!!?」」」」」」
あまりに唐突すぎるプロポーズに、藍治でさえ大口を開けて驚く。
逆にプロポーズされた張本人は混乱のあまり言葉を失い、開いた口が塞がらなくなった。
「な、なんでいきなり!?」
「意志の強い女が好きだからな。底無絶夢の料理の方が上だと、底無絶夢を選ぶべきだと、そう理解していながら、己の意志に従って選ばなかった。そして、ソレを自ら語ることができた………。その、なんと素晴らしい事か。俺様は多くの世界を渡り歩いてきたが、これほどに素晴らしい女とは初めて出会う」
だから、結婚してくれ。
ディーはどこまでも真剣に、モモを見つめ続けた。
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