死に戻りと能力無効化を持つ少年、何度死のうが君だけを愛する。

柊准(ひいらぎ じゅん)

第1話 不能症

 天才。ギフテッド。神から与えられし異能。それすなわち神からの祝福である。

 この世界は、錬金術をベースとした異能が世のことわりである。

 錬金術を操るために必要なのは、聡明な頭脳、卓越した脳の処理能力。そして才能・・だ。才能、というと漠然と感じるが、云わば人体に錬成に必要な「権能の刻印」が入っているかどうかで決まるのだ。

 それが無い者は、迫害されることになり得る。

 

 1

 

「A.S.F(錬金術特殊部隊)の勝利凱旋だ!」

 ここ、サハリン帝国はASFという錬金術を用いる特殊用務部隊を使い、独立軍と徹底専攻していた。

 帝国の歴史は約五百二十年。その中で分断が何度も起き、独立戦争が始まり、最中に国民への抑圧がなされ、終戦し緩和するとデフレ傾向の経済が一気にドル高へとなる。

 右翼が唱える陰謀論では、わざと内戦を起こしているのではないか、などと触れ回っている。

 

 2


 ある、秋口。四季がこの争いの耐えないサハリン帝国の唯一の癒しである。そんな時季に赤子が生まれた。

 村人と、赤子の両親は最初は喜んだ。けれども胸にあるはずの紋様、「権能の刻印」がないことを知ると、落胆し侮蔑した。この不能症が、と。

 赤子はもうこの時点で親からも、村人からも本当ならあるはずの「愛情」を授かれなかった。と、なるとこの子は卑屈を噛み締めながら生きることになる。クライング・イータ、悲しみを食べるという皮肉混じりな名前を代わりに授かって。


 3


 魔女、というのもサハリン帝国には存在する。

 クライングのように、「権能の刻印」を授かれなかった不能症の集まりであり、忌み嫌われる存在である。世の理から外れた者。それが魔女を顕わす真髄だ。

 彼女(彼)たちは聖カトリック教会にかくまってもらい、日々生活をする。聖カトリックはサハリン帝国の三権分立よって不可逆的になった施設でもある。司法がこの教会を認めている限り魔女たちに危害が及ぶことは無い。

 

 そう、信じられていた、が……

 2・26事件。魔女に反対する右翼がレジスタンスグループを作り、当時の国王であったフランシス・サハリンを操り聖フランシスコ協会に火を付け死傷者50人を出す大事件とが起こった。けれども民衆はこの暴動を絶賛した。よくやってくれた、と。

 この亡くなった50人の魔女らの怨念が権能無き者たちへと振り落ちた。なぜかといえば権能者にはサイコロジーバリアという精神結界が張られており、精神汚染が不可能で、それが可能な不能者に感染したというわけだ。

 怨念には皮肉か、魔女たちが渇望してやまなかった権能が宿されていた。


 その怨念によって権能に感染したクライング・イーターは二つの、権能を手にした。

 死に戻り。それから術式の無効化だ。

 

 能力を自覚したのは、サハリン軍の志願兵選抜の時だった。


 4


 闘技場、コロシアム。片手剣を使い相手を無効化すれば晴れて兵士になることが出来る。

 それに参加していたクライング。重たい片手剣を持ち、相手を睨む。

 同じく試験者の相手はにたにたと嘲笑を浮かべている。クライングが不能者だと知っており(国中で少数派な不能者をナンバリングと情報共有しているため、容易に分かるのだ)そのクライングに向けて皮肉で讃えた。

「ノイズ(不能者のスラング)なのに、ASFの試験を受けるなんて、とうとう頭に蛆が湧き始めたか?」

 クライングは悔しさで歯がみする。しかし、突っ立っていたって変わらない。能力がないんだったら猪突猛進しかないだろう。叫びながら渾身の一閃を振った。

「ふっ、馬鹿な一振りだぜ。術式開放、アセラントセルフ」

 鋼で出来ていた相手の持っていた片手剣が変形し鋭い触手のように、うねうねとしかし先端は尖りそれがクライングの心臓を突き破った。

「闘技場で殺人はご法度かもしれないが、まあ兵長も許してくれるだろう」

 心臓を貫かれたクライングは吐血し、地面に崩れた。喘鳴を吐き出しくるくると回る眩暈を感じながら、絶命——しなかった。

 

 瞼を開けた。クライングは突然のことで困惑していた。いま、両足で地面にしっかりと立っている。そしたらある幻聴が聞こえた。


「あなたに、魔女の加護があらんことを」


 くそ、どういうことだよ。クライングの混乱が相手に不安を与えた。それよりもクライングにとってどうして相手が自分の復活を認知していないのか、謎だった。

 もう一度、クライングは駆けだした。一閃を繰り出す瞬間相手の術式が解放された。鋼の元素を分解し再構築する術だ。それを喰らったとき、その術式が封印される予感がし、そしてそうなった。今度は相手が混乱する番だった。


「どうして……」


 唖然とし隙を見せているのを、クライングは見逃さなかった。

 鳩尾に一振りすると相手は地面に崩れ折れた。

 コロシアムの観覧客、軍人、軍上層部は一同にどよめいた。

 勝つはずがない者が勝ったことに、疑心を隠せないでいるのだ。

 しかし勝利は勝利。これでクライングのASFの入隊は決まった。

 

 どうして彼はASFに入隊しようと決意したのか。それは、この世に復讐をするためであった。不条理な世の理から迫害を受けた、ノイズの扇動者として立ち向かわなければならないという勝手な正義感に、突き動かされながら。


 

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