猫ネコはっぴーパラダイス☆結婚初夜に「お前を愛することはない」と言われたので、魔法を発動しちゃいました!

藍銅 紅(らんどう こう)

第1話 超ショック! 転生後の世界には、お猫様がいなかったっ‼

 猫まみれの人生を送りたかった……。


 三毛猫、黒猫、茶トラ猫。スコティッシュ・フォールド、アビシニアン。

 長毛、短毛、みんな可愛い。


 仕事の合間に見る動画、生まれた子猫に、猫パンチ。旅猫ブログも読みまくり、給料日には、猫の絵本や写真集を買いまくる……。


 そんなわたしは、猫アレルギー。

 猫が近くに来るだけで、くしゃみ、鼻水、目の充血。あちこち痒くてたまらない……。


 ちくしょうっ!

 生まれ変わったら絶対にっ! 

 猫まみれの人生を送ってやるっ‼

 ネット上のお猫様の動画を眺めながら、わたしは毎日毎夜、そう誓った。


 そうして、ある夜。

 よろよろとした足取りで、道路を渡ろうとしていた野良猫様を助けようとして……、一般道でなんでそんなにスピード出しているの居眠り運転なのかって感じの猛スピードで走ってきたトラックに轢かれてわたしは死んだ。


 ああ……良かった。

 死ぬときだけは、お猫様に触れることができたわ、超満足……。


 で、視界が暗くなったと思ったら、なんとっ!


 流行りの異世界転生、しちゃっていました☆あっはっは。


 キアラ・ディ・コズウェイっていう名の子爵令嬢。今、十七歳。

 ストレートの長い黒髪を頭の後ろで一つに結び……って、ポニーテールね。

 瞳は、夜の三日月のような、黄色がかった金色で。


 うーん、この猫目、つり目系の外見からすると……いわゆる『転生して、悪役令嬢になりました』的な感じ……?

 だったら、婚約者の王太子殿下から、婚約破棄されて、逆転ざまぁとかする運命?


 いやいやいやいや。わたし、そんなのしている暇なんてないわ。

 なーんてね、多分大丈夫。キアラ……っていうか、わたしには親が決めた婚約者なんていない。

 それに、身分の低さは、むしろヒロイン枠?

 いやー、でも、可憐でゆるふわなヒロイン的な外見していないからね。それも多分ないと思う。


 まあ、わからないけど、大丈夫かな? 

 キアラ・ディ・コズウェイっていう名前の登場人物なんて、記憶にないしねぇ。

 といっても、わたし、ラノベも乙女ゲームも一応、知識としてはある程度は知っているけど、それほど精通はしていない。

 わたしの時間はなるべくお猫様に費やしたい。というか、費やしていた。

 猫動画や猫写真を見て、悶えたり……だけではない。

 猫愛が高じて、お猫様に似合うような猫服とかを、作ってしまったり。


 ……転生前のわたし、何十着猫服作ったかなー? かぎ針編みでニット服。綿素材の術後回復服。クリスマスやハロウィンのコスプレ服を作るには、ミシンが大活躍してたっけ。猫のおもちゃもせっせと作ったなあ……。手作りのお猫様ごはんの作り方の動画なんて、メモを取りながら、熱心に見た。


 転生前は、猫アレルギー体質で、作った猫服や猫おもちゃはネットで販売して、見も知らぬお猫様の元へお届けして……、それでたまに、わたしの作った猫服を着たお猫様の写真をメールで送ってもらえて、悶えたり……するしかなかったのよね。

 猫ごはんの知識は披露できるときはなかった。


 だがしかしっ!


 転生したならばっ!

 その知識が役に立つこともあるだろうっ!

 いや、役に立ててみせるっ‼

 そうっ! 今度こそ、わたし、猫まみれの人生を送るのよっ!


 わたしの人生において大事なのは、悪役令嬢でもお花畑ヒロインでもなくお猫様っ!


 お猫様を助けて転生したのなら、きっとこの世界では猫まみれの人生を送れるはずっ!


 そして、転生したこのわたしの体にはアレルギーなど一切ないっ!


 ふははははははははっ!

 勝ったっ!

 これでもう怖いものはないっ!

 猫まっしぐらな人生に、突入だあああああああああっ!


 ……と、気勢を上げたのに。


 またもや、ちくしょうですよ。


 なんとこの世界には猫がいないっ!

 大事なことなので、もう一度言うわよっ!

 わたしが、死んで、転生した異世界には、お猫様という存在がいなかったっ‼


 なぜっ! どうしてっ! この世界には猫がいないのよおおおおおおおおっ!

 ふざけんな神様っ!

 わたしに猫をっ! お猫様を与えたまえええええええっ!

 ぜいぜい、はあはあ。

 猫がいない世界だからって、猫まみれの人生を諦める?

 ふ・ざ・け・ん・な。

 わたしの一念、舐めるなよっ!


 ……というわけで、わたしは頑張った。


 さいわいと言っていいのか、わたしは子爵とはいえ貴族の娘に転生したのだ。

 しかもものすごーくお金持ちの。


 え? 貴族であればお金を持っていて当然だろうって?

