第4話 輝きMAX!ゴールデン到着!

「………仲間にならないか、ねぇ」


 ソルジャーズ基地の一室で、備え付けのベッドに寝転がりながら、一人呟く。


 あの後、ネガソルジャーは絶夢の返事を待たず、近日中に聞きに来る、とだけ言って姿を消した。

 その時は特に気にすることなく笑っていた彼だったが、一人になった途端、急に勧誘されたという事実が重さを増した。


「―――引かれてたよなぁ、完全に」


 思い出すのは、カザミドリジャビルを倒した時のこと。

 いつも通り必殺技を使ったつもりだったが、その過激な攻撃に全員言葉を失っていた。


 ではダメだったという事に、彼は全てが終わった後ようやく思い至ったのである。


「言っちまえばラスボス系だからなぁ、俺………。元居た世界でも、子供に怖がられたり、助けた大人に逃げられたり―――言ってて悲しくなってきたな」


 ザスタードの見た目は非常に禍々しい。ヒーローらしいスタイリッシュなデザインではあるのだが、同時に悪役然とした、恐怖心を煽る作りにもなっている。


 その上、元居た世界での彼は『とある事情』により、今よりも彼本来の精神性が反映されていない行動を続けていた。

 『あるヒーロー』を執拗に付け狙って攻撃し、怪人を倒す時は冷酷に、躊躇なく。


「ジャークダアクから勧誘されるのも、仕方ない………か」

「入るぞー」

「うぉぉっ!?紅さん!?」


 突然ドアを開けて入ってきたヒイロに驚き、ベッドから転がり落ちる。

 大きすぎるリアクションに愉快そうに笑いつつ、ヒイロは絶夢に手を差し伸べた。


「ヒイロで良いって。ほら、立てるか?」

「は、はい。ありがとうございます。―――ヒイロさんも、基地に住んでたんですね」

「まぁな。俺もここが家みたいなもんなんだ」


 ベッドに腰掛けて、息を吐く。

 夜だからか若干声量抑え気味のヒイロに、絶夢もつられて声が小さくなる。


「どうして急に、俺の部屋に?」

「ちょっと、話があってさ。―――昼間、ネガソルジャーから勧誘された時、あり得ない、って笑ってたけど、一瞬だけ……なんか、複雑そうな顔をしてた気がしてさ」

「あぁ………。まぁ、少し思う所があったのは確かですね」


 体を伸ばす。

 ヒイロは何をどう話すべきか少し迷って、ゆっくりと口を開いた。


「俺、元居た世界だと、敵………まぁ、敵みたいなモンだったんです。他のヒーローに喧嘩吹っ掛けたりして。一応、怪人退治とか、人助けとかはやってましたけど……見た目とか、戦い方とか、素行とか、そういうので怖がられて………ヒーローだけど、ヒーローじゃないっていうか。悪役だな、って。ずっと思ってたんです」

「悪役って、物語みたいに言うんだな」

「物語みたいなものですよ。戦隊はいませんでしたけど、変身ヒーローは俺以外にも何人かいました。世界の危機、みたいなのにも瀕してましたし………本当に、特撮番組みたいな世界だったんです」


