第35話 セシアさんの提案

「夢か…」


レインが馬車の中でぼそっと呟く。

窓の外を眺めて、何か考え事をしているようだった。

ふと、私の方をむいて語り掛ける。


「ねえ、また一緒にお出かけしない?」

「そうね。それも良いわね」


明日から冒険者ギルドで一人で対応しなければいけない。

いつまでもレインに頼ってはいられないから。




   *




今日から一人で冒険者の治療をしなければならない。

私は個室で男性冒険者の相手をしていた。

20代くらいの身軽な服装をした冒険者だ。


「なぁ」


怪我をした男は、やたらと話しかけてくる。

少し馴れ馴れしいわね。

まぁ、仕事だから気にしないし別にいいのだけど。

今日はこれで3人目だった。


「この後予定ある?一緒に食事でもどうだ?」

「ごめんなさい。急いで家に帰らないといけないので」

「じゃあ、空いている日は?予定合わせるからさ…」


男はしつこく食い下がってくる。


回復魔法ヒール


私は、素早くヒールで足の怪我を治した。

瞬く間に傷口が塞がる。


「はい、治りましたよ。次の方」


チッ!

男は舌打ちをして部屋を出た。


何だか気分が悪い。

感謝されるべきなのだが、男は不満げに部屋を出て行ってしまった。




休憩に入り、私は思わずセシアさんに愚痴をこぼしていた。


「あー。しかたないねぇ。ローレライさんはキレイだからねー。またアタシが一緒に居たほうが良いか」


休憩が終わり、次の男性冒険者が部屋に入ってきた。

ギョッとした顔をして、緑の髪のセシアさんを見る。


「何か文句でも?」

「いいえ、めっそうもございません」


セシアさんは腕組をして私の後ろに立っている。

私は椅子に座って、患者も椅子に座ってもらう。

セシアさんに椅子を勧めたのだけど、この方が威厳があるからと断られた。


先ほどとは違い、大人しく治療を受ける男性冒険者。

若干緊張しているようだけど。

その後は、みな大人しくなって仕事はスムーズに終わった。


「今日はありがとうございました。とても助かりました」


私はセシアさんにお礼を言った。


「まーアタシがいう事じゃないんだけどさ。早く結婚しちまいなよ。あと軽く受け流すようにした方が良いとは思うけどね」


結婚かぁ。

今は仕事をするので精いっぱいだというのに、受け流すなんて高等な事出来そうにない。





「結婚って、したほうがいいのかなぁ」


屋敷に戻って、私は思わずレインに呟いていた。

レインはリビングで新聞を広げて読んでいる。


「えっ?そりゃまあ、した方が良いに決まっているけど…」


セシアさんは、男よけが出来るから結婚したほうが良いって言ってたのよね。

絡まれるたびに断るのは面倒だものね。


「じゃあ、しよっか。結婚」

「えっ?」


「えっと、軽くない?そんな、どこかへ出かけるようなノリで言われても…」

「こんな貴重な機会を逃したら、今度いつ訪れるか分からないからね。教会は近くの小さいところで良いよね?呼ぶ人はカーベルと、ジョディー。職場の人を呼んでも良いけど。あとは…」


あれよあれよという間に、結婚の段取りが決まっていってしまった。




   *




「良かったわね。結婚することが決まって。もっとだいぶ先だと思っていたけれど」


私は、ジョディーに結婚することを報告した。

今、カーベルの家のリビングにいる。

カーベルの家はよく訪れていたのでリラックスしてソファに座っている。


「まあ、おめでたいわ。ローレライちゃんも結婚するのね。どうぞ召し上がって?」


「いただきます」


カーベルのお母さんも喜んでくれている。

テーブルにはお皿に乗った美味しそうな焼き菓子が置かれており、カップには紅茶が注がれている。

カーベルのお母さんはお菓子作りが得意なのよね。


「本当のところ、正直に言うとね?うちにローレライちゃんが嫁いでくれれば良いなとは思っていたのだけどね。別にジョディーさんを嫌っているわけでは無いのよ?カーベルはその気が無かったようだし」


「そうだったんですか…」


私は苦笑いをしていた。

多分、ジョディーがいなければという前提で話をしているのだろうけど。

彼とは幼馴染だからね。


「まぁ、お義母かあさま。酷いですわ」


ジョディーが頬を膨らませていた。


「ごめん、ごめん。ほら、あの子と幼馴染じゃない。他意はないのよ?」


ジョディーと義母は良好な関係を築けているらしい。

何とも羨ましい限りだ。

私とレインは結婚しても両親は亡くなっているので、今の生活が大きく変わることは無い。

子供が出来れば少し変わるのかもしれないけれど。


「わたしも、もう一度ウエディングドレス着てみたいわ」


当時を思い出しているのだろう。

カーベルのお母さんは、うっとりとした表情を浮かべていた。


「ねえ、もうドレスとか決めてあるの?」

「え?急に決まった事だし、まだなんだけど…」

「わたくしも一緒に見に行っても良いかしら?」


ジョディーは衣装のお店に一緒に行きたいのだろう。

見るだけでも楽しめるからね。


「そうね。是非一緒にお願いするわ」


あれ?ジョディーじゃなくてレインと一緒の方が良かったかしら?

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2024年12月20日 20:05
2024年12月21日 20:05

転生したら貴族令嬢でした~私、義理の弟に愛されているみたいです~ 月城 夕実 @neko6

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