第1話 衝撃の出会い!新たなる戦士!
「―――どこだ?ここ」
人気のない道路の上で目を覚ます。
一見するとただの制服姿の少年だが、彼はなぜか傷だらけで、腰には玩具のようなベルトが装着されていた。
彼は砂と埃を軽く手で払いつつ、溜息を吐く。
「十中八九、あの『穴』のせいだな………。単純にワープ、だったら良いけど」
ボソボソ呟きながら、あてもなく歩き始める。
彼の名前は
中肉中背、可もなく不可もない容姿の彼は、視線をせわしなく移動させ、見知らぬ住宅地の全貌を確認した。
「まーるで見覚えがねー………。どこだここ?屋根的に雪国は無いだろうけど………。あ、電柱」
とある事情から見知らぬ土地に飛ばされてしまった彼は、早速居場所のヒント、というか答えになり得るだろう電柱を発見し、住所を確認する。
「静、木、市………?なんて読むんだこれ」
聞き覚えの無い地名に首を傾げつつ、スマホで検索する。
が、なぜか検索結果が表示されない。似た名前の、聞き覚えのある地名しか出てこない。
まるで存在しない町に来てしまったかのような状況に、彼は頭を抱えた。
「異世界に来ちゃった、ってか。笑えねぇぞマジで」
理解し受け入れるまでが早いような気もするが、ひとまず彼の中では、その認識で固定されることとなった。
さて、ここが異世界となれば、彼にできる事は無くなる。
帰る場所も、行くべき場所もわからない以上、ここで立ち往生するか、体力が尽きるまで意味もなく歩き続けるかのどちらかしか選べない。
住宅の感じを見る分には、日本に類似した場所であると思われるが………
「迷子って訳でもねーし、交番に行くのも―――ッ、悲鳴!?」
悩んでいたその時、突如近くから悲鳴が聞こえた。
それも一人二人のものではない。それなりの人数が同時に驚き、恐怖したようだ。
絶夢は迷わずに声が聞こえた方へと走り出し、すぐに現場と思しき場所へ到着する。
そこには、緑色のスライムが頭部の代わりに生えている、人形の異形が居た。
一見何かのコスプレにも思われるが、スライムの蠢き方は作り物のソレではなく。
「なんだアレ!?」
「ス〜ララララ!アレとは失礼な!ワタクシはスライムジャビル!ジャークダアク帝国の上位戦闘員ですぞ!」
「は、はぁ?」
何言ってんだコイツ。
呆れて聞き返した絶夢に、スライムジャビルは杖を突き出す。
「いまどきジャークダアク帝国の名を知らぬとは愚かなヤツ!そんな貴様は、無知の罪でスライムの刑に処しますぞ!」
「うぉっ!?あっぶね!」
杖の先端から発射された光線を、紙一重で躱す。
代わりに地面に当たった光線は、コンクリートをドロドロのスライムに変化させた。
もしこれが当たっていたら、彼はスライムになっていただろう。
ようやくこれが何かの撮影や悪ふざけではなく、危機的な状況であると判断した彼は、表情を硬くして懐からカセットテープのような物を取り出した。
「………怪人みたいなモンか。なら容赦しねぇ」
『SET、ZASTERD』
「この禍々しい音楽はなんですぞ?!け、警報……!?」
「音楽は気にすんな!………変身」
『BREAK………!』
ベルトの上部を叩く。まるでカセットを噛み砕くかのようにパーツが動くと、音楽が止まる。
絶夢の足下から黒い粘性の何かが噴出し、彼の全身を包み込む。
どこからか現れた機械的なパーツがそのまま彼を挟み、鎧になる。
『Get a Forbidden power! ZASTERD!!』
変身ヒーロー、ザスタード。
災害の力を宿す、邪悪なヒーロー。それが底無絶夢の、もう一つの姿だった。
「スライムジャビルだっけか。恨みは無いが、悪事を働くってんなら俺が倒す」
「へ、変身した……!貴様、ソルジャーズの仲間だったのですぞ!?」
「ソルジャーズ?なんだそれ?───ま、どうでも良いけどな!」
スライムジャビルに飛びかかると、黒いエネルギーを拳に纏わせ、容赦なく殴る。
重々しい音と共に吹き飛ばされたスライムジャビルは、呻きつつも杖を構え、光線を乱射した。
