輝きのステラ 継母に家を乗っ取られた少年は女装して城の舞踏会に向かうと年下王子に求婚されてしまうお話
りすてな
ほんへ
自分が住む屋敷で、廊下の窓の掃除を行っていると、意地が悪そうな中年女性の声が聞こえて来る。
元々は自分達の家ですらないこの屋敷の中で、我が物顔で声を荒げるあの女の事がどうしようも無くオレは嫌いである。
屋敷内にある当主の部屋の中で、女が何かを言い合う声が廊下にまで届いていた。
「お前達! ステュアートを呼んで来なさい! こうなったらアレにも動いて貰うわ!」
廊下で呆然としながら会話を聞いていたら、嫌いな女に突如アレ呼ばわりされてしまうオレ。
扉からそそくさと使用人のメイド達が出て来たと思ったら目が合い、そのまま無表情で近付いて来て部屋に入って来るようにと言われ、オレは腕を掴まれ強引に引っ張られてしまう。
「カレナ様。ステュアートが廊下にいたのでそのままお連れしました」
メイドがそう言って掴んでいたオレの腕を放し、女の前に出るように背中を強く押されてよろめきながら歩いてしまう。
姿勢を正して周囲を見ると、部屋の中には派手なドレスを着た茶髪の中年女性の他に、同じ髪色に派手な服の若い男女三人がいた。こいつ等三人はカレナの連れ子であり、オレとは血の繋がり等は無い。
「義母上に、義兄上と義姉上達がお揃いで……。今日は何の話をしていたんです?」
「ふん、ステュアートは今日も真面目に働いてくれて助かるわ。とても貴族の令息とは思えない程に、その姿は良く似合っているわね」
オレの前にいる中年女性もといカレナが、意地悪そうな笑顔を向けて話し掛けて来る。
カレナが言う今のオレの姿は、屋敷の掃除を行う為に使用人のお古を着ており、汚れても良いようなくたびれて継ぎ接ぎのあるエプロンもしていた。
「今日は一日中屋敷の掃除をしろと、命令したのは義母上ですから」
「そういえばそうだったわね。だけど暫く掃除はしなくても良くなったわ」
彼女は封がされた一つの手紙を取り出してそれを渡して来た。
「その事で、お前にはやって貰う事が出来たから呼んだの」
「な、なんだ……この手紙は……? この封は見た事があるぞ……?」
「お前宛てに届いた王家直々の招待状よ。お前は邪魔だけど、このクレメンツ家の血筋は重要だもの」
オレももう十六歳になる。カレナはそんなオレをハッキリと邪魔者扱いするが、この家にはオレの血は必要で、それを忌々しく嫌味を込めて告げられる。
手紙をよく見れば、ステュアート・クラメンツ宛てとオレの名前が書かれており、封を開いて招待状とはどういう事かと、中身を確認しながらカレナに尋ねる。
「王家の招待状とは何なんだよ……? 普段はオレを無視して好き勝手してる癖に、こういう時だけ呼びつけて……」
「ふん、一か月後に第三王子が十二歳になる祝いの舞踏会が開かれるそうよ。お前宛てにそれの招待状が来たって話よ」
カレナの話と手紙の内容は一致していて、しかも王家直々の招待となれば、流石にオレを無視して勝手な事は出来る訳が無い。
確かにこんな物が届いてしまえば、オレに屋敷の掃除なんて事はさせている場合では無い。
「それで……今からオレに何をしようって言うんですか?」
オレの着ている服はボロボロで、身体はロクに食事も摂れてないからヒョロヒョロで、髪の毛も手入れをする余裕も無くて伸びっぱなしのボサボサである。
数年単位の嫌がらせで、今のオレはメイドにすら腕っぷしで勝てない位に弱く、彼女達と変わらない位の身長しかない。
どんなに着飾った所で、ここにいるカレナの息子のキースと並んでしまえば大人と子供位の身長差が出来てしまっている。幾らキースの方が歳が上だと誤魔化しても、これは覆る事は無い筈だ。
「王家の祝いの場だからな。多少は待遇を改善させてやるつもりだが、母上は今回を機にお前が真っ当な跡目では無い事にしたいのだ」
「キース……? オレが真っ当じゃないって、お前等一体何をするつもりだ……?」
オレが目線を向けた事がきっかけで、今まで静かにカレナの話を聞いていたキースや義姉までもが話に加わって来る。