 カセットを取り出して、見つめる絶夢。

 『ヒーローになりたくないか』―――そんな甘い言葉と共に差し出されたこの力は、決して正義と言い切れるような代物ではなく。


 愁いを帯びた表情の彼に、ヒイロは少し考え込んで、明るい声音で提案した。


「―――ならさ、明日俺と一緒に出掛けようぜ!」

「は、はい?別に良いですけど、何が『ならさ』なんですか?」

「まぁまぁ、細かいのは明日また話すから!………よしっ、そうと決まれば今日はもう寝ようぜ!おやすみ、絶夢!」

「おやすみなさい……?」













 翌日。絶夢を連れてヒイロが真っ先に向かったのは、そこそこの広さの公園だった。

 休日のようで、子供たちが至る所で遊んでいる。


「あっ、レッドだ!」

「レッドー!」

「へへっ、おはよう皆!」

「おはよー!」

「となりの人だれー?」


 無秩序に遊んでいた子供たちだったが、ヒイロの姿を目にした途端、一斉に彼の下へと集まっていく。

 ヒイロは慣れた様子で、少年少女たちに対応し、笑顔で絶夢を紹介した。


「コイツは、なんと俺達の新しい仲間だ!ほら絶夢、自己紹介」

「いきなり!?………えっと、底無絶夢、だよ?よろしくねー?」

「ねぇねぇ、たつむはなんのせんしなの?」

「おれわかるよ!ゴールドとかシルバーとかでしょ!」

「あー、いや、俺はゴールドでもシルバーでも無くって………」


 子供達のキラキラした視線が一斉に向けられ、狼狽する絶夢。

 

 『戦士じゃ無いし、でもそれ言ったらガッカリさせちゃうよな……』と言葉に詰まっている彼に代わって、ヒイロが答える。


「ふっふっふっ………!絶夢はゴールドでもシルバーでもない。その名は『ザスタード』!別の世界からやってきた、強くてカッコいいなのだ!」

「ざすたーど?へんななまえー」

「ザスタードって、どういう意味なんですか?」

「ハザードとディザスターを掛け合わせた造語………えーっと、地震とか津波とか、台風とか雷とかをまとめて呼ぶ言葉、を基にした言葉……みたいな……」

「じゃあおてんきのせんしだ!」

「おてんきのせんしー!!」


 別にお天気だけって訳じゃ………と困った顔をした絶夢に、ヒイロが噴き出す。

 なに笑ってるんですか、と抗議の視線を向けると、彼は笑って謝った。


「悪い悪い。お天気の戦士って、なんだか面白くってさ」

「面白くって、じゃないですよ……」

「ねーレッド!きょうはおにごっこしたい!」

「えー!かくれんぼにしようよー」

「キャッチボール!」

「かたぐるましてー!」

「おいおい、押すと危ないぞー?」


 元気溢れる子供達を上手く制御するヒイロを見て、絶夢は密かに感心する。

 きっと、いつもこうやって子供達と遊んでいるのだろう。

 少年も少女も、舌っ足らずな幼い子も、小学生くらいのちょっと大人びた子も、誰もが彼に親しみを込めて接している。


 少し離れた所では、子供達を連れてきたのだろう母親、父親達が、ベンチに腰掛けたり立ち話をしている。大事な子供が成人男性(?)と遊んでいるというのに、まるで心配している様子が無い。

