俺は追加戦士じゃねぇって！！

第5話 まさかの本物！よりも偽物！？

「―――あっ、動く！」

　突然の超展開に、しばし呆気に取られていたソルジャーズだったが、体の自由が戻っている事に気づく。

　ついでに、ブレイブレードについていた×印も消えていた。

「なんだ、銅像ごっこはやめたのか？なら聞きたいことがあるんだが」

「ぐ、ぐぎぎ……！！いつまで人の上に乗っているつもりタブーッ！！」

「おぉっと。これは失礼」

　踏まれっぱなしだったダメジャビルが跳ね起きる。

　リズミカルに後退ったゴールデンソルジャーは、訝しむようにダメジャビルを観察すると、「もしかして」と切っ先を向けた。

「お前、怪人だな？」

「その通り！俺はダメジャビル！ジャークダアク帝国の上位戦闘員で、エリートタブ！」

「ジャークダアク帝国？どこかの世界で聞いた気がするが………まぁ良い。怪人とあれば倒す！それが俺様のゴールデンロード！！輝きMAXで葬ってやろう！」

　大仰なアクションと共に、ダメジャビルへ斬りかかる。

　二度も強力な体当たり（？）を喰らったせいで満身創痍気味なダメジャビルだったが、エリートを自称するだけあって、レイピアで攻撃を防いだ。

　だがもう一振りの攻撃は防げず、地面を転がる。

「ブレイブレードを二本も所持しているとはな」

「あの人も、新しい戦士なのかな？」

　二振りのブレイブレードによる、苛烈な連撃。

　キラキラ輝くエフェクトと共に繰り出される攻撃に、ダメジャビルは光線を撃つ余裕も無く、圧倒されていた。

「おいおい、弱いな。これでエリートとは、この世界の怪人はかなり程度が低いらしい」

「き、貴様ぁ……！！不意打ちして弱らせておいて、なんて言い草タブ！」

「不意打ち？俺様がそんな真似するはず無いだろう。―――さぁ、これでフィナーレだ」

『ブロンズブレード、ブリリアント！』

『シルバーブレード、ブリリアント！』

　柄の底面同士を二度ぶつけ合わせると、ブレイブレードから聞こえる声とはまた違う声が響き、刀身が銀色と銅色の輝きを纏った。

『『ノーブルスラッシュ！！』』

「せりゃあああああッ！！」

「お、覚えてろタブゥ～～～ッ！！」

　十字の斬撃が、ダメジャビルを四つに裂く。

　大爆発を起こしたダメジャビルをバックに、髪をかき上げる素振りを見せるゴールデンソルジャー。

　何とも優雅なその姿に、ソルジャーズは顔を見合わせる。

　―――と、その時。

　爆炎の中から、巨大化したダメジャビルが出現した。

「ぐぉぉ！ジャークダアク様のお慈悲に感謝タブ～！！あの金ぴか戦士を、ボコボコにしてやるタブゥー！！」

「なるほど、復活するのか。ならさっきの弱さも頷けるが―――残念。大きくなっただけじゃ、俺様の輝きは止められない。騎獣召喚！」

『カモン！キラライオン！』

『カモン！ギラコブラ！』

『『ユニオン！ダイオウゴン！！』』

　空の穴から降ってきた、巨大なライオンとコブラ。

　それらはソルジャーズの騎獣たちと同じく、ダメジャビルへ攻撃をしつつ、変形、合体。

　ゴールデンはロボット………ダイオウゴンの中へ飛び込み、背後に携えてあった二振りの大剣を抜刀し、構える。

「そのロボットごと動けなくしてやるタブー！！」

「ロボット？いいや、ダイオウゴンだ！」

　町の被害を一切無視した乱暴な戦いに、ビルや車が潰され、吹き飛ばされる。

　ソルジャーズが慌てて騎獣を召喚し、セイケンオーに合体。

　ダイオウゴンとダメジャビルの間へ割って入り、戦闘を開始した。

　ゴールデンが通常サイズのダメジャビルと戦闘を開始した時から、ひっそりと少年達を避難させていた絶夢は、遠巻きにダイオウゴンとセイケンオーの戦いぶりを見つつ、叫んだ。