「クロエ! お前が考えた計画をコイツにも教えてやれ!」
「わかりましたわお兄様。ステュアート、あなたの背丈ではお兄様の服は合わないでしょう? だから、わたくし達のドレスを貸して差し上げますわ!」
そう言って笑い出すキースとクロエ。
その笑い方は母親のカレナそっくりで、オレは二人の言った言葉の意味がわからず呆然としてしまった。
◆◇◆
そうして一か月が過ぎ、遂に舞踏会当日を迎えてしまった。オレは今ドレスを着て城へと連れられてしまっている。
城へ来て早々、カレナは先に城に向かったキースと今日ここで他にやる事があると言って後の事をクロエに任せ、オレの知らない貴族連中と挨拶を交わして、そそくさと何処かへ行ってしまった。
そして、後を任された肝心のクロエも着飾った今のオレの姿を見て、忌々しそうに睨んでいる。
「何よその姿は、わたくしが似合わなかったドレスを着せたというのに、それを着こなすだなんて……!」
「……知りませんよそんな事。それで、これからどうすれば良いんですか……」
「ふん、どうとでもしなさいよ。適当にその辺の男達に色目でも使いなさい!」
「な、なんですかそれ……オレが男に色目とか意味がわからないんですけど……」
この一か月、何故かオレは令嬢としての振る舞い方を身に着けさせられていた。
確かに男が女の格好をして王家の舞踏会に令嬢として出てくれば、跡目として真っ当では無いと言えなくも無い。
オレとしてはこいつ等に家を乗っ取られた時点で、貴族として再起不能の赤っ恥だと思っていて、今更恥が増えようが既に半ば諦めの気持ちになってしまっている。
そんなオレが色目を使って、もし仮に他の貴族に興味を惹かれて迷惑事になってしまえば、それこそ家だけの問題で処理しきれなくなるのは理解しているのだろうか。
今日一日は、なるべく人目の付かないようにしようと考えていると、クロエの顔がますます険しくなる。
「ですから、その顔ですわよっ! その物憂げな表情が気に入らないのよ! どこでそんな顔を覚えたっていうの!」
「それは……男なのにドレスを着せられて、訳わかんない事命令されたら誰だってこんな顔しますよ……」
それが当てつけだと言って、クロエはもう一人の義姉であるケリーを連れて何処かへと行ってしまった。
城の廊下で一人で残されてしまい、思わずため息が出る。
ため息のついでに顔も俯いてしまい、改めて自分の姿を確認する。
今のオレは派手さは無いシンプルなデザインなドレスを着ていて、肌も綺麗に磨かれて、掃除で荒れた手は手袋で隠して、首には祖母の遺品のペンダントを着けている。
伸びきった赤褐色の髪も、前髪だけをバッサリと切られて全体を綺麗に整えられた後に、この日の為に丁寧に編み込まれたお陰で自分の青い目が晒され、視界もハッキリと見えていた。
十六歳の男としては貧相な身体も、女装をすれば華奢な体格で色白の美少女に見え、胸にもしっかりと詰め物をされていた。
男に見えなければ見えない程、跡目に相応しくないという考えなのだろうか。
無茶ぶりに頭痛がしそうな所を堪えつつ廊下から移動して、城のバルコニーまで何とかしてやって来る。
途中、会場にある豪華な料理が見えて、ついうっかり近付いてしまうと、色んな若い男達がオレに声を掛けて来た。
ダンスの申し出も来てしまい、オレは人を探していると咄嗟に嘘をついてここまで逃げてきた。
「やってしまった……そんなにこの姿って、注目を集めるんだ……」
またため息を吐いてしまうと、背後から誰かが近付いて来て、足元には影が見える。
びっくりして身構えていると、影の主は子供の声で話しかけて来て、以外に幼い感じがした。
「驚かせてごめんなさいお姉さん。でもここにいても、いずれ僕みたいな好奇心旺盛な人が近づいて、あなたに声を掛けてきますよ?」
「え、えっと……キミは? オ、わ、私に何か用でも……?」
びくびくしながら振り返ると、そこには俺より背が低いものの豪華な服を着て、柔らかな銀髪をした水色の瞳の少年がいた。
少年の好奇心と大人の好奇心だと色々と意味が違うのではと思いつつも、こんな子供にオレが男だとバレてしまうのは、流石に恥ずかし過ぎると感じてしまい、声音を変えて返事をする。
