第2話 予言、当たり!?ソルジャーズの話!

 ヒイロに手を引かれて連れていかれた先は、お洒落な洋食屋だった。

 店先の立て看板には「本日のおすすめ」のイラストが大きく書かれており、端の方に『レストラン大崎』と小さく書かれている。


「ここが秘密基地なんですか?」

「しぃーっ!言ったら秘密にならないだろ?」

「あ、あぁ………ごめんなさい」


 それをその声量で言うのは良いのか?と、割と大きな声で窘めてきたヒイロに苦笑しつつ謝る。


「いらっしゃ―――っと、皆か。どうやら、スライム問題は解決できたみたいだね」

「ただいま店長!そうだぜ、コイツのおかげでな!」

「ど、どうも」

「うん。初めまして。―――もしかして、彼が?」

「ああ!『予言の書』に出てきた、新たなる戦士だ!」


 肩を組まれ、堂々と紹介された絶夢は、言いにくそうにしつつもヒイロの言葉を否定しようとする。

 しかしそれよりも早く店長が目を輝かせ、彼の手を握った。


「そうか、君が。―――ふむ、確かに、戦士の手をしている。戦いの中で、磨き上げられた手だ」

「まぁ、怪人退治とか、喧嘩とかはやってましたけど………。あの、俺は別に戦士とかじゃなくって」

「早速、地下に案内しよう。ささ、遠慮せずに」


 今度は店長に、厨房へ引っ張られる。

 店長が冷蔵庫の横にあるボタンを押すと、冷蔵庫は左に移動し、隠し通路が出現した。

 

 長い長い階段の先に、鉄扉が見える。

 恐らくは、そこが秘密基地なのだろう。


 ここまで来てしまった以上、後戻りはできまい。

 渋々現実を受け入れた絶夢は、大人しく秘密基地に入った。


「―――ひ、秘密基地だ」

「おう。そうだぜ?」


 中には、組織の本部、のような光景が広がっているのだろう。

 そんな絶夢の予想を裏切り、中には子供たちが作るような、拙さとノスタルジーさを感じさせる光景が広がっていた。

 ハンモックだとか、ハリボテの小屋だとか………子供心をくすぐる品々が、至る所にある。

 その癖、部屋の中心には巨大なモニターと近未来的なテーブルが設置されており、この町の地図と、監視カメラのものと思わしき映像が映し出されていた。


「ようこそ、新たなる戦士君。私はレストラン大崎の店長にして、戦士戦隊ソルジャーズの指揮官。元ブルーソルジャーの、大崎おおさき藍治らんじだ。以後、お見知りおきを」













「改めまして、底無絶夢です。高校二年生、17歳で………ザスタードっていう、一応変身ヒーローをやってます」


 深々と頭を下げた絶夢に、くろねを除く五人が拍手をする。

 くろねは彼の年齢に少しだけ興味を示したようだったが、すぐにそっぽを向き、フードで顔を隠した。


「それで、その………こう、変身して戦う!ってところは皆さんと同じなんですけど……戦士とか、ソルジャーズとか、そういうのとはまた違くってですね。なんなら俺、信じてもらえないかもしれないですけど………こことは、違う世界から来たんです」


 包み隠さず全てを明かした絶夢だったが、ソルジャーズも店長も、誰一人として驚かない。

 異世界から来た、という発言に関しても、嘲笑一つせず、むしろ喜ばしいとでも言いたげな顔をして頷いた。


「やっぱり、予言の通りみたいだね!」

「『五人の戦士が力を失いし時、異界より現れし新たなる戦士、敵を討つ』。こうもぴったりと一致するなんて、凄いですね」

「あ、あれっ!?」


 どうやら奇跡的に、今の状況と彼らが信じる『予言の書』とやらの記述が、完全に一致してしまったようだ。

 彼らの誤解を解くつもりが、さらに信じ込ませてしまったということに気づいた絶夢は、慌てて否定に入る。


「予言が何かはわかりませんけど、今回たまたま似た感じになっただけで違うと思います!だって俺、戦士もソルジャーもわからないですし!なんなら俺、あんまり言いたくないですけど、ダークヒーロー寄りなんですよ!ついさっきまでは敵役だったんですよ!」

「ふっ……それを自分で言うヤツがいるか?」

「絶夢君、中々面白いね!」

「面白いとかじゃなくってですね!?」


 碧と礼紋に笑われ、言葉に詰まる。

 どう説明すれば良いのか。何を話せば誤解されずに済むのか。

 正解なんてわかるはずもなく、絶夢は途方に暮れた。


 そんな中、藍治が口を開く。


「それも予言の通りだね。『新たなる戦士は、戦士にして戦士に非ず』………ソルジャーズを知らないというのも、私たちの言う戦士とは、違う戦士だというのなら、納得だ」

「………えぇ」


 ここまで予言とやらが的中しているなら、逆に自分が戦士じゃない、という方が間違っているのではなかろうか。

 

 目が死に始めた絶夢に、ヒイロが意気揚々と提案する。


「なら、俺達ソルジャーズの話をしようぜ!絶夢の話も気になるけど、まずは俺達がどういう戦士なのか知ってもらわねぇとな!」

「賛成だ。―――そうだな、十分待ってくれ。プレゼン資料を作ろう」

「もう、お堅いんだから~。ただ話すだけでいーじゃん!そうだな、まずは僕が初めて戦った日の事―――」

「そういう個人的な話を中心にしては意味が無いだろう!こういう時はまず、戦士戦隊ソルジャーズがいかにして生まれたのか、そのルーツからな」

「え、碧それ覚えてるの?まじ?」

「逆にお前は自分がなぜ戦士として戦っているのか知らずに戦っていたのか……!?」


 言い争う男二人を無視して、モモが絶夢の近くに腰掛ける。

 彼女は手帳を取り出すと、咳払い一つの後に語り始めた。


「戦士戦隊ソルジャーズは、遥か昔………今とは比較にならない程の高度な文明が存在した頃に誕生した、とされています」

「ムー大陸とか、そういう?」

「はい。アトランティスとか、そういうアレです。―――彼らは、数億年先の未来までを予言し、一冊の本にまとめました。本、と言っても、今で言うスマートフォンのような、デジタルデバイスなんですけどね」

