菜切り刃がきつく塩した白菜で足踏みしてる昧爽キッチン

 白菜だなんて。秋の短歌なのに、もう冬になってしまいました。


 夜明け前に朝ご飯をつくるときは、なるべく音を立てないで、静かに、静かに、包丁を使います。

 まだ寝ている人を起こさないように、というわけではなくて、ひとり暮らしでも、朝の静寂を壊したくないのです。この無音の朝が続いてほしいと願うのです。


 世界の誰もがずっと寝ていたらいいのに。

 私だけが起きていて、世界を独占しているかのような錯覚を味わっていたい。


 音は、そんな空想を破ってしまいます。音は何かを「破る」存在です。静寂を破り、眠りを破り、夢を破り、思考を破り、時に心さえ破ってしまいます。

 だから音を立てるという行為に対して、私はふだん慎重です。



 さてこの短歌も、今回で最終回です。

 

 こちらはテープ起こし等をするときの文体で書きました。

 表記ルールも、小説やエッセイのときとは違います。

 読んでくださる方にとっては大した違いはないかもしれません。しかし、私にとっては大きく違うのです。


 今、私はあなたの隣にいません。

 ステージに立って、遠くにいるあなたに手を振っています。距離があります。


 いつもの私は、あなたの隣にいたいと思っていて、あなたの声が聞きたくて、だから、あなたに心を開くための文章になっています。なっているんですよー! ほら、すぐ隣、ね、いるでしょ? 隣にずっといるよ。あなたに話しかけてるの。聞こえませんか、私の声。メッセージを送っているんですよ。届いてほしい。



 ではでは。ことしの秋は濃厚でした。さようなら秋、また来年。


<おしまい>

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『短歌の秋』投稿作品 秋のラストステージ ゴオルド @hasupalen

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