「お姉さんみたいな綺麗な人が慌てて人から離れるのを見て、僕も人がいない所に行きたくて丁度良いかなって思ったんだ」
「そ、そうなのね……それで、キミが私をそこへ案内してくれるというの?」
何とかバレていないようで、心の中でホッと一息ついていると、少年がにこやかに微笑んで手を差し出して来た。
「はい、ここよりも人が来ない場所を知っていますよ。案内しますから一緒に着いて来てくれますか?」
この子もこの子で何か訳ありそうな雰囲気を感じたが、室内の明かりを見ては、ここにいてはまたいつ声を掛けられるか不安だったので、オレは差し出された手を慎重に取り一緒に着いて行く事にした。
少年の手を取った事で彼の表情はより一層上機嫌となり、暗がりの中でもウキウキとした案内をされる。
城の中に等間隔で設置された魔法の灯りに数度照らされつつ、石畳で舗装された道を歩き、そうして着いた場所は城のテラスである。
周囲を生垣に囲まれたその場所は小さな噴水もあり、夜よりも昼間に訪れた方が景色が良さそうな場所だった。
「今の時間のここなら、大人達は滅多な事では来る事は無い筈ですよお姉さん」
「まあ、ゆったりと話すには静かで落ち着いた場所みたいだけど、踊るには少し足元が不安になるのかも」
部屋の明かりで照らされて何とか踊れるバルコニーとは違って、ここは踊るには向いていないなとオレが答えると、少年は微笑んだ。
「はい、僕も踊りはまだ苦手でして、今日のこの場は結構窮屈に感じていたんですよ。お姉さんもここで少し時間を潰していきませんか?」
そういう事ならばと、今はその気まぐれのような行動に甘える事にした。はいと頷いて返事をする。
ただ、お互い初対面であり、しかも向こうの方が年下で、オレもずっと家の中で雑用しかしてこなかったので、盛り上がるような話題なんて思い付かない。
どうしようかと悩んでいると、灯りに照らされペンダントが一瞬光って見えた。ふと気になって手で持って眺めると少年が声を掛けて来る。
「お姉さんのそのペンダント、バルコニーで見た時に結構な年代物に見えました。でも、相当な価値のある物にも思うんです。どういった経緯の物なんでしょう?」
話す事を探していたのは少年も同じようで、自分から誘ったものの話題が無くて申し訳無かったのか、オレを見て少し照れた様子で話し掛けて来る。
「このペンダントは、私の祖母が若い頃に譲り受けた物なんです」
「元はお姉さんのお祖母様の物なんですか」
「なんでも特別な魔法が込められていて、強い意思に応じて反応するのだとか」
オレの話を聞いた少年は、そんな物をどうして孫のオレが持っているのかと、疑問に思ったのか尋ねて来る。
「失礼になるかもしれませんが、それをどうしてお姉さんが?」
「それは、祖母と血の繋がりがある家族がもう私しかいないからです」
「えっ……? あ、ご、ごめんなさい……」
他に家族がいないと説明すると、少年はひどくショックを受けた顔でオレに謝罪をして来る。
すっかり落ち込んでしまった彼を励ます為に、オレは気にしていないと軽く微笑み、目線をあわせるように前に屈んで少年の肩に手を添える。
「一応継母はいるのですが、彼女ではペンダントの魔法を発動出来無くて、興味が無いようで」
ペンダントは魔法が込められている特別な物だが、使う者を選ぶのだと仄めかしていると、少年の顔が赤くなっているのに気が付く。
どうしたのかと思い、まさか会場にいる若い男達みたいに変な事になったのではと焦る。
しまった、またやらかしてしまったと内心パニックになると、城の方向から若い男の声がして来る。
「殿下! シリル殿下! こちらにおいででしたか、探しましたよ!」
声のする方に顔を向けると、歩いて来た道から誰かがやって来る。
灰色の髪をしたオレよりも少し年上の青年のようで、いつの間にかオレの後ろに隠れてしまった少年を殿下と呼んでいる。
ん? ちょっと待って欲しい。殿下……?
もしかして、背後にいるこの子って、見た目から考えると例の第三王子なの……?
「ご、ごめん、セバスチャン……でも、まだ上手に踊れない僕のお祝いがこんな舞踏会なんて、兄上達にも笑われちゃうよ……」
「殿下、そのような事はございません……所で、そちらのご令嬢は一体?」
セバスチャンと呼ばれた青年からオレの存在を尋ねられる。ど、どうしよう……馬鹿正直にオレはステュアートです、なんて言える訳が無い。
「え、えーっと……わ、私はステラと申します……こちらのシリル殿下には、私が困っていた所を助けて頂きまして……」
「そうなんだよ! セバスチャン! ステラさんって言うんですね。改めて自己紹介させて下さい、僕はシリルって言うんです!」
シリル殿下が、オレが咄嗟に考えた名前を知って。目を輝かせて自己紹介して来る。
その純真さに、内心グサッと胸が貫かれそうになるのを堪えると、セバスチャンは少し考える素振りを見せる。
「ふーむ……ステラ嬢ですか。お見掛けした事が無いご令嬢ですので、あまりこのような場は来た事が無いのですね」
「そ、そうなんです! 舞踏会に初めてお呼ばれしたのですが、勝手がわからず大勢の方に言い寄られて困っていた所を、殿下が助けて下さいまして!」
「そうでしたか。見た所殿下もあなたを気に入ってる様子ですし、今日はもう少し殿下のお側について下さいませんか?」
殿下と別れて男達に言い寄られる恐怖に怯えるか、このまま殿下の話し相手になるべきかを考えて、後者を選んでしまう。
もしかしたら、カレナ達も殿下を目の前にすれば、王族を恐れてこの場でオレの正体をバラさずに家に帰れるかもしれない。
それでもまだ多くの問題があるが、オレの頭ではもうこれ以上は何も考えたくない。殿下には申し訳無いけど、女装はやりたくてやった訳では無いので、後で誠心誠意頭を下げるしかない。
もう少しオレと一緒にいられるとなって、嬉しそうに手を握って来た殿下の顔を見ると、心がグサグサと貫かれて苦しくなるが我慢するしかなかった。
城内に戻る途中、来る時よりも握る手の力が強くなった殿下から、この後どうするかを聞かれる。
オレも一か月では踊りなんて覚えられなかったので、ロクに踊った事が無いと告げると、料理を食べながら時間を潰す事になった。
家に帰ればまたボロボロの生活に戻ると思うと、何としてでも美味しそうな城の料理は食べておきたい。
そう考えながら三人で城内付近まで来ると、中から突如悲鳴が聞こえて来る。
「なっ……!? 城内で一体何が!? シリル殿下、ステラ嬢、俺から離れないで下さい!」
悲鳴を聞いてセバスチャンが険しい顔になり、周囲を警戒し始める。殿下も急な出来事に身体を震わせながらも、それでもオレを守ろうとしていた。
恐る恐る歩いていると、場内から使用人らしき男女数名が急ぎ足でこちらにやって来る。
オレは彼等のこちらを見る目付きに、何だか屋敷のメイド達と似た雰囲気を感じて違和感を覚えるが、セバスチャンは特に警戒せずに歩み寄っていた。
「お前達、無事だったのか! 一体城内で何がっ……!? ぐぅっ! な、何をする……」
一人彼等に近付いたセバスチャンが状況を確認しようとした所、不意に使用人の男に殴られる。
そして、使用人の男はそのまま体制を崩した彼の腕を乱暴に掴んで、あっという間に地面に押し伏せてしまう。
それを見た殿下は、セバスチャンの名前を叫び彼に駆け寄ろうとしていた。
彼等に近づいてはいけないと感じていたオレは、咄嗟に握っていた殿下の手を身体全体で引き寄せるようにして、無理矢理殿下の身体ごと抱き寄せて止めた。
「ス、ステラさん!? 一体何を!? セバスチャンが大変なんですよ!」
「わかっています! ですが、いけません殿下! 彼等の様子は何だかおかしいのです!」
オレが殿下を止めたと同時に、彼等は不敵な笑みを浮かべて、その中の一人がナイフを取り出してセバスチャンの顔に近付ける。
「そっちの止めてくれたお嬢ちゃんに感謝しなよ殿下、アンタが近寄って来てたらオレがこれでグサリといっちゃってたんだからよぉ」
いつの間にか周囲を取り囲まれてしまい、殿下を連れて逃げる事も出来ずオレ達は、使用人に扮した賊達に言われるがままに城内へ向かう事に。
城内では今も尚会場にいた他の王子を守っている城の護衛と、賊の小競り合いが続いていて、セバスチャンを捕まえている賊が無駄な抵抗を止めろと叫ぶ。
王子や護衛達は賊に囲まれた殿下を見つけると、動きを止めて戦意を失い始めてしまう。
「そ、そんな!? シリル殿下が……!」
「くそっ! 幼い殿下と一緒に、か弱いご令嬢まで人質に取るなど……! 恥を知れ!」
どうやら殿下と一緒にいるオレも、彼等の戦意を下げさせてしまっている一因になっていたようで、会場にいたオレに声を掛けて来た若い男達も同様に義憤に燃えてしまっていた。
するとそこに、今まで様子を見ていた黒幕と思わしき貴族達数人が賊を従えて前に出て来て、その中に見覚えのある二人の姿が見えた。
「キ、キース!? それにカレナまで!? こ、これは一体どういう事なんですか!」
この状況はどういう事か問い質したくて、つい声が出てしまった。
カレナはオレを見てニヤリと意地悪な笑みを浮かべるが、キースの様子は違っていた。何故かオレを見て赤面するキースに、貴族の一人が声を掛ける。
「おや、キース君、あちらのお嬢さんは君の知り合いの娘かね?」
「い、いえ……あんなに美しい方は俺の知り合いにはいませんが……」
「ふふふ、何を言ってるのですかキース。あれはあなたの義弟のステュアートですわよ!」
オレが誰なのかわからないキースに向かって、妙に芝居がかった動きで声を上げて正体をバラしていくカレナ。
会場内に響く大声で、オレの正体がバラされる。人質に取られ、男達の影響で注目も集まっていたオレに、全ての視線が突き刺さって来る。
側にいた殿下はどういう事か訳がわからない様子で、目を大きく見開いてオレを見ていて、一部始終を見ていたセバスチャンが何やら呟き始める。
「あれは、クレメンツ家に後妻で嫁いできたカレナという女……そして、ステュアートという名前……ステラ嬢! あなたはもしかして、クレメンツ家の者なのか!?」
「あら、探偵さんの名推理のお陰で手間が省けましたわ。さあ、ステュアート! 正体が知られた今、お前は殿下を連れてこちらに来るしかないわ!」
どういうつもりか、オレに大恥をかかせて来たカレナは、隣でキースが固まってしまったのを無視して殿下を連れて来いと高笑いしながら命令して来る。
恥ずかしさで顔が熱くなり、思考もどうにかなりそうになるが、それ以上に殿下が気になってしまい彼に顔を向けると、殿下は今にも泣きそうな顔をして震えていた。
「ス、ステラさんが……賊の仲間で、男の人なんですか……? そんな……僕は……ステラさんがそんな人だって、思いたく無いよ……」
そう言って殿下はボロボロと涙を零して泣き始めた。その姿を見て、カレナに家を乗っ取られてそこから理不尽な目に遭わされて来た昔を思い出してしまう。
殿下の泣く姿は、その時味方になってくれる人が一人もいなかったオレ自身の姿と被って見えてしまい、上手く言葉に出来ない感情で視界が滲んだと思ったら、身体が勝手に殿下を抱きしめていた。
「えっ……? ス、ステラさん……? 何を……?」
「ごめんなさいシリル殿下……! オレが男なのは本当の事なんです……! ただ、この格好は殿下を傷つけたくてしてる訳でも無いんです!」
力いっぱい抱きしめても、殿下から痛いという言葉が出てこない位には貧弱なオレの身体では、ここから賊相手に不意打ちを仕掛けても勝つ事は出来ないだろう。
それでも殿下に誤解されたままでいるのは、男とバラされて恥ずかしくなった時や、賊と戦い死んでしまう事を考えるよりもどうしてか辛く感じてしまい、カレナ達を睨むように顔を向ける。
「家を守る為ならばと今まで耐えてきましたが、カレナ! キース! 義理とは言え、もうお前達を私は家族と思いません!」
悲しいやら、恥ずかしいやら、怒りやらで、自然と声が上擦ってしまう。それでも、今はステラとして振る舞えばどこからか力が湧いて来る気がした。
ふと胸元が光っていると感じると、どういう訳かペンダントが強く輝いていた。それを見てカレナは酷く驚いてしまっている。
「なっ!? そのペンダントは……! ステュアート、何故お前がそれを扱えるというの!?」