 子供達を無条件に預けて良いと、そのレベルのヒイロへ向けているのだ。


「………凄いな」

「ん?あぁ、元気なもんだろ?でもこっからもっと元気になるからな。これで圧倒されてたら、体力もたねぇぞ?」

「それもありますけど………凄いのは、ヒイロさんですよ」

「俺?へへっ。よくわかんねーけど、ありがとな」


 皆に愛される、正義のヒーロー。

 彼が憧れ、そして目指している理想の姿。

レッドソルジャー紅ヒイロは、そんなヒーローとして在った。


 子供達と楽しそうに遊ぶ姿を、どこか俯瞰的に眺めていたその時、藍治から渡されていた携帯に着信が入る。

 絶夢だけではなく、レッドも同時にだ。


『怪人出現だ。皆、メールで送った地点に急行するように』


 一方的な通告の後、すぐに電話は切れる。

 絶夢とヒイロは顔を見合わせ、頷き、子供達に向き直る。


「ごめん、怪人がやってきたみたいだ」

「遊ぶのは、また今度な」

「えーっ!」

「二人とも、気をつけてね」

「おう!………ほら、絶夢も」

「えっ。―――が、頑張るよ!」


 子供たちに別れを告げた二人は、すぐさま駆け出す。


 伝えられた場所はそう遠くなく、彼らはすぐに到着する。

 そこにはイッペソーツも連れず、一人で道路のど真ん中に座り込んでいる、バツ印の頭をした怪人がいた。


 大量の車が怪人から十メートルほど離れた場所で停止し、酷い渋滞を起こしている。


「お前は―――バッテンジャビルだな!この渋滞は、お前のせいか!」

「ターブタブタブ!違うタブ。俺は『ダメジャビル』!何でもかんでも禁止して、ジャークダアク帝国のスムーズな支配を実現する、次期幹部と名高いエリート怪人タブー!」

「そんな支配、僕たちが許すわけないだろ!」

「エリートでも関係ありません。私たちが倒します!」


 いつの間にか全員が揃っており、綺麗に整列している。

 が、絶夢さえその事を気にも留めず、一斉に変身―――


「「「「「剣気解―――!!」」」」」

「そうは行くか!喰らえッ、ダメダメビーム!!」


 指先から六本の光線が飛び出し、ブレイブレードとカセットに当たる。

 光線を浴びたそれらには大きな『×印』が浮かび上がり、剣は重く、カセットは軽くなった。


「なんだこれ!?」

「ターブタブタブ!お前たちの変身アイテムを、全部使えなくしてやったタブ~!これでお前たちは他の奴らと同じ!恐るるに足らずタブ!」

「な、なんて凶悪な攻撃を!」

「変身前に、卑怯じゃないか!」

「………重くて、これで戦うのも難しい」

「ターブタブタブ!なんとでも言うが良い!俺は戦いが嫌いだから、こうして戦う必要を無くして―――」

『SET、TYPHOON』

「えっ」


 全員の視線が絶夢へ集まる。

 警告音にも似た音楽が響き渡る中、彼はベルトの上部を叩き、変身する。


『BREAK………!』

『Messed up fever! ZASTERD!!───TYPHOON』

「お前、なんで変身できるタブ!?」

「逆になんでベルトじゃ無くてカセットの方を禁止したんだ?」


 首を傾げ、肩を竦めるザスタード。

 ダメジャビルは慌てて立ち上がり、腰に携えていたレイピアを構える。


「うぐぐ、ソルジャーズが剣を右手に持ってたから、光線も右手側の方に向けざるを得なかったタブ………」

「複数の相手を狙う時は同じ場所に行きがちなのか。なるほどな。………取り敢えず、俺は戦えそうです。皆さんは巻き込まれないように一度下がって―――」

「ここだよここ!レッド達、こっちに走ってた!」


 戦闘が始まる、かと思われたその時、少し離れた所から子供の声が聞こえる。

 ザスタードの肩が跳ね、動きが固まる。


 振り向くと、先ほど公園に居た子供の内、強気そうな、我儘そうな少年が、数人の子供を引き連れて駆け寄っていた。


「いつもレッド達、戦ってる時は近づいちゃダメって言ってるじゃん!」

「大丈夫だって!この前こっそり見に行ったけど、大丈夫だったし!―――あ、レッド達だ!」


 無邪気に、危険だという事がイマイチわかっていない様子の少年が近づいてくる。

 ヒイロが彼らが巻き込まれないようにと声を荒げ、駆け出すよりも早く、ダメジャビルが動く。


「小童どもめ、ダメダメビームで動けなくしてやるタブーッ!!」

「えっ、うわぁああっ!!」


 光線が少年たちに襲い掛かる。

 変身できていないヒイロでは、到底間に合わないスピードだ。


 思わず目を閉じたソルジャーズ達だったが、しかし光線は少年たちに当たる事無く。


 代わりに、彼らを庇うように立ったザスタードが、少年たち全員分の光線を一身に浴び、硬直した。


「え、だ、誰!?」

「ターブタブタブ!!なんて馬鹿な男だ、ザスタード!!お前が動けなくなったら、誰も俺を止められなくなるというのに!子供を庇って、しかも四人分全てを喰らっては、もはや心臓すら動くまい!貴様はそのまま死ぬタブー!」