「例え新たなソルジャーが相手だろうと、このスライム光線を当ててしまえばこちらのものですぞ!」
「当たらなかったら関係ないだろ!」
「ぐべぇっ!?」
光線の合間を縫って、再びスライムジャビルを殴る。
地面を派手に転がったスライムジャビルは、杖をついて立ち上がり、ザスタードを指差した。
「い、イッペソーツ達!やってしまうのですぞ!」
「ジャコー!」
「なんかいっぱい出てきた!?」
物陰から大量に現れる雑兵。ザスタードがそちらに対処している隙に、スライムジャビルはそそくさと後退し、スライム光線を関係ないところへと乱射し始めた。
次々に作られるスライムは、ウゾウゾと一箇所に集合し、スライムジャビルに飛びかかる。
彼(?)を呑み込もうとした大スライムは、吸収され消滅。
スライムを吸収した事でパワーアップしたのか、スライムジャビルの体が怪しく発光し始めた。
「そんな事もできんのか!」
「スーラララララ!これで万全!スライムにさせずとも、貴様に勝てるのですぞ!」
「ジャコ!ジャコ!」
イッペソーツと、駆け寄ってくるスライムジャビル。
流石に不味い、と判断したザスタードは、一度近くのイッペソーツ達を吹き飛ばし、包囲網を脱する。
そしてどこからともなくカセットを取り出し、ベルトに入っている方のカセットを抜き取って、装填した。
「大人数相手なら、コイツだ」
『SET、EARTH QUAKE』
「また警報みたいな音楽が!?」
「だーから気にすんなって!」
『BREAK………!』
『That blow destroys anything! ZASTERD!!――― EARTH QUAKE』
右半分の鎧が、地割れを表現したかのような見た目に変化する。
狼狽えていたスライムジャビルは、しかし頭を振って気を取り直し、イッペソーツと共にザスタードへ突撃した。
ザスタードはただ、その場で強く地面を踏みつける。
すると、世界が揺れているかのような大地震が発生し、衝撃波によってイッペソーツ達が吹き飛んだ。
スライムジャビルは辛うじてその場に留まる事が出来たが、ダメージのせいで片膝をついてしまう。
「ぐ、ぐぅっ!なんですぞ、その力!なんですぞ貴様はァッ!!」
「俺は底無絶夢。またの名を、ザスタード!!―――こう見えて、正義のために戦うヒーローだぜ」
「お、おのれザスタード……!!せっかくソルジャーズを無力化できたというのに、こんな邪魔が入るとは!!」
悔しがるスライムジャビルを前に、ザスタードはベルトの上部を叩く。
『MAXIMUM………!!』
「さぁ、終わりにしようか」
『EARTH QUAKE IMPACT!!』
「くぅぅっ、スライムバリアー!!」
拳に膨大なエネルギーを集約させ、スライムジャビルへ殴りかかる。
スライムの防壁を作りガードしようとするが、間に合わない。
ザスタードの拳が、スライムジャビルの胴体を穿つ。
その衝撃で空間が歪み、罅割れ、大爆発を起こした。
「―――めっちゃ普通に倒しちゃったけど、大丈夫だよな?」
変身を解除し、爆心地を伺う。
若干不安そうにしていた彼だったが、突如砂塵の中から巨大な影が出現し、尻餅をついた。
「スーラララララ………!!ジャークダアク様のお慈悲により、復活したですぞぉ!!」
「で、でっかくなって復活とか、戦隊モノかよ!!」
「ん~?何か言っているようだが、小さすぎて聞こえないですぞ~?」
わざとらしく耳をこちらに向けてくるスライムジャビルに苛立つも、絶夢にこの巨体と戦う手段はなく。
ひとまず逃げなくては、と駆け出そうとしたその時、背後に五人の男女が並んでいる事に気づいた。
全員、柄の部分に鎖が巻き付いた剣を携えており、臆することなく巨大化したスライムジャビルを見上げている。
「あ、あなた達は?」
「ん?俺は
「自己紹介をしている場合ではないだろう。―――すまないな、ザスタード。君の戦い、見させてもらった。本当なら加勢したかったところだが、スライムのせいで動けなくってな………」