「もしかしなくても――――新たな戦士って、絶対あのゴールデンだな！？」

　喧嘩（？）しつつも、なんやかんやでダメジャビルを倒したソルジャーズとゴールデンは、騎獣たちが異空間に去っていくのを見送ってから、同じタイミングで変身を解除。

　ソルジャーズは、ゴールデンの変身前の姿に思わず言葉を失った。

　王様のようなマントに、至る所に宝石の装飾が施された派手な服。全ての指に、それぞれ異なる巨大な宝石が嵌め込まれた指輪。

　一言で表すなら、『悪趣味』だった。

「全く。俺様の戦いを、よくも邪魔してくれたな」

「お前は邪魔に思ったかもしれないがな。お前一人を戦わせていれば、町が今以上の被害を被る所だった。見てみろ、建物も、道路も、車も……あんな考え無しに戦っては危ないだろう」

「考え無し？そもそもなんで俺様が、見ず知らずの世界の連中に配慮しながら戦わなければならない。それでは俺様の輝きが薄れてしまうだろう！」

　まるで話が通じない。

　戦闘中も、今も、自己中心的で、自分の事しか考えていないような………。

　苛立ちを通り越して困惑し始めたソルジャーズ達の下へ、絶夢が駆け寄ってくる。

「お疲れ様でした、皆さん」

「あ、絶夢！お前、どこ行ってたんだ？」

「子供達と一緒に避難して、ついでにちょっとばかりお説教を」

「あぁ………。ヒイロとよく一緒に遊んでる子だったよね。あの子、普段からやんちゃだから」

「………それより、助けて欲しい」

　皆と一緒に、くろねもフードを目深に被りつつ、自ら絶夢へ近づく。

　いつも気怠げで、誰にでも壁を作って接していたくろねが、まさか突然「助けて欲しい」と言い出すとは誰も予想だにしておらず、驚愕してしまう。

「え、えっと、どうかしました？」

「………アイツ、うざい」

「お前たち、さっきから失礼が過ぎないか？俺様の邪魔をした挙句、指図に、罵倒に………。変身していた所を見るに、お前らも『戦士』ってヤツなんだろう？正義の心とか、足りないんじゃないか？」