「うそっ、ザスタード!?」


 ダメジャビルの言葉を聞いて、目の前の禍々しい戦士の正体を知る少年達。

 一瞬、その見た目から怪人かと疑った彼らだったが、その正体がついさっきまで自分達と一緒にいた男だったと気づき、驚愕する。


「馬鹿な小童どものおかげで、難なく勝利できたタブ!お礼にお前たちも、ザスタードと一緒に全部を止めて、同じ場所へ送ってやるタブよぉ~!!」

「やめろッ、ダメジャビル!!」

「貴様、許さんぞ!」

「ターブタブタブ!なんとでも言え!変身できず、武器も持たないお前たちに一体何ができブゲェッ!!?」


 すっかり油断して少年達へ近づいていたダメジャビルの体が、突如吹き飛ばされる。


 突然の出来事に全員が呆気に取られている中、ダメジャビルへ体当たりをかまし、地面を転がったまま停止したザスタードが、必死に呼吸をしつつ、笑った。


「はぁっ、はぁっ!ざ、ざまぁみろ、怪人!油断したな!」

「な、なな、なんで動いた!?体当たりだなんて、一体どうやって!!お前は指先一つどころか、心臓さえ動かさない状況だったはずタブー!!」

「意識だけは無事だったし、元々が生身を狙った光線だったおかげか、鎧の機能も一部生きてたからな!台風の力で体を吹っ飛ばして、そのまま体当たりしてやったぜ!」

「そんな馬鹿なぁ!!」


 ギリギリの状況を打破した事でハイになっている為か、堂々と説明をするザスタード。

 だがその体は以前硬直したままで、危機的状況に変わりはない。


 それでも絶望的な状況を好転させた事で、皆の目に希望が宿る。


「―――俺達も、負けてられねぇよな!!重くても、変身できなくても、ブレイブレードはブレイブレードだ!」

「まったく、これなら体作りの方ももう少し力を入れておくんだったな……!」

「ぐ、ぐぉおお、重いぃ……!」

「でも、動けないザスタードだって戦っているんです……!」

「絶対、倒す……ッ!」


 ブレイブレードを引きずりながら、一歩ずつダメジャビルへ近づく。

 鬼気迫る彼らの姿に、ダメジャビルは酷く怯えた。


 だが、すぐに自分が優位にあることは変わらないと思い出し、彼らにビームを浴びせる。


 ミリ単位での移動になっても、止まらず進み続けていたソルジャーズだったが、ついに完全に静止してしまう。

 ザスタードも暴風で自分を吹き飛ばし、ダメジャビルへの体当たりを試みていたが、まるでかすりもせず。


「ふぅーッ、ふぅーッ………。くそっ、ビビらせやがって、ソルジャーズめ。だが俺の勝ちタブ。今度の今度こそ、逆転は不可能!戦う力は愚か、動く力さえ奪われたお前たちは、そこで大人しくジャークダアク帝国の侵略を見物しているが良いタブ!ターブタブタブ!ターブタブタブヘゥッ!!?」


 高笑いの最中、再び言葉を遮られる。

 空高くから落下してきた何者かによって踏みつけられたダメジャビルは、潰れたカエルのような声と共に倒れた。


 一方、ダメジャビルを踏み潰した者はというと、小さく息を吐き、周囲を見渡しつつ喋り始めた。


「おかしいな。レーダーの通りなら、この場所に怪人が出現しているはずだが………銅像ごっこの最中か?まぁ良い。そこそこ人も多いし、せっかくだから名乗っておこう。―――俺様は、数多の世界にその名を輝かせる、最強の戦士!ゴールデンソルジャーッ!!」


 黄金の鎧に、二振りのブレイブレード。

 ソルジャーズの鎧と異なり、胸当てや肩当てがついている彼は、ダメジャビルの上で決めポーズを取った。

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