第3話 名乗りを新たに!強すぎる新入り!?

「ほんとに良いんですか?」

「おう!全力で来い!」


 ソルジャーズの秘密基地、その一室。

 広い地下駐車場のようなそこは、トレーニングルーム。


 絶夢が仲間になった翌日、ヒイロが突然「ザスタードがどれだけ戦えるのか詳しく知りたい!」と言い出し、急遽二人が戦う事になったのだ。


「まったく。スライムジャビルとの戦いで、ザスタードの実力が確かなことはわかっているだろうに」

「ヒイロは勝負バカだからね。寧ろ昨日戦わなかったのがビックリだったよ」


 藍治含む五人が見守る中、二人は剣とバックルを構える。


『ZASTERDRIVER……!!』

「おー!ベルトになった!すげぇ!」

「ふふっ、そうでしょうそうでしょう。俺も良く原理とか分かってませんけど、凄いてカッコ良いのは確かですからね」

『SET、ZASTERD』


 カセットを装填し、ポーズを取る。

 負けじとヒイロも鍵を錠前に差し込み、激しく動いて捻る。


「剣気解放!」

「変身!」

『BREAK……!』

『レッドソルジャー!』

『Get a Forbidden power! ZASTERD!!』


 赤い光と黒い瘴気が二人の体を包む。

 変身したレッドソルジャーとザスタードは一も二もなく駆け出し、片や剣を、片や拳を振り抜いた。


「ッ、重!?」

「スペックだけなら、元の世界じゃ最強でしたからね!!」


 互いの攻撃は拮抗することなく、レッドが押される結果に終わる。

 最強を名乗るだけあって、ザスタードの一撃は重く、強かった。


 彼の繰り出す攻撃は、スライムジャビルの戦闘時とは違い、なんのエフェクトも纏っていない。

 だがそれでも、レッドを防戦一方に持ち込むだけの力と、技の冴えがあった。


「………強い」

「スペックだけとは言うが、絶夢自身の技術も中々目を見張るものがあるな。徒手空拳には明るくないが、何となくわかる」

「あ、でも、そろそろレッドのターンじゃない?」


 礼紋の言う通り、レッドは防御姿勢を崩し、足払いを繰り出した。

 回避にこそ成功するが、ザスタードは攻撃の手を止められ、そのまま一撃喰らってしまう。


「先に有効打を出したのは、やはりヒイロか」

「硬ッ!?まじかよ!!」

「………有効打、でしたか?」


 モモが首を傾げる。

 彼女の疑問の通り、ザスタードにはまるでダメージが入っていない。


 彼は肩に止まったブレイブレードの刀身を躊躇なく掴み、レッドの動きを止め、お返しとばかりに拳を叩き込んだ。

 壁まで吹っ飛ばされ、叩きつけられたレッドは、剣を杖代わりにして立ち上がる。


「い、痛ぇ……!強すぎるだろ!」

「よく言われます」

「―――へへっ、でも、俺だって負けてねぇぜ」

『ファイアーパワー!!』


 鍵を錠前に差し込み、回す。

 瞬間、刀身が激しく燃え上がり、炎の斬撃がザスタードへ飛来した。


 拳で振り払うも、炎は彼の腕で燃え続け、ついにダメージを与える。


「熱ッ……!まさか、消えない炎!?」

「いーや。ちゃんと消える。けど、しばらくは燃え続けるぜ!」

「マジですか―――ッと!!」


 立場が逆転した。

 

 ザスタードの装甲は極地での戦闘も可能であり、溶岩の海に潜っても快適に過ごせるはずだが、レッドの炎は特殊なのか、そのまま熱が伝わってくる。

 その上、いつ消えるかわからないと来た。刀身に触れて防ぐことは愚か、攻撃をかすりでもすればアウト。

 一転窮地に立たされたザスタードは、苛烈な連撃から無理矢理抜け出して、カセットを取り出した。


「消せるか怪しいけど、炎には水!」

『SET、TIDAL WAVE』

『BREAK………!』

『Wash anything away! ZASTERD!!―――TIDAL WAVE』


 鎧の右半分が水流に包まれ、荒波のような見た目に変化する。

 

