第2話 大失敗。うわあ、がっくり……。

 わたしを誘拐なり殺害なりをしようとしているのよね、この人たち。


 だったら……。この人たちなら……猫に、変えても……いいんじゃない? 


 だって、そうしないと、わたし、この人たちに誘拐なり殺害なりされるんだよね。

 自分の身を守るんだから、正当防衛だよね……。


 というわけで、わたしは魔法を発動した。


「やるぞっ! 猫化魔法っ! 猫ネコはっぴーパラダイス☆」


 悪者たちの体が光に包まれる。その光が次第に消えていって、現れたのは……。


「うげええええっ! 気持ち悪いっ!」


 わたしは思わず後ずさった。

 いや、わたしが発動した魔法が、失敗した結果なんだから、気持ち悪いとか、言ったらごめん、なんだけど……。だけど……。


 いや、姿形や大きさはね、猫に酷似はしていた。

 だけど、出来上がったのは、耳も尻尾もない人面猫。

 しかも毛が生えていない……。


 いや、毛のない猫もかわいいとわたしは思うわよ。

 例えばスフィンクス。

 抜け毛がないから、アレルギーのわたしも飼えるかなって、転生前は本気で飼うことを検討していたくらいだし。

 だけど、顔の部分が猫ではなく、ひげ面のむっさいおっさん顔……とか、ヤンキー的な目つきの悪いお兄ちゃん顔って……。

 ……ええと、昔の都市伝説の人面犬。深夜の高速道路で、車に時速百キロメートルのスピードで追いすがり、追い抜かれた車は事故を起こすとかあったけど、そんな現代妖怪都市伝説が生まれてしまうのも納得の、気持ち悪さ。


 猫はかわいいけど、人面猫は……化け物よねえ……。

 いや、わたしが作っておいて悪いんだけど。


 悪者の皆様は「な、なんだこれはっ!」とか「うぎゃあああああっ!」とか叫んでいるし。


 あー……。泣き声も「にゃーにゃー」とかじゃないんだ……。人間語、話しているよ……。


 完全に失敗。


 わたしの猫化魔法は大失敗だった……。がっくりよ……。


 いや、めげてたまるかっ!

 この事件の後も、この貴重な実験結果を糧に、わたしは猫化魔法の研究に驀進したよっ! 失敗は成功の母だっ!


 ちなみに、気持ち悪い人面猫化した悪者の皆様は……お父様が売ったわ。どこにどう売ったのか知らないけど。

 ゲテモノ取り扱い商人とか見世物小屋とかかな?

 高く売れたらしい。

 おかげでわたし、お父様から、普通では入手できない魔法書を買っていただきました。


 ありがとう、悪者の皆様。

 あなたたちの犠牲は忘れない。

 だから……、強く生きてねっ!


 そんなこんなで、わたしの猫化魔法は飛躍的に進化したっ! マジ感謝‼


 で、まず、猫化というか、姿かたちを変えるには、元の形をどう変えたいのか。確固たるイメージも必要なのだそうだ。

 あと、あまりに異なるイメージに変換するのは難しい……というか、膨大な魔力と、複雑な手順が必要とのこと。


 人間を猫化するには、元の人間と、変えたい猫の類似点や共通点なんかも見つけないといけないみたい。


 うーん、難しい。


 だけど、いろいろ試すうちに、だんだんわかってきた。


 きっとわたし、いつか絶対に、人間を猫化する魔法を手に入れられるっ!


 ……って、あ、あれ?


 人間を猫化する方向で、思いっきり研究してしまったわ……。

 ニワトリを猫にするとかではなくなってしまった……。


 ま、いいか。


 どうせわたしのお父様は各方面から恨まれている。

 またそのうち、わたしを誘拐なり殺害なりしようとする悪い人たちがいらっしゃることだろう。

 そうしたら、その人たちを猫にしてみればいい。

 悪い人にはお仕置きっ!

 じゃないけど、わたしに向かって悪いことをしようとしているんだから、反撃したっていいでしょう。


 うん、正当防衛よ。


 殴る蹴るの反撃じゃなくて、相手を猫にするという、まあ、なんというか、斜め上の正当防衛かもしれないけど、いいじゃない。


 失敗したら、お父様が売りとばす。

 成功だったら、わたしがお猫様を手に入れられる。


 よっしゃーっ! 早く来い来い悪漢どもっ!


 なんて浮かれていたら……。


 人面猫化した悪者ではなく、わたしが、このわたしがっ! お父様に売られてしまったわ……。


 なんて言うの? 

 因果応報? 

 禍福は糾える縄の如し? 

 ちょっと上手い言葉が出てこない。


 莫大な借金抱えて没落寸前のカッシーニ伯爵家。

 そこに、わたしは問答無用で嫁がされた。


 お父様がカッシーニ伯爵家の借金を肩代わりする代わりに、わたしを嫁がせる。

 そして、カッシーニ伯爵家の御令息、ジュリオ・デ・カッシーニ様とわたしの間に子を作って。

 で、そのわたしの子が赤ん坊のうちに、カッシーニ伯爵家を継がせる。

 赤ん坊はもちろん伯爵家の経営なんてできないから、お父様が後見する。

 そうやって、カッシーニ伯爵家を牛耳る算段らしい。


 え? その場合、現カッシーニ伯爵が赤ん坊の後見をするのが当然だろうって?

 いやいやいやいや、現カッシーニ伯爵は素直に引退していただければよし、そうでないならわたしのお父様の手によって、闇に葬られますよ~。


 えげつないけど、我が国の法律的には、この流れは一応合法……。闇に葬る以外はだけど。ううう、怖いなあ……。


 うーん、結婚して、でもわたしが子ども産めなかったらどうするんだろう……。

 念のため、聞いてみたら。


「そのときは、肩代わりした借金は、カッシーニ家から返してもらう。キアラ、お前はカッシーニの息子と離縁して、どこかの金持ちの後妻として売りつける。出戻り女でも需要はある」


 お、お父様、マジ鬼畜……。


 ドナドナの気分で、わたしはカッシーニ伯爵家に送り込まれ、そして結婚式も挙げずに婚姻届にだけサインをして。


 で、その夜。つまり、初夜。

 初対面の夫である、ジュリオ・デ・カッシーニ様に言われたのよ。


「キアラ・ディ・コズウェイ! 俺がお前を愛することはないっ! この俺の心はステファニアだけのものだっ‼」と……。


 うーん、前途多難!



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2024年12月14日 07:00
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猫ネコはっぴーパラダイス☆結婚初夜に「お前を愛することはない」と言われたので、魔法を発動しちゃいました! 藍銅 紅(らんどう こう) @ranndoukou

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