11

 ウィンドモアの夜の空気は澄んでいる。

 灯りがなくとも周囲を見渡せるような清澄は、今夜ばかりはわけが違った。

 穏やかな風はいつも通り、触れるもの全てを平等に愛していたが、珍しく濃い霧がかかっていた。

 まるで罪人か、はたまた王族の亡命を手助けしているかのような濃霧。

 その恩恵を受ける人間がいた。


「やあ」


 道端で座っていると、ようやく彼の待ち人が来た。

 銀髪の、獅子のような顔立ちの男。


「どうして貴殿がここに?」

「待っていれば会えるんじゃないかと思ってね。すぐに街を出るつもりだけど、君もなんだろう?」


 アレクセイは頷く。


「残ればいいじゃないか。貴族に無理やり言うことを聞かされていたと証言すれば」

「役目は終わった」

「今からだって、関係は――」


 ディランはそれ以上、何も言えなかった。

 決して心が折れることのない屈強な男が、涙を流していたからだ。


「会うことはできなくても、血が繋がっていれば愛すことができる。血の繋がりは得られずとも、触れ合うことで家族にはなれる。彼が愛されていれば、それでいい」


 アレクセイはディランの前まで来ると、深く頭を下げた。


「貴殿のことも家族だと、そう言っていた。愛してくれたんだろう。本当にありがとう」


 ディランは立ち上がり、手を出した。

 二人の男は硬く握手を交わし、並んで歩き出す。


「これからどうするんだ? もしよかったら、一緒に旅にでも出るか?」

「心が躍る申し出だが、もう少し後でも良いだろうか。貴殿は良い顔をしないかもしれないが、私は復讐しなければいけない相手がいるんだ」

「そうか。ぼくは暗殺者じゃない、復讐者だった。その気持ちを否定することはできない」


 分かれ道だ。どちらに行ってもウィンドモアから出ることはできる。


「ぼくは次の居場所を見つけることにするよ。もし手伝えることがあれば、いつでも」

「ありがとう」


 二人の男は別々の道を歩き出した。

 やがて霧は晴れ、夜が明けた。

 昇る陽は全てを照らす。分かれ道も、馬鹿騒ぎを起こしているギルドも、全て。

 ウィンドモアに朝がやってきた。

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ディラン・ヴァイパー 歩く魚 @arukusakana

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