 レッドはザスタードの見た目が変化した事に感動してか、炎が消されたことに気づかない。


「すげぇええッ!!昨日とはまた違う見た目になった!」

「ザスタードカセットって言って、災害の力が込められてるんです。今回のは津波で、こんな事が出来ます!!」


 ザスタードが右腕を薙ぐと、どこからともなく高波が出現し、レッドを押し流した。

 高波はすぐに消えるが、レッドの刀身の炎は消え、彼の体は濡れたままだ。


「な、なるほど……。水の力って訳か。凄いぜ。―――でも負けねぇ!!俺の炎はこんなもんじゃねぇぜぇえええっ!!」

『ファイアーパワー!!!』


 刀身が再び燃え上がる。先ほどよりも激しく、噴き上がるプロミネンスのように。

 ザスタードも右腕に波の力を貯め、まさに一触即発という状況。


 そんな中、トレーニングルーム内に警報が響き渡る。

 

「これって、怪人出現の?」

「あぁ。決着はおあずけみたいだな。―――行こうぜ!」


 変身解除して、トレーニングルームを走り去るヒイロ。

 絶夢も慌てて変身を解除して、「変身したまま走った方が早いような」と一瞬脳裏を過った無粋な考えを振り払い、後を追った。













 怪人が確認された場所に到着すると、そこには例のごとく逃げ惑う人々と、町を破壊しながら進軍する怪人とイッペソーツ達の姿があった。


「やめろ!ニワトリジャビル!」

「コケーッ!!違うトリ!オレはカザミドリジャビル!人を見かけだけで判断したなレッドソルジャー!」


 ニワトリ頭の怪人が、ヒイロの言葉に腹を立てる。

 どうやら、ニワトリと間違えられる事が嫌いだったようだ。


「風見鶏って?」

「風の向きを確認できる装飾品だ」

「実は魔除けの効果もあるんですよ」

「………なんで別世界からの侵略者が、この世界の物を模してるんだろう」


 絶夢の疑問には、誰も答えない。

 そもそも聞こえていなかったかのように、五人はブレイブレードを構えた。


「とにかく行くぞ、皆!新しい仲間が加わった、新生ソルジャーズの力を見せてやろうぜ!」

「新しい仲間だぁ〜?そこの見慣れない小僧か!」

「小僧……まぁ小僧か」

『ZASTERDRIVER……!!』


 変身ベルト、ザスタードライバーを装着する。

 五人が鍵を構えるのと同時に、絶夢はカセットを装填。


『SET、ZASTERD』

「「「「「剣気解放!」」」」」

「変身」

『BREAK……!』


 五色の光と粘性のエネルギー体が各々を包む。


「勇気と情熱の戦士!レッドソルジャー!!」

『レッドソルジャー!』

「知略と冷徹の戦士、ブルーソルジャー!」

『ブルーソルジャー!』

「陽気と元気の戦士!イエローソルジャー!」

『イエローソルジャー!』

「魅惑と慈愛の戦士。ピンクソルジャー!」

『ピンクソルジャー!』

「強靭と無敵の戦士…………ブラックソルジャー!」

『ブラックソルジャー!』


 名乗りと共に、戦士の姿に変わる五人。

 絶夢は戦隊ヒーローの名乗りを間近で聞けたことに感動しつつ、自分もそれっぽいポーズを取る。


『Get a Forbidden power! ZASTERD!!』

「ッし!行きましょう、皆さん!」

「いや待て待て待て!」


 意気揚々と駆け出そうとしたザスタードを、レッドが制止する。


「まだ名乗りが終わってないだろ?」

「あ、ごめんなさい。お約束ですもんね」


 戦隊の名乗りといえば、戦隊名を言うところまでがセットだ。

 個人名しか名乗っていない今戦闘を開始しては、締まらないだろう。


 謝るザスタードに、しっかりしてくれよ〜、と明るく笑うソルジャーズ。

 しかし一向に、名乗りの続きが始まらない。


 カザミドリジャビルが退屈そうに足先をパタパタと動かしている。


「え、言わないんですか?」

「こっちのセリフだ。お前が名乗らないと終われないだろう」

「俺!?いや、でも俺別に戦士ってわけじゃないですし、名乗りとか考えてなくって」

「ん〜、じゃあ災厄の戦士!とかどう?」

「おぉ!良いじゃねぇかそれ!カッコ良い!」

「災害の力で戦うザスタードにぴったりですね!」


 期待の視線を向けられ、言葉に詰まる。


 結局、自分が劇場版限定でコラボしているヒーローだとして、流れで名乗る事もあるか、と考え直した彼は、咳払い一つして、声を張った。


「───災厄の戦士!ザスタード!!」

「「「「「戦士戦隊!ソルジャーズ!!」」」」」


 背後で大爆発が起こる。

 ようやく名乗りが終わった事で、カザミドリジャビルもリラックスした姿勢を正し、武器を構えた。


「コケーッケケケ!新たな仲間とは随分息が合っていないみたいトリねぇ〜!」

「違う!コイツはちょっと恥ずかしがり屋なだけだ!」

「恥ずかしがってるんじゃ無くて、こう、所属とか立場とかをある程度厳密にしておきたくて」

「もういい、さっさと倒す」

『ダークパワー!』


 待ちくたびれたブラックが、刀身に闇を纏わせ、一人突撃する。

 イッペソーツ達を派手に薙ぎ払い、一瞬でカザミドリジャビルの下へ接近した彼女は、ブレイブレードを大きく振り上げ───


「そうは行かんトリ!!」

「なっ!?」


 カザミドリジャビルの首が180度回転する。

 するとブラックの体も180度回転し、攻撃が大きく空振った。


 カザミドリジャビルの能力か!と驚く四人と、リアルなニワトリ頭が回転すると絵面酷いな……と引き気味のザスタード。

 カザミドリジャビルは首を元に戻すと、背を向けたままのブラックを蹴り飛ばし、高笑いした。


「コケーッケケケ!カザミドリジャビル様に攻撃は通用しないトリ!そして喰らえ!」

「うわっ!?すげぇ風!?」


 カザミドリジャビルがマントをはためかせると、体が持っていかれそうな程の強風が彼らを襲った。

 その場を動いていなかった四人は踏ん張ることができたが、地面を転がっていたブラックは体を浮かされ、仲間達の下へ吹き飛ばされてしまう。


「よっ、と………大丈夫でしたか?」

「………ありがとう」


 唯一強風の影響を受けていないザスタードが、彼女を受け止める。

 このまま風の攻撃を続けられたら、自分くらいしか戦えない………そう考えた彼は、ブラックを降ろしつつ、カセットを変えた。


『SET、TYPHOON』

「そっちが風なら、こっちも風だ!」

『BREAK………!』


 彼らを襲っていた強風が、ザスタードの右腕に集約していく。

 いつしか鎧は暴風を模した形状に変化し、カザミドリジャビルの生み出した強風は全て呑み込まれた。


『Messed up fever! ZASTERD!!───TYPHOON』

「な、なにぃ〜〜!?オレの風を、奪ったトリ〜〜!?」

「おぉ、ナイス!!」


 風の妨害が無くなれば、五人も戦える。

 一斉にカザミドリジャビルへ突撃した彼らは、しかしその攻撃を


「ぐわぁっ!?」

「痛たた……カザミドリジャビルの能力ですね」

「コケケ!風が使えなくとも、この向き変え攻撃がある限り死角なしトリ!お前達は仲間同士で攻撃をぶつけ合うトリよ〜〜!」


 コケー!と爆笑するカザミドリジャビル。

 首をグルグルと回す姿は、特撮番組の怪人と言うよりは、ホラー映画の怪物に近かった。


 だが容姿の不気味さはともかく、攻撃すればあらぬ方向に向けさせられてしまう事実に変わりなく。

 ソルジャーズとザスタードは、カザミドリジャビルに近づけない状況へ逆戻りした。


「遠距離攻撃をしても、きっとこっちに飛ばしてくるよね………」

「全方位から攻撃しても、全員反対側を向かせられるだけでしょうし……」

「ブルー、なんか作戦無いか?」

「待ってくれ、今考えて───む?」


 カザミドリジャビルを観察していたブルーが、何かに気づく。

 彼は円陣を組むように指示し、小声で仮説を語る。


「もしかすると、アイツの向き変え攻撃にはクールタイムがあるのかもしれない」

「え、どういう事?」

「良くアイツの顔を見てくれ。動かす度に、一度正面に戻しているだろう?さっきのブラックの時もそうだったが、その時は向き変更が発生していない………つまり、その隙を狙えば」