　どの口が、と言いたくなるようなセリフに、ソルジャーズ達は冷たい視線を向ける。

　だが、絶夢は特に気にした様子が無い。

　なぜなら追加戦士は、基本的にすぐに仲間になるような事が無いからだ。

　ここから少しずつ協力していって、数話経過した所でようやく仲間に―――というのが王道の展開だろう。

　―――そういう意味でも、俺は追加戦士感無かったな。

　内心自嘲しつつ、頬を掻く。

「うざい、って言われましても。―――多分、っていうか確実に、あの人が予言の戦士だと思うんですよね、俺」

「えー！？絶対無いよ！確かに名前と鎧は、僕らそっくりだけどさー！」

「騎獣も召喚しているし、ブレイブレードらしき剣を二振りも持っているが………到底戦士とは言えない精神性をしているように思われるぞ」

「『戦士にして戦士に非ず』、でしたよね、予言」

　絶夢の言葉に、少し黙って考え込む五人。

　予言の『五人の戦士が戦う力を失いし時』は、言うまでも無く一致している。

　『異界より現れし』、これも、ゴールデンの登場やらセリフやらで、一致している事がわかる。

そして『戦士にして戦士に非ず』もまた、絶夢の言う通り合致するだろう。

　―――もしかして、本当に？

　四人が思わず顔を顰めると、くろねが首を横に振った。

「新たな戦士は、一人しか居ないって書かれてたから。ザスタードが居る時点で、アイツも、この先出てくる戦士も関係ない」

「俺は、俺が偶々予言と一致しただけで、本物はあっちだって思ってるんですけど」

「えー…………」

　フードの下で、露骨に嫌そうな顔をするくろね。

　他の四人も同じだ。なまじザスタードという比較対象（新たな戦士候補）が居るせいで、ゴールデンの嫌な部分が強まって見えている。

　しかし絶夢がそう言うのなら、と、ヒイロがゴールデンの方を向いて、手を差し出す。

「その手はなんだ？」

「お前も、戦士……なんだろ？絶夢もああ言ってるし、一応、よろしくと思って」

「あれだけ俺様を無視して好き放題言っておいてよろしくって、良く言えたなお前」

「うん、俺もそうは思うけどさ………。悪い、絶夢。任せた！」

「何を！？」

　コミュ力高そうなヒイロでさえ、なんだかよくわからない事になってしまう程、難しい相手らしい。

　しかし頼られて悪い気はしないので、渋々ながら前に出る。

「えっと、初めまして。俺、底無絶夢って言います」

「お前もコイツ等の仲間か。俺様の邪魔をしなかったのは良いが、仮にも戦士を名乗るなら何故戦場に居なかった？」

「子供達が戦場に忍び込んでたんで、避難させたりしてました」

「避難？おいおい、戦える人間がそんなことの為に駆り出されるとはな。この世界は、怪人も、襲われる側も随分程度が低いらしい。俺様の生まれた世界では考えられない事だ。民衆は戦士の邪魔をせず、巻き込まれたら自己責任。それが普通だろうに」

　なるほど、自分の価値観が全てなタイプか。

　これは大変だな、と他人事のように考えつつ、当たり障りのない質問を投げかける。

「貴方の名前は？」

「俺様はディー。ディー・カガヤーク。カガヤーク王国の、第一王子だ」

「「「「「えぇ～！！」」」」」

　これが！？と驚く五人。

　絶夢は「まぁよくある設定か」とすぐさま受け入れ、驚くことなく会話を続ける。

「そんな高貴な方が、なぜ世界を移動しているのですか？」

「俺様の国の風習だ。『次期国王は、世界を渡り歩き、悪を滅ぼし、その力を磨き上げ、真の王に相応しき実力と精神を身に着けるべし』―――言うなればこれは、次期国王になる為の試練という訳だ」

　誇らしげに胸を張るディー。

　絶夢は彼の話を聞いて少し考え、言葉を紡いだ。

「ディー王子。この世界は、現在ジャークダアク帝国の侵略に苦しんでいます」

「ジャークダアクか。あの怪人も言っていたが………思い出せないな。それでどうした？」

「ジャークダアク帝国は、尖兵として怪人を送り込んできます。きっと明日も、明後日も、ジャークダアク帝国の兵力が尽きるか、俺達がジャークダアク帝国の本拠地へ攻め込んで撃退するかしない限りは、永久に」

「俺様にその手伝いをしろ、と？」

「端的に言えば、そうなります」

「断る。俺様の邪魔をしてきた連中と、俺様と相容れぬ連中の為に、わざわざ戦ってやる理由は無い」

　にべもなく断られるが、絶夢は言葉を続ける。

「確かに、ディー王子個人としては嫌でしょう。ですが、この世界は永久に怪人の脅威に曝され続ける可能性がある世界。それを、ただ一体怪人を倒しただけで、そこに居る戦士が気に入らないからという理由で、見捨てて別の世界へ、というのは………果たして、カガヤークの国王に相応しいといえるのでしょうか」

「お前が知ったような口を聞くな。それを決めるのは、父上やカガヤークの貴族達だ」

「………なるほど。であればどうぞご自由に。―――しかし残念だ。カガヤークはその程度の人間が国王になれるような国だとは」

「―――何？」

　肩を竦め、敢えて聞こえるように呟く絶夢。

　先ほどまでの丁寧で、へりくだった態度から一転し、意地の悪い笑顔を見せた彼に、ソルジャーズが目を丸くする。

　一方、故郷を馬鹿にされたディーが黙っているはずも無く。

「お前、今なんと言った」

「いえ？ただ、随分素晴らしい国があったものだな、と。他の世界を下に見て、己の事しか考えず、周りを碌に見ようともしないで、気に入らないの一言で敵から逃げる。そんな王子が、国王になれてしまうような国があろうとは。程度の低さに、つい驚いてしまいましてね」

「言葉を慎め！カガヤーク王国と、第一王子である俺様を侮辱するとは……！あの五人は無知だったから許してやったが、お前は知った上で、確かに我が国を愚弄した！この場で、叩き斬ってやる！」