 いや、そんなことはない。ピンキリだ。

 爵位だけ持っていても、平民より貧乏暮らしをしている場合もある。

 逆に、平民だというのに、商売が当たったりで、唸るほどのお金を持っている場合もある。


 まさに、それが、わたしの両親。


 わたしのお父様、今の名前は、ヴァレンティーノ・ディ・コズウェイ子爵。


 今は貴族っぽいご立派なお名前にしたけど、元はティーノという名の平民の商人でしかなかったんだって。その名もティーノ商会。そのまんま。

 金儲け魔人のお父様は、なんでも売った。金も貸した。貸したお金は、これいくらなんでもダメだろうっていう感じの利子をつけて、ものすごくアコギにお金を貸して、回収して、若くして財を成した……と。

 で、その次に、その金の力で男爵という地位を買った。

 更に、借金で首が回らなくなり、もう娘を娼館に売るしかない……と、青い顔をしていた前コズウェイ子爵と出会い、その家の娘であるお母様と婚姻を結び、子爵にまでなり上がった。


 なんでかわからないけれど、お父様は金儲けと爵位を得ることに執念を燃やしている。なんでも、昔、働いていた侯爵家のお嬢様に関係があるらしいけど……。お父様は絶対に口を割らない。


 身分違いの純愛?

 まーさかねえ、あの守銭奴で、愛なんか鼻の先で笑ってお金至上主義のお父様がねえ。あ、お金じゃなくて、爵位にもこだわっているわ。


 平民から男爵、更に男爵から子爵になったからなんだ? その程度で満足する私ではない……って感じ。


 つまり、金と爵位のためなら何でもする。


 そう、なんでも。


 売れるものはなんでも売る。媚を売ることもためらわない。賄賂や相手の弱みを握ることなど、呼吸をするかのように自然にやる。


 ……我が父ながら、ホント恐ろしいよ……。


 お父様は、なにかの目的でも持っているのか、転生前の日本人としての常識からすると、ちょっと……いや、かなり……ためらわれるようなことも、躊躇なく、やる。

 多分、お金になるならご自分の魂だって売り飛ばすだろう。


 お母様と結婚したのだって、爵位を上げるには、結婚が手っ取り早かったから。

 愛はない。


 借金返済のために娼館に売られる寸前だったお母様。

 そして、金を持つ商売人で、男爵になり上がったばかりのお父様。

 その両者の需要と供給が一致した結果だ。


 まあ……本人同士が納得しているのなら、その結果生まれた娘が口を出すことではないが。


 わたしだって、貧しい平民に転生して、猫を飼うどころか、その日の食べ物にも困る暮らしは……、ちょっとね、困るというか、嫌だしね。


 だから、お父様がなにをどうやろうと文句はない。

 衣食住をきちんと整えてくれる上に、教育まで受けさせてくれてありがとうという感謝の気持ちも持っている。


 ま、鬼畜だとは思うけどね、わたしのお父様は。


 お猫様との暮らしができれば、親が鬼でも悪魔でもどうでもいいのだ。

 目下、わたし的な大問題は、猫の居ない世界で、どうやったら猫を飼えるようになるのか……である。


 その答え……というか、方法はもうわかっている。


 魔法。


 そうっ! お猫様はいないけれど、わたしが転生したこの世界には魔法があったのよ!

 ふはははははは。異世界転生のお約束よねっ!

 ならば、やる。

 ねこを、作る。創造する。イエスっ! レッツ、クリエイト‼


 わたしは古今東西、ありとあらゆる魔法を解読した。


 で、完成したのよ。わたしの猫化魔法が。


 ただし、完成したのは理論だけで、まだ実践には至っていない。


 そう、実践。どうやったらいいのかなー……。


 なにかを、猫に、変える。

 壺とか皿とかをね、猫に変えたところでそれは猫の置物にしかならないの。

 命がないから……かしらね。


 だったら、生き物を猫に変える……?


 お父様なら目的のために手段は選ばないだろうけど。

 わたしは……、さすがに……、悩んだわ……。


 やっちゃって、いいのかな……って。


 で、まず考えたのは、猫と同じくらいの大きさの動物を猫に変えること。

 ……ニワトリとかね。


 うちの子爵家の農園には、いるのよ。ニワトリが二十羽くらい。

 ……これだけいたら、一羽くらい猫にしてもいいんじゃないかなー……なんて。


 でも、失敗して、コケッコッコーとか鳴く猫ができたらどうしよう……。


 かなり、悩んで。


 わたしが、うちの子爵家の農園で、ニワトリをじとーっと見ていたところにっ! 

 なんと! 

 ごろつきとか、ならず者って感じの皆様がっ! 集団でやって来たっ!

 手にはナイフ。ロープに手錠にエトセトラ。

 いかにもな、悪役顔の皆様がた。

 しかも「恨むなら、お前の父親を怨むんだな……」などというお約束のセリフ付きで、わたしをぐるりと取り囲む。


 こ、これは……。


 わたしの心の中で、悪魔が囁いた。


 悪いヤツなら、いいんじゃない?






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



新連載。

今回のお話は、さらっと読めるお気軽読み物を目指しております!


一日おき、朝に投稿予定。


せわしない年末年始。ささやかながハッピー気分をお届けできますように☆

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