後編 その熱量は、世界すら動かして
……ブレイブカード・ランナーズ本部。その地下・最下層。黒鉄の一室に複数のモニターがついている。
『セラミアよ。此度もご苦労であった』
ひざまづくくセラミアにかけられる言葉の声調は、重々しい。老人のものだ。
「もったいなきお言葉。ただ次の競争(レース)は――」
『あらあら。無駄な報告はよしてと言いませんでしたか?』
嫌味ったらしく遮る、そのしわがれた声。恐らく老婆だろう。
『全て監視下にあるのですから、どこまでも承知の上ですよ』
「……はい。申し訳ございません」
茶髪の女性は、にこやかな表情を崩さない。
『あまり嚙みつくでない、ナンバー7(セブン)。我々にはゴミ拾いすらする余裕もあるのだから』
『ほほほ。そうですね』
下卑た嗤いが、こだました。部屋中に吐き気を催すような空気感が立ち込める。
『さぁセラミア。ここで成功か、失敗かを述べるだけでよいのだ、対話は不要』
セラミアは一層、晴れやかな顔をして。
「成功です」
『宜しい』
モニターの画面が、消える――。
~~~
無敗の記録は、破られなかった。しかし、号外。「無敵に喰らいつく神速」。このニュースは瞬く間に世に広がる。
陸上競技場で走り込みをしながらリュウゼンは熟慮。
――レイズのカードはどれも圧倒的に不利なものばかりだった。それでもレイズは私に勝った。次は絶対に、勝つわ。カードを使いこなして、完全勝利よ。それにしても、今までで一番楽しかったし……彼の走る理由にも興味が出てきたわ。
一方、快勝によるテレビ局での取材中。レイズは考えていた。
――俺は心のどこか奢っていた。「今回も勝つだろう」と。そんなことはないと再確認したな。なにしろ彼女は成長が早い。完成すればきっと……。足元をすくわれる前に反省しなくては。それと……俺の走る理由は変わらないが、久々に楽しかった、な。
と、その思考はつぎの瞬間に途切れる。
「やぁやぁ、取材中申し訳ございません! ちょっとここで宣伝させてもらいますねん!」
突然横入りしてきたセラミアがぐいぐいとレイズを押しのけてマイクを握る。そして高らかに宣言した。
「来月、ブレイブカード・ランナーズにおける全選手を集めて、世界一周をします! 名付けて……『オールスター・デュエル』!」
ブレイブカード・ランナーズのアスリートは走り続ける。その勇気がいつか、世界を変革する事を願っておこう。御武運を。
疾走する少年少女の切り札よ、どうか世界を変えて 楪 紬木 @YZRH9
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