「まっ、君がアイツを一回倒してくれたおかげで元に戻れたことだし!」
「あとは私達に任せてください!」
「―――剣気解放」
イマイチ状況が掴めていない絶夢を置いて、真っ先に黒い服を着た少女が変身する。
残りの四人もそれに続いて変身し、「名乗りは省略!」と叫ぶや否や、錠前に動物の形をした鍵を差し込んだ。
「「「「「騎獣、召喚!!」」」」」
『カモン!メラドラゴン!』
『カモン!バシャシャーク!』
『カモン!ドゴンコング!』
『カモン!ピカイーグル!』
『カモン!シャドウルフ!』
剣から声が流れる度、空に穴が開いて、ドラゴンやサメ、ゴリラに鷹に狼が、スライムジャビルに攻撃しながら降りてくる。
五人は、ソルジャーズは各々の色に応じた騎獣の下へ跳躍し、乗り込んだ。
かと思えば騎獣達は突然変形して、合体し、巨大なロボットになった。
「「「「「セイケンオー!出陣ッ!!」」」」」
五人が息を揃えて、ロボットの名前を呼ぶ。
巨大な剣と盾を持ったセイケンオーは、ここぞとばかりにポーズを決める。
絶夢は唐突な展開に目を丸くして、呆然と眺めるしかできなかった。
「今度はソルジャーズ!!くそうっ、まとめてスライムにしてやるですぞぉー!!」
「そうは行くか!」
巨大な剣が、スライムジャビルの右手を叩き、杖を落とさせる。
落下の衝撃で地面を転がる事になった絶夢は、このまま近くに居たら死ぬ、という事に今更気づいて、一目散にその場を逃げ出した。
「レッド!ザスタードのおかげか、スライムジャビルはかなり弱っているみたいだ!」
「いつもより早いけど、必殺技にしようよ!」
「おう!ピンク、ブラック、準備は良いよな!」
「はいっ」
「倒す」
―――五人の心が一つになる時、セイケンオーが放つ必殺の一撃!
「ま、待つですぞ!まだワタクシ、巨大化してからなんの技も―――」
「「「「「ソルジャーパニッシャーッ!!」」」」」
「ぎゃぁあああああッ!!せっ、せめて話を―――」
五色の輝きを纏った刀身が、スライムジャビルを袈裟斬りにする。
バチバチと紫電を放ち、崩れ落ちていくスライムジャビルは、言い終わる前に爆散。
セイケンオーは数秒の残心の後、合体を解除し、再び空に穴を開け、去っていった。
「………ほ、本当に、何者なんですか?あなた達」
「何者も何も、お前と同じだって。戦士戦隊ソルジャーズの戦士!レッドソルジャー!」
ヒイロが明るく笑って、絶夢に手を差し伸べる。
恐る恐るその手を掴んだ彼を、ヒイロは強く引っ張って起こし、肩をバシバシと叩く。
「やれやれ。レッドはお前だけだろう。―――自己紹介が遅れたな。俺はブルーソルジャー、
「僕は
「私は
「は、はぁ………?」
よろしくってどういう意味?という疑問を口に出すこともできないまま、ほぼ適当に相槌を打つ。
「ほら、くろね!お前も自己紹介しろよー!」
「うざい、暑苦しい、そしてどうでも良い」
「全く。………すまんな底無。アイツはブラックソルジャーの
「そ、そうですか。―――えっと、じゃあ俺はこれで」
「?おいおい、どこ行くんだよ?」
会釈して立ち去ろうとした絶夢を、ヒイロが捕まえる。
どこに、と言われても、行く当てはない。ただ一晩過ごせる場所と、元の世界へ戻る方法、帰還方法を見つけるまでの間の過ごし方などを考えないと不味いので、何かしら行動しようと思っただけだ。
言い淀む絶夢へ、ヒイロは屈託のない笑みと共にサムズアップ。
「お前はもう仲間だろ?だったら、まずは秘密基地を紹介しないとな!」
碧も、礼紋も、モモも、くろねさえも、特にヒイロの発言をおかしく思っている様子は無く。
ここに来てようやく、絶夢は彼らが揃いも揃って話を聞かないタイプの人間だという事に気が付き、これ見よがしに溜息を吐くのだった。
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