「好きにしていいよ」
白川津 中々
◾️
「好きにしていいよ」
それは告白をした際に返ってきた言葉であり、彼女の口癖のようなものだった。
どこへ行きたい。何が食べたい。遊ぼう。どんなに聞いても「好きにしていいよ」。楽しいのか嬉しいのかも分からない、受動的で不透明な意思表示に心計りかねる。そんな調子だから、彼女は本当に俺の事が好きなのだろうかという疑問が終始頭に浮かび、厚い雲が胸を覆っているのだった。
「本当は俺の事どうでもいいんじゃない?」
そう、口をついて出そうになるも、もし「そうだよ」と言われたらと思うと言葉を呑み込んでしまう。彼女が他の男にも「好きにしていいよ」と言っていたらどうしようと怯えてしまうのだ。だったら今のまま、俺だけ煩悶としていれば丸く治るのだから平和じゃないかと日和見となる。
しかしそれはよくない。
彼女に対して真摯ではない。
俺はとうとう思い立ち、彼女と向かい合った。
「結婚しよう」
本気だった。
若気の至りとか熱に酔っているとかそういった類の、ある種の精神迷走状態だったかもしれない。だがそれでもよかった。俺は彼女を本気で愛しているのだ。その証拠と想いを伝えたかった。
「え、まだ高校生だし、無理だよ」
彼女は思いの外冷静だった。
ここで「好きにしていいよ」と言われたら、正直どうしようかと、いやいやしっかり籍は入れるつもりだったからどうしようもなにもないのだが、なんとなくほっとしてしまったし、彼女から「好きにしていいよ」以外の言葉を聞けたからよかったかもしれない。
だが、やはり彼女は彼女だった。
「十年経ったら、好きにしていいよ」
いつもの「好きにしていいよ」。
けれど、少し不安が晴れた気がした。
「好きにしていいよ」 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます