第1話 「おはよう」

「やばい!遅刻しちゃう!」


少女は目覚めた。枕元の横でスマートフォンのアラームがスヌーズ機能で何度も等間隔に鳴り、ようやく目覚めた。慌ててベッドから飛び起きてクローゼットへ、シャワーを浴びれる時間はないと判断し、タオルを手に取るのは諦めて、急いで制服に着替える。


「なんで誰も起こしてくれなかったの!?お父さん!お母さん!」


不満を叫びながら制服のボタンをとめるのに必死で、おぼつかない足で階段を駆け降り、リビングのドアを勢いよく開けるも、誰もいない。


両親は既に各々仕事へ向かい通勤中で、妹も既に学校へ向かって通学中だ。ねぼすけの姉である当人は、普段優等生として振る舞えている。しかし珍しく今日は起きれなかった。両親も妹も、優秀な長女を信頼しているので勝手に起きてくるものだと疑わず、1人欠けた朝食を何事もなく済ませたらしい。


3人が座っていたであろうリビングの机に目を向けると、その上に置いてある手紙と弁当の包み、そして封筒に気づいた。


「ルリへ _今日のお弁当とお小遣いの封筒です。朝食は冷蔵庫にあるからチンして食べてね。母さんはルリの味方だからね。」


母親の筆跡だとすぐ気づいた。置き手紙自体珍しい。普段しない寝坊をすると、こんな手紙を書いてくれるんだと、驚きと恥ずかしさの混ざった気持ちで、机の上のそれら全てを鞄にしまった。


「ありがとう母さん!」


登校皆勤賞を目指し、少女は自転車に股がった。そしてすぐに家を出発した。朝食を飛ばしたガソリンの無い身体、しかしなぜか無性にエネルギーが湧いてくる。いつもと違う生活リズムで始まった今日の日付けは7月7日、七夕だ。


少女の名前はホンダ ルリ。進学校に通う高校3年生だ。地方の高校に通う道すがらに望める景色は、空も緑も青々とし爽快で、遠くにそびえ立つ三大名山がルリを出迎える。


いつもは余裕を持って通学するので、こんなに自転車を飛ばしたことはない。学校に着く頃には制服は汗だくだったが、仕方ない。無遅刻・無欠席・皆勤賞の、背に腹はかえられない。


急いで教室に向かう道中、みんな珍しそうにいつもと違う風貌のルリを横目に登校している。あと数分で朝の始業のチャイムが鳴る時間だが、意外にも登校中の生徒が多い。


ルリは自分の教室の前に着くなり、急いで後ろ側のドアから中へ入った。もう既にほとんどのクラスメイトが教室の中にいて、賑やかな雰囲気だ。仲のいい友達がすぐにルリに気づき、これまた珍しそうに話しかけてくる。


「おはようルリ!遅いじゃん!どうしたの今日?火の雨でも降るの?」


全速力で登校RTAをしていた反動で肺が苦しく、思わず浮かべた苦笑いとそれに見合わない気さくな手を振る素振りをするので精一杯なルリをみて、友達は珍しそうに、しかし笑顔で手を振り返した。


無理やり息を整えようとしながら、ルリも友達におはようと言いかけるが、


「おは…「お前ら早く席に着けよー。」!?」


担任の先生の煽りに邪魔されながら、急いで席に着いた。


中々すぐ自分の席に座らない生徒がちらほらいたので、特段大慌てなルリが目立つことはなかった。





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