第13話 間章

アパートの階段のわきに、黒い塊が落ちていた。かがんでよく見たら、首から先の無い鳥のようであった。ピンポン玉ほどもない小さな塊は、全身で息をするように揺れていて、無いと思った首から先は、胸にうずめるようにしているだけで、嘴も眼も、ちゃんとあった。

表面の毛が柔らかく毛羽立っていて、巣から落ちた燕のヒナだとわかった。五月半ばの夕方であった。私は、空腹を紛らわすように煙草を吸いに出ようとしたところだった。しゃがんでヒナを見つめると、黒い毛の間からきらりと光るその目は、死を覚悟した諦めのそれであった。人間の匂いが付くと親鳥から見放されてしまうとどこかで聞いたことがあるので、ただしゃがんで、じっとそのヒナを見つめただけだった。時間にしてほんの十秒そこらだったと思う。けれども煙草を吸っている間も、あの目は私の頭から離れなかった。希望をすべて失った、真っ黒な目。そこに生の力強さを感じるのはどうしてなんだろう。毛羽立つ毛が、荒い呼吸でさらに毛羽立つと、どうしようもなく空しくなった。



君との日々を、思い出した。

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sativa 梅室万智 @machi_ume

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