第5話 保育士さんには隠せない
戸松水月は病室に入ると、ベッドに横たわる母親が微笑んで彼を迎えた。母の戸松奈々の顔には疲労の色が見えたが、息子への愛情がその目に輝いていた。
「水月、来てくれてありがとう。」
母親は優しい声で言った。
「お母さん、調子はどう?少しは良くなった?」
水月は心配そうに尋ねた。
「うん、少しだけね。でも、まだまだこれから頑張らなきゃ。」
母親は弱々しい笑顔を浮かべた。
水月はベッドの横に座り、母親の手をそっと握った。
「お母さん、無理しないでね。俺もできることがあったら何でもするから。」
「ありがとう、水月。あなたが来てくれるだけで、本当に元気が出るわ。」
母親の目には感謝の涙が浮かんでいた。
「ステージツーのがんって聞いたとき、本当にびっくりした。でも、絶対に治るって信じてるから。だから一緒に頑張ろうね。」
水月は決意を込めて言った。
「そうね、一緒に頑張りましょう。家族みんなが支えてくれて、本当に感謝しているわ。」
病院の窓から差し込む薄い冬の日差しが、白い壁を柔らかく照らしていた。部屋の中は静かで、時折風が窓を揺らす音だけが響いている。母親の病室には、花の香りと消毒液の匂いが混ざり合って漂っていた。
母親は息子の手をしっかりと握り返した。彼女の手の温もりが、水月の心に静かな安らぎをもたらしていた。
水月は母親の温もりを感じながら、心の中で祈った。母親が一日でも早く元気になることを願い、これからも全力で支えていくと誓った。
「お母さん、今日は少しだけど、美味しいフルーツを持ってきたよ。これ、食べられる?」
水月はバッグからフルーツを取り出した。少しでも母親の体力が回復することを願いながら、その手にフルーツを渡した。
「もちろん、ありがとう。あなたの持ってきてくれるものは、何でも美味しいわ。」
母親は微笑んで答えたが、その笑顔には不安を隠そうとする努力が見えた。
「大学は順調?」
「勿論だよ。」
「友達はできた?」
「母さんいつも言ってるだろう?友達はいつの間にかできてるものだって。」
水月は笑顔を見せながらも、心の中では少しだけ不安を感じていた。母親の病気を気にかけながら、彼自身も孤独を感じることがあった。
「水月はいつもそういって、友達の家に遊びにいくふりしてゲーセン行ってたの知ってるからね。」
「う……。でも!今はほら!これ見て!たくさん登録者増えて、交流も広がったよ!」
水月はスマートフォンを見せながら、無理に元気を装って笑った。母親を心配させたくない気持ちが強く、ついつい明るく振る舞ってしまう。
「……そうね。変に肩肘はるんじゃないよ?水月はあなたらしくいればそれで私は十分。」
母親の言葉に、水月の心は少し軽くなった。彼女の優しさと理解に感謝しながら、その手を強く握りしめた。
「ありがとう。母さん。」
二人はしばらく話しながら、静かな時間を過ごした。病室の外では、冷たい冬の風が窓を揺らしていたが、部屋の中には暖かい親子の絆が広がっていた。水月は母親の手を握りしめながら、これからも支え続けることを誓った。
母親との温かい時間を過ごした後、戸松水月は自室に戻り、パソコンの前に座った。彼は友達づくりに本気になり、メンバーシップ限定のオンライン飲み会を実施することを決意した。彼は動画を録画し、視聴者に向けてメッセージを送る準備を始めた。
「どうも、皆さん。ミツキです。今日は特別なお知らせがあります!」
水月はカメラに向かって笑顔を見せ、視聴者に向けて話し始めた。
「実は、メンバーシップ限定のオンライン飲み会を開催することにしました!皆さんともっと交流したいと思って、この企画を考えました。ぜひ参加してくださいね!」
彼は詳細を説明しながら、視聴者に向けて明るく呼びかけた。
「飲み会では、ゲームをしながら楽しくおしゃべりしたり、質問に答えたり、みんなで盛り上がりましょう!参加方法はこの動画の説明欄に書いてありますので、ぜひチェックしてください。」
水月は動画を編集し、アップロードした。彼の心には、新しい友達と一緒に楽しい時間を過ごす期待が広がっていた。
◆◇◆◇
一方、真紀は自室でスマートフォンを手に取り、YouTubeを開いた。彼女はいつものようにミツキのチャンネルをチェックしていた。
「新しい動画がアップされてる……。」
真紀は興味津々で動画を再生した。画面に映る水月の笑顔と熱心な呼びかけに、彼女の心は引き込まれた。
「え!?メンバーシップ限定のオンライン飲み会、面白そう……。」
真紀は動画を見ながら、心の中でワクワクしていた。彼の声が耳に心地よく響き、彼との交流がもっと深まることを期待していた。
「よし、私も参加してみよう!」
真紀はメンバーシップに登録し、オンライン飲み会の参加方法を確認した。彼女の心には、新しい友達と一緒に楽しい時間を過ごす期待が広がっていた。