「この鍵と一緒に発掘されたんだってさ」


 ポケットから赤い鍵を取り出し、絶夢に見せる。

 一見すると、どこにでもありそうな普通の鍵だ。

 持ち手の部分には、レッドソルジャーの頭部と思しき模様が刻まれている。


「聖剣ブレイブレード………私達の剣ですね。あの剣はあまりに強大な力を宿している為、封印を施されているんです。なので、この鍵を使って封印を一部だけ解放し、必要な分の力を取り出すんです」

「こんな感じにな!剣気解放!!」

『レッドソルジャー!』


 オーバーアクションと共に鍵を捻ると、ヒイロの体が赤い光に包まれ、レッドソルジャーへと変身した。

 得意げにポーズを決めるレッドを、碧が叩く。


「あだっ!」

「狭い場所での解放はやめろと言ってるだろう」

「ははは、ごめんごめん」

「これ以外にも、炎とか水とか巨大化とか、色々な力を引き出せるんだー。レッド、せっかくだし何か見せてあげてよ」

「そうだな、じゃあ俺の一番得意な炎を」

「だからやめろと言っているだろう!」


 礼紋とレッドが同時に叩かれる。

 モモは苦笑いしながら、話を戻した。


「予言には、この世界に訪れる危機について書かれていました。自然災害であったり、外敵であったり………ソルジャーズはそうした危機に対処すべく結成されたと言います。世界に危機が訪れる時、『選ばれし者』の下に剣が現れ、その時代のソルジャーズとなるのだ……と」

「今は俺達が選ばれた、という訳だ。侵略者、『ジャークダアク帝国』と戦う戦士にな」

「じゃ、『ジャークダアク帝国』?」


 なんともストレートな名前に、首を傾げる絶夢。


「数多の世界を侵略し、支配してきたという帝国だ。次の標的に、この世界が選ばれたという事だな」

「世界を支配するって、じゃあ今もどこか別の国が襲われてたりするんじゃ」

「それは大丈夫。なんでも、先々々々々代?のソルジャーズ達がこの世界に結界を貼ってくれたおかげで、今はここ、静木せいぎ市に僅かな兵を送るので精一杯なんだって」


 『静木』の読み方を知れたことに密かに感動しつつ、なんとなく脳内で彼らの情報をまとめる。


 この世界はソルジャーズという戦隊によって遥か昔から守られてきた世界で、今はこの時代の脅威、ジャークダアク帝国との戦いに臨んでいる最中。

 自分は予言の書に記されているらしい『新たな戦士』であり、彼らと共に戦う事になるのだと。


「なる、ほど………」

「ジャークダアク帝国も、ソルジャーズの力を解析して闇の戦士を生み出したようでね。なんとか撃退できたものの、次も上手くいくのかと言えば怪しい。───ザスタード、底無絶夢君。どうか、ソルジャーズに力を貸してはくれないだろうか」


 頭を下げる藍治。絶夢は静かに目を閉じて、腕を組んで考え始めた。


 ───ヒーローが好きだ。

 誰かの為に命をかけて戦う、カッコ良いヒーローに憧れた。

 だが、その資格が自分にあるのか?


 元居た世界での事を思い出す。


 自分が、ザスタードがどんなヒーローだったのか。

 なんの為に力を手に入れて、なんの為に戦ったのか。


「俺は………」


 熟考の末、俯いていた絶夢は顔を上げ、しっかりと藍治達の目を見て、答えた。


「戦います。皆さんと一緒に。───、ヒーローだって胸を張れるように、足掻きたい」

「そうか。………ありがとう」

「よぉーっし!なら歓迎パーティーだ!店長、美味いモン頼むぜ!」

「待て待て、まだ絶夢やザスタードに関する話を聞いていないだろう」

「いーじゃんいーじゃん!まずはパーティーでしょ!」

「そうだね。モモ君、お手伝いを頼んで良いかな?」

「はい、任せてください!」

「私はパス」

「そんなこと言うなって!ピザも出るんだぞ!」

「………はぁ」


 騒ぎ始める六人に、絶夢はつい笑ってしまう。


「ケーキも買ってこようぜ!『新たな戦士、ザスタードくんへ』って書いてもらってさ!」

「………あの、別に戦士では無いですからね?イメージ的には劇場版限定の共闘みたいな」

「劇場版?なんだそれ?ま、細かい事は良いだろ!それより絶夢、一緒にケーキ選びに行こうぜ!」

「生クリーム派?チョコクリーム派?」

「あー、俺はチョコクリームの方が………って、細かい事では無いですからね!?一応元の世界に帰る方法を探しつつ、になりますし!あとこの世界での家とか探さないと」

「この基地を使えば良いだろう。ちょうど一部屋分の空きスペースもあるしな」


 流されるまま、基地を後にする。

 結局、絶夢の話はパーティーによって有耶無耶になり、一頻り楽しんだ後は、特にその話題に触れること無く解散した。


 ───かくして、ザスタードが新たな仲間として、ソルジャーズに加わった。


 だが、彼が『新たな戦士』では無いという事を知ることになるのは、ほんの数日後のことであった。

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