ペンダントから力が流れて来ると感じると、殿下から離れ、両手を広げて彼を庇うように前に出る。賊達も目が眩んでしまっているのか、オレに近付こうともしない。
「血は繋がってはいないとはいえ、クレメンツ家の者が王族を襲ったというならば、その家の責任者として私ステュアートは! ステラとして命を捧げる覚悟で殿下を守ります!」
他にも貴族がいる今回の犯行ではあるが、間違いなくクレメンツ家はその責任を問われるだろう。
きっと何もしなくてもオレの身も危ない。そうなのだとしたら、せめて殿下の味方であり続けたいと思ったので、自分の行動に悔いは無かった。
そう言い切ると、ペンダントが目一杯光り輝きそこでオレは意識を失った。
◆◇◆
全身にふかふかとした感触を感じ、意識が戻り始める。胸の辺りがやけに重く苦しいと感じて、重たい瞼を何とか開いていく。
「こ、ここは……一体……って、ええ……? で、殿下?」
気が付くとオレはベッドの上で寝ていた。着ている物もドレスから、何だか柔らかい質感の寝間着へと変わっていた。
ぼんやりする頭で考えた結果胸が苦しかった理由は、殿下がオレの胸の上で眠っていたのと、胸が異常に膨らんでいたのが原因だった。
「気が付きましたか、ステュアート……いや、ステラ嬢」
多分ここは城のどこかで、この胸がどうなっているのか確認する間も無く、セバスチャンもいたらしく、声を掛けられる。
「殿下もお休みしているので、そのまま横になっていて構いません。そして、どこから説明すべきか……」
「確か、ペンダントが光り輝いて、それでその後は?」
「賊の大半はあの光で気を失ったようですが、首謀者と思わしき連中には全員逃げられました」
そうなのか……あの二人は逃げてしまったのか……
「それで、セバスチャンさん、クレメンツ家の事は」
「当面の間は帰れないと思って下さい。あなたの功績で取り潰しは免れましたが、調査の必要がありますので」
「えっと、カレナ達以外にももう二人会場にいた筈ですが」
「今は身柄を確保しているので、頃合いを見て情報を聞き出そうかと」
多分、あの二人は何も知らないと思う。聞き出しても無駄だと思うので、後でどうにかしなければ。
「それで、その……オレのこの胸と、殿下が眠っている件は……」
「……落ち着いて聞いて下さい、あなたの身体は既に女性の物へと変わっています……関係ありませんが、髪の毛の方は地毛だったんですね」
意識がぼんやりする頭が少しだけハッキリとして来る。片方の胸は殿下が気持ち良さそうに枕にしているので、もう片方の胸を揉んでみる。
「……柔らかい……そして殿下含めて重たい……」
「殿下がご迷惑をおかけしており申し訳ございません。ですが、ご自身が言った事はお覚えですか?」
「確か、ステラとして、殿下に命を捧げるとか……言ってた気がします……」
「あのペンダントには特別な魔法が込められていると殿下から伺いました。ですので、その影響なのではと……」
「わかりました……まだ眠たいので、寝てて良いですか……?」
とろけた頭でも聞きたい事は聞いた気がするので、また眠気がやって来る。何だかベッドに丁度良い大きさの抱き枕があるのでそれを抱きしめる。
セバスチャンの抱き枕だったのか、彼が慌てて奪い取ろうとして来たが眠くて仕方が無い。後で謝って返そう。
そして二度寝に入り、意識が完全にハッキリするまで寝た後に、オレは起き上がって絶叫する事になる。
その後の顛末を記載するにはここではスペースが足りない。
ただ言える事は、オレはこれからはステュアートではなくステラとして生きて行く事になり、殿下から求婚されてしまい、どういう事かそれも満更でも無いと感じてしまったのだった。
出会った時は小さくて可愛かった殿下も、数年もすれば身長は追い越され、顔つきも変わっていき、オレの人生はこれからも波瀾万丈なのでした。
輝きのステラ 継母に家を乗っ取られた少年は女装して城の舞踏会に向かうと年下王子に求婚されてしまうお話 りすてな @Ristena
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