ふとした瞬間に蘇る記憶、煙草の香りと夏の空気。「第1話 夏」のロケット花火のように、彼と彼女の時間は儚く、鮮やかに弾けます。
この連作短編集は、恋という名の錯覚を通して、人の心の脆さや強さを描き出します。恋愛の甘さだけではなく、欲望、孤独、自己欺瞞といったリアルな感情が絶妙に織り込まれ、どのエピソードもまるで記憶の断片を拾い集めるような感覚にさせられます。
特に「第7話 風邪」や「第14話 不変」では、愛情と執着の曖昧な境界線が揺らぎ、読者の胸を締めつけるでしょう。どの話も、あまりにもリアルで、読んでいるうちに自分の過去の恋や記憶と重なっていくのが不思議です。
美しく、苦しく、そして切ない。まるで煙のように消えていく感情を閉じ込めた、静かに心に残る一冊です。