第33話 ジョディーの心配

***ジョディー視点


「こんにちは〜」


わたくしは今日、ローレライに会いに来た。

今日は、冒険者ギルドのお仕事は休みなので居るはずなのだけど。

結婚するって言っていたのに、全く音沙汰がないのでどうしたのかと思い心配になったのだ。

わたくしはカーベルと結婚したので、家が隣になって直ぐに来れる距離になった。


相変わらず広いお屋敷ね。

玄関ホールで辺りを見渡していると、奥から「はーい」と声が聞こえた。


「えっと、ジョディーかしら?」


首を傾げながら、ローレライが二階から降りてきたのだけど何だか様子が変だわ。

わたくしの顔を忘れたわけではないでしょうに。

キョロキョロしながらわたくしの所へやってきた。


「リビングで良い?」

「いいですけど」


遠慮しがちに訊いてくるローレライ。

わたくしは首を傾げていた。




   *




「記憶が無いんですの?」


わたくしはリビングで紅茶を頂いていた。

どうやらローレライ自身に何か問題があったみたい。


「憶えてはいるのだけど、うっすらとなのよね。16歳ごろからの記憶が曖昧で…」


どうやらわたくしと会った頃からの記憶がハッキリしないらしい。

って事は…レインくんと付き合い始めたのもその頃だったわよね?


「それで大丈夫ですの?レイン君とのお付き合いした事は…」

「憶えてはいるのだけど…実感が無いというか…」

「あ…お可哀そうに」


わたくしはレインくんに同情した。

今までの事が無かったことになるなんて悲しすぎますわ。




「そうなんだよっ!つい最近、結婚の話をしていたっていうのに!」


リビングでローレライと話をしていると、レイン君が会話に入り珍しく感情的になっていた。

少し涙目になっているみたい。


「ごめんなさい」


シュンとしたローレライが頭を下げる。

レイン君は慌てて首を横に振った。


「いや…ごめん、姉さん。つい愚痴を言ってしまって。姉さんが悪いわけではないのに」

「あら、レイン君。ローレライの事をお姉さんと呼んでいるの?何故名前で呼ばないのかしら」


「ええっと…」


レイン君はローレライの様子を伺っている。


「私は名前呼びでいいけど?だってずっとローレライって呼んでいたわよね?」

「そうだけど…。本当に良いの?」


「良いに決まってるじゃないの。何を遠慮しているのかしら」


何か微妙な距離感が出来てしまっているようね。

元の関係に戻るのが大変そうだわ。



   *



「へえ~そんな事があったんだ」


わたくしは家に戻り、夫のカーベルにローレライの状況を話した。

カーベルは家の仕事を手伝っている。

王都の宝石を扱うお店の副店長をしているのだ。

貴族の間では有名な老舗らしい。


ネクタイを外し、シャツの首元のボタンを外すカーベル。

わたくしは、ジャケットをハンガーにかけた。


「オレたちに出来ることは無いな。時間が解決するしかないね」

「う~ん。何かしてあげたいけど分からないものね」


あの二人には幸せになってもらいたい。

わたくしたちが一緒になれたのも彼女あっての事だし。

ローレライたちは今まで色々あったから、そろそろ落ち着いても良いと思うのだけど。

神様は放ってはおいてくれないようだった。




***




「はぁ~」


私は自室でため息をついた。


「私はどうしたらいいの?」


机に置かれた便箋を手に取り眺める。

この便箋は前に私が書いたけど、完成させずにどこかへ失くしてしまった物だった。

その頃はレインの事を好きだと自覚していて、だけど姉だからとうとう言えずにいたんだっけ。


「だからっていきなり結婚は無理なのよね」


5年の間、私とレインは仲良くやってきた。

だけどそれは今の私じゃない。

記憶はあるけど実感が全く無くて。


ふと私はある事を思い出した。


「そういえば、お墓に一緒に行ったことあったっけ?」


5年前くらいから、両親のお墓にレインと行った記憶が無い。

その時の私は、両親の事が分からなかったからレインが遠慮して行こうとしなかったのだろうか。

両親は仕事中に災害で亡くなったので、遺体は見つからず形だけの墓石があるだけなのだけど。


「今度、お墓参りに行こうかしら」


王都から少し離れた場所にお墓はある。

馬車で行けば半日で行ける距離なのだ。

私はレインに言ってみた。


「父さんと母さんのお墓に行きたい?あ、そっか。そうだよね。しばらく行ってなかったしな…」


レインはあごに手を当てて考え込む。


「わかった。少し先になるけど、それで良ければ。なにせ仕事休みすぎちゃったからね」

「ありがとう。あと、ギルドは一人で行けるからもう大丈夫よ」

「そっか。まあ、セシアさんが居るから大丈夫か。無理しないでね」


私はレインに頭を撫でられた。

ちょっとくすぐったい気持ちになる。


「レイン、私の事お姉さんと思っていないでしょ?」

「あ、バレた?何だか大きい子供が出来たみたいでさ」


どうせ私は子供ですよ。

私はぷくっと頬を膨らませた。

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