第34話 夢枕
私たちは王都から馬車に乗って、アウロラの町へやってきた。
両親の墓があるところだ。
お墓は教会の敷地内に設置されている。
当時領主だった両親は、洞窟を視察していて突然洞窟が崩れて埋まってしまったらしい。
「ようこそ遠くからいらっしゃいました」
神父のフロイドさんが、私たちを見て声をかけてきた。
「レインさんは年に一回来てくれてましたよね。亡くなったご両親には随分お世話になったものです」
レインはたまに訪れていたらしい。
何も言ってはいなかったけど。
「私は姉のローレライです。もう何年振りになるかしら」
「お姉さんですか。これまたお美しい方ですな」
「どうも」
私は頭を下げて、両親のお墓へ向かった。
用意した花をお墓に
「来るのが遅くなっちゃってごめんなさい」
私は両親に謝った。
本当はここでは無くて洞窟に眠っているのかもしれないけれど。
「僕と一緒に来ていればよかったね」
「ううん。前の私は、両親の事が分からなかったから仕方ないわ」
私たちは、お墓の前で神様に祈った。
*
町の外で馬車に乗ろうとした時、女性の悲鳴が何処からか聞こえてきた。
アウロラの町周辺は、モンスターは少ないと聞いていたけれど。
茶色い髪の女性が私たちの所へ走って逃げてきた。
森から、数メートルもある大きな黒い巨体が姿を現す。
「レイン!ブラックベアが…」
「わかった」
『炎よ』
レインは剣を構えて、魔法を発動させる。
剣に赤い炎が纏わりついていく。
「「うおーーーーっ」」
レインは叫びながら、ブラックベアに切りかかり胴体を切りつける。
炎がブラックベアの体に移り燃え始めた。
焦げ臭い匂いが立ち込める。
「「ギヤァァァァァァ」」
「悪く思うなよ」
そして、ブラックベアの首をはねた。
「あの、大丈夫ですか?お怪我とかは?」
私は逃げてきた女性に話しかける。
右腕に酷い怪我をしているようなので治療することにした。
『
淡いオレンジの光が女性の右腕を包み込む。
瞬く間に傷は治っていった。
女性は信じられないといった様子で、驚いているみたいだ。
「ローレライ、大丈夫?」
レインが振り返り私を見る。
「ローレライ流石だね。モンスターは一匹だけだったみたいだ。良かったよ」
最近、町の周りでモンスターが出没しているらしい。
女性はキノコを採りに森へ入っていたと言っていた。
「今度は十分気を付けて下さいね」
「助けて頂いてありがとうございました」
女性に感謝され、頭を下げられる。
私たちは、馬車に乗り王都に帰ることにした。
「レイン、やっとローレライって呼んでくれたわね」
「あ、それは
「あれ?冒険者してるわよね?」
「あれは頼まれたからね。できれば殺生はしたくないな。今回は襲われてたから仕方なくね」
相変わらず優しい弟だわ。
私はレインの体に寄りかかった。
「疲れちゃった?」
「うん。少しね」
ちょっと甘えてみたくなったの。
もっとレインと距離を縮められればいいな。
***レイン視点
さっきは驚いた。
まさかブラックベアに遭遇するなんて。
今日はお墓参りだけするつもりだったから。
いつも携帯しているとはいえ、剣を持っていて良かったよ。
ローレライは怪我をした女性を直ぐに治療していた。
魔法の扱いに慣れてきたという事なのかもしれないけど。
動揺していたら咄嗟に出来るものではない。
神父に見られていなくてよかったな。
回復魔法は希少だから、是非教会に来てくださいと頼まれるだろう。
もしかしたら助けた女性が魔法の事を言うかもしれないけれど。
僕たちが帰った後だから大丈夫だ。
ローレライが僕に寄りかかってきた。
少し気持ちを開いてくれるようになったのかな?
以前の様に戻るには時間がかかるだろうけど。
隣でローレライが気持ちよさそうに眠っている。
僕も少し眠ろうかな。
今日は少し疲れた。
屋敷に戻るにはまだ時間がかかるから。
ローレライと一緒に墓参りに来れて良かったよ。
実はずっと一緒に来たかったんだ。
僕は…。
いつの間にか眠ってしまっていた。
「レイン、レイン」
懐かしい声が聞こえる。
父アッシュの声だ。
銀髪で優しい茶色の瞳が僕の姿を映す。
「え?父さん?」
「随分大きくなったなぁ。見違えたよ」
父さんは立っていて、僕を見て微笑んでいる。
周りの景色はぼんやりとしていてハッキリとしない。
「ローレライを連れてきてくれてありがとうな。唯一気がかりだったのだが元気そうで良かった」
これは夢なのだろうか?
「これからも大変だろうけど頑張るんだぞ?」
「父さん戻ってきてよ」
僕は父に不可能な事をお願いする。
父さんは眉を寄せて、困った顔をしていた。
「それは無理なのはレインにも分かっているだろう?」
僕は頭を撫でられる。
「いつもお前たちを見守っているから。元気でな」
視界がボンヤリと歪んだ。
音がゴトゴトと聞こえ、体が上下に揺さぶられる。
「ああ、今は馬車の中か」
僕は夢から目を覚ましたみたいだった。
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