　ディーが剣を引き抜く。

　一触即発の緊迫した状況に、ソルジャーズも剣を構えようとするが、絶夢はそれを手で制し、悪辣に嗤う。

「別に構いませんよ？事実を言われれば斬り捨てて、聞かなかったことにする。そんな程度の国であると、自ら認める事になりますがね」

「―――ッ」

　顔を真っ赤にしつつも、踏みとどまる。

　怒りを発散させる術を失ったディーは、剣で地面を乱暴に叩く。

「改めてお願いいたします。―――どうかソルジャーズと共に、ジャークダアク帝国と戦っていただけませんか？」

「ぐ、ぬ、ぬぅ～～ッ！！良いだろう、考えてやるッ！！だが勘違いするな！俺様はお前たちを見定めてやるだけだ！完全な協力体制を取る訳ではない！」

　大声でまくし立て、そのままどこかへ走り去っていくディー。

　絶夢はそれを見送って、姿が完全に見えなくなった所で大きく息を吐いた。

　割と無理して演技をしていた為、緊張の糸が解け、疲れがドッと溢れてきたのだ。

「なんか、凄いな絶夢！」

「アレに頷かせるとは………。時間がある時で良い。話術を教えてくれないか？」

「ま、ディー王子？が仲間になる必要があるかって言われたら、アレだけどね」

「正直、仲良くなれる気が全然しないですよね………」

　物腰柔らかそうなモモでさえ敬遠気味な当たり、この短時間でかなり嫌われたようだ。

　―――だが、絶夢としては、ディーをこのまま別の世界へ行かせるわけにはいかなかった。

　なぜなら、彼にとって『新たなる戦士』はゴールデンソルジャーであり、自分こそが異物。

　もし「ザスタードが居るから」という理由で本来仲間になるべき戦士を逃してしまっては、後々大変な事になってしまいかねない。

　多少嫌われてでも、彼を引き入れたいという姿勢を見せる必要が、彼にはあった。

「別に、このメンバーで良いと思うけど」

「だよな！―――ってそうだ、くろね！お前、急に喋るじゃん！もしかして、ついに絆が深まったって感じか！？」

「は？ウザ。やっぱレッドも抜きで良いよ」

「レッド居なくなったら、結構ヤバいと思うけど……」

　苦笑いする礼紋を無視して、口を閉ざす。

　ヒイロは「流石に言葉悪かったな……」と反省しつつ、改めて絶夢の方を向いた。

「ありがとな、絶夢！動けなくなっても戦ってくれたおかげで、俺達は諦めずに済んだし！ディーも、正直仲良く戦える気がしないけど、お前が居なかったら仲間に誘えなかった！」

「いえいえ、そんな………」

「ザスタードー！！」

　謙遜する彼を、背後から呼ぶ声がする。

　振り向くと、先ほど戦場から避難させた少年達が駆け寄ってきていた。

「どうしてまたここに……」

「俺ら、まだザスタードにお礼言ってなかったから！怪人も居なくなったし、急いで戻ってきたんだ！」

「お礼って」

「俺らのこと、守ってくれてありがとう！」

「「「ありがとーございました！」」」

　ぺこり、と頭を下げる少年達。

　舌っ足らずながら、息を合わせてお礼を告げた四人に、絶夢は瞠目する。

　だって、こんなことは、今まで一度も。

「………怖く、無かったのか？もう、二度と顔も見たくないって、思われてるモンだと」

「そりゃ、怒られてすぐに会うのは怖かったし、他の戦士と全然見た目違くって、びっくりしたけど………。それでも、ザスタードはカッコいいヒーローだよ！」

　ソルジャーズが、微笑ましく見守る。

　そんな中、絶夢は言葉も無く、少年達を見つめた。

　いつまでも何も言わない絶夢の肩を、ヒイロが軽く叩く。

「ほらな。お前は悪役でも、敵でもねぇ。俺達と同じ、戦士で―――ヒーローだ！だからほら、皆に何か言ってやれよ！」

「はい………！皆、ありがとう………！！」

「なんでザスタードがお礼言うんだよー」

「あー、ないてるー！」

「どこかいたいのー？」

　―――本物の戦士が現れても、ヒーローであると言ってくれる人達が居る。

　仲間だと呼んでくれる皆が居る。

　涙を拭って立ち上がり、絶夢は改めて決心する。

　『ヒーローとして、この世界の為に戦うんだ』と。