「攻撃が通る………!」


 上機嫌なカザミドリジャビルは、自身の弱点が早々に見抜かれてしまったことに気づいていない。

 ソルジャーズは小声で作戦を確認すると、堂々とカザミドリジャビルへ切っ先を向けた。


「コケケケケ!どうしたソルジャーズ!まさかオレの倒し方が思いついたトリか?」

「あぁ!お前が攻撃を逸らすなら、それより早く動けば良いだけだ!!」

『『『『アクセルパワー!!』』』』


 ブレイブレードから、加速の力を引き出す四人。

 カザミドリジャビルはわざとらしく「ま、不味いトリ〜〜!!」と叫び、狼狽える。


 瞬間移動を思わせる超スピードで接近した四人は、同時に攻撃を行い───


「なぁんちゃって!!ひっくり返れ〜ぃ!」


 カザミドリジャビルの頭が180度回転し、先程のブラック同様に反転させられた。


「コケーッコケコケ!お前たちの浅知恵ではこれが限界!ソルジャーズ敗れたり!このカザミドリジャビル様が、侵略の功労者となるトリ〜〜!!コケーッケッケッケ!!」

「───うるさい」

『フリーズパワー!』

「ゴゲェエエエ!!?く、首がァアアア!!」


 ゆっくりと首を正面に回し、勝ち誇るカザミドリジャビル。

 しかしその背後に迫っていたブラックが、冷気を纏った刀身で容赦なくその首を斬った。


 首が凍てつき、回らなくなったカザミドリジャビルの前に、ザスタードが仁王立ちする。


「な、なんで!?どうして!?」

「ブルーさんの作戦だ。向き変え攻撃が使えない、首を戻すタイミングを狙うってな。───首を凍らせて回らないようにするのはブラックさんの作戦だ。油断したな」

『MAXIMUM……!!』

「ひぃっ!!ま、待つトリ、やめるトリよぉ〜!オレはただ、この町を強風吹き荒れる住み良い町にしたかっただけトリ〜!!」

「同情の余地ねぇよ!!」

『TYPHOON IMPACT!!』


 カザミドリジャビルを掴み、放り投げる。

 遥か上空に投げ飛ばされたカザミドリジャビルは、巨大な竜巻に呑み込まれ、刃のような風に全身を切り裂かれる。


 そうしてボロ雑巾のようになったカザミドリジャビルが落下してくると、それを全力で蹴り飛ばし、爆散させる。


 あまりに暴力的な必殺技に、ソルジャーズ達は若干引いた。


「す、凄いな、ザスタード」

「ありがとうございます。──でも、すぐに巨大化して復活するはずです。俺じゃ対処できないんで、お願いします」


 変身を解除し、急いでその場を離れようとするザスタード。

 しかし先日のスライムジャビルの時とは違い、一向に巨大化したカザミドリジャビルが現れる気配が無い。


「………?あれ、いつもならもう来るんだけどな」

「ザスタードの攻撃が強すぎて、復活させられないとか?」

「そ、そんな事ありますかね……?」

「───アイツはもう復活しないさ」


 背後から、どこか気取った男の声が聞こえる。

 振り向くとそこには、テンガロンハットを被った紫色の戦士の姿があった。


「お前は、ネガソルジャー!!」

「やぁ、ソルジャーズ。そして新たな戦士、ザスタード。久しぶりと初めまして、どっちを言うのが正解だろうな?」


 ガンスピンをしつつ笑うネガソルジャー。

 事前にジャークダアク帝国が生み出した『闇の戦士』について聞いていた絶夢は、再びドライバーを装着し、変身しようとする。


「おっと、変身するのはやめておけ。意味がないからな。今日ここに来たのは、何も戦う為じゃ無い」

「じゃあなんの用がある?変身した状態で、銃を手に持って、平和にお話しようとでも?」

「ま、警戒したいなら好きなだけすると良い。───ザスタード。今日俺が来たのは、お前に用があったからだ」

「……なんだよ」


 身構えつつ、会話に応じる絶夢。

 変身していない彼を守るように五人が周囲を囲む中、ネガソルジャーは両手を広げ、堂々と言った。


「単刀直入に言おう。ザスタード!我らジャークダアク帝国の仲間になれ!お前のその力は、我ら帝国の中でこそ輝くだろう!!」

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