◆◇◆◇
オンライン飲み会の日がやってきた。水月はパソコンの前に座り、参加者たちを迎える準備をしていた。画面には次々と参加者のアイコンが表示され、チャット欄には挨拶や期待の声が溢れていた。
「皆さん、こんばんは!ミツキです。今日は一緒に楽しみましょう!」
水月の声が響き渡り、参加者たちは一斉に応じた。その中には、真紀のアイコンもあった。
「こんばんは、ミツキさん!楽しみにしてました!」
真紀のコメントが画面に表示され、水月は微笑んだ。
「こんばんは、マキさん!参加してくれてありがとう。今日は一緒に楽しみましょう!」
二人の出会いが、オンライン飲み会を通じて始まった。彼らはゲームをしながら楽しくおしゃべりし、次第にお互いのことを知っていった。新しい友達との交流が、彼らの心に温かさと喜びをもたらした。
オンライン飲み会は盛り上がりを見せ、参加者たちは次々とコメントを送り合い、笑い声が絶えなかった。水月はゲームの進行をしながら、視聴者たちとの交流を楽しんでいた。
「さて、次のゲームに行きましょうか!みんな、準備はいい?」
その瞬間、画面に新しい参加者のアイコンが表示された。
チャット欄には「初めて参加します!」というコメントが流れ、参加者たちの興奮がさらに高まった。
「新しい仲間が増えましたね!みんなで歓迎しましょう!」
チャット欄には「準備OK!」のコメントが溢れ、参加者たちの期待が高まっていた。
「ミツキさん、次はどんなゲームをするんですか?」
真紀のコメントが再び画面に表示された。
「次は、みんなで協力してクリアするタイプのゲームです。チームワークが大事ですよ!」
水月は笑顔で答えた。
ゲームが進む中で、真紀と水月は自然と会話を交わすようになった。お互いの趣味や好きなゲームについて話し合い、次第に打ち解けていった。
「ミツキさん、実は私、この手の戦闘ゲーム苦手なんですよ。アドバイスをいただけますか?」
真紀が少し緊張した様子でコメントを送った。
「もちろん!何でも聞いてください。ここはですね……サブクエストで入手できる武器を装備すると楽に討伐できるのですよー。」
水月は優しく答えた。
「あ、いけそうです!え、こわ。もうしつこいなー。ハァ……。」
その瞬間、マキはボタンを押し間違える。チャット欄の音声がオンに切り替えてしまった。
「邪魔だ、どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
真紀の怒声が響く。そして、NPCの仲間たちを薙ぎ払っていく。チャット欄、水月は茫然とする。
「……。」
「あの……マキさん?……すぅー。キャラ変わってない?」
「え?マイクが近所の声拾ったのかも。アハハ!もうこわいなー。」
「え?……え?」
チャット欄には「隣の奴やべぇ奴じゃん」のコメントが溢れ、参加者たちの草の嵐がスクロールされていく。
「早く続きをしましょう?」
「は、はい!そうですね!いやー世の中、色々な人もいますもんね!」
水月は苦笑いをしながら答えた。
そして、オンライン飲み会はますます盛り上がりを見せ、参加者たちは一体感を感じながらゲームを楽しんでいた。水月と真紀の交流も深まり、二人の間には新たな友情が芽生え始めていた。
その時、突然チャット欄に怪しいコメントが流れた。
「おい、ミツキ!実は君のことを知ってるんだ。」
水月と参加者たちは一瞬静まり返り、画面を見つめた。
「近いうちに実際に会おうね。」
コメントを残した人物はすぐにログアウトし、姿を消した。参加者たちはざわめき、次の展開に興味津々となった。
水月は画面越しに視聴者たちを見つめ、微笑みながら言った。
(こーーーーーーーーーわ)と内心思いながら
「えーどうしちゃったんですかね。さて、次回はどうなるのでしょうか?お楽しみに。」
チャット欄には「気にするな!」というコメントが流れ、励ましてくれる。
水月はその言葉に不安を感じた。顔出ししていること自体には問題はない。
しかし、住所を特定されているのではないかという不安が頭をよぎった。
「アハハ、よーしもっと飲んじゃうぞー。飲んで忘れよう!」
チャット欄には「飲もう飲もう!」や「ノンアルノンアル」というコメントが流れている。
水月は微笑みながらも、内心では緊張していた。顔には出ていないと思った。
しかし、彼女だけは違う。
普段から子供たちと過ごしてきて、人の感情に敏感な真紀はその様子を心配そうに見つめていた。彼女もまた、水月の安全を願っていた。
『ギャップライブアクション』~聖女みたいな保育士お姉さんと実写版ネカマの年の差ラブコメに裏切られるわけがない~ 新米 @mad982sousen
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