ミッドウェーは落ちるだけ
~ミッドウェー島沖合~
八八艦隊は砲身を冷やしながらミッドウェー島に迫る。
彼らの前にミッドウェー島上陸部隊が作戦開始の時を待った。
夜が明けると惨状がよくわかる。
「これ程の砲撃を受けて尚も抵抗の意思を見せるか」
「この大兵力を目の当たりにしてもです。敵守備隊は相当の意思の持ち主です」
「ならば幾らでも砲弾を送ってやるのみ。アメさんを屈服させるまで撃ち続ける」
ハワイに大規模な空襲が行われるとほぼ同時刻にミッドウェー島に船団が接近した。日本軍は強襲上陸作戦のスペシャリストと知られ、米軍でさえも上陸作戦に関しては追従できず、各国が輸送船や駆逐艦、哨戒艇などを動員する中である。日本はいち早く陸軍と海軍は合同して上陸作戦に特化した強襲艦を開発した。一見して軽空母の強襲艦は次々と上陸用舟艇を吐き出す。これまた日本独自の揚陸艦がミッドウェー島の砂浜に突っ込んだ。
上陸時は歩兵と戦車はおろか舟艇単位で無防備なために支援が欠かせない。強襲艦は軽空母の見た目通りに艦載機を発艦させた。ミッドウェー島上空を艦上爆撃機が飛び回る。舟艇を狙う要塞砲や沿岸砲があれば直ぐに急降下爆撃を見舞った。彼らは爆撃後も敵兵に機銃を掃射して回る。軽巡と駆逐艦、水雷艇など島の沿岸まで接近できる軽量級の艦艇はピンポイントの艦砲射撃を行った。
八八艦隊は傍観することもない。自慢の大口径主砲を島に向けた。現場指揮官の要請を待つ。戦艦の主砲は大口径に裏打ちされた大威力を以て守備隊をコンクリートごと粉砕した。要塞化工事の施された島の防御を崩すに戦艦はうってつけの人材だろう。
「徹甲弾と榴弾に余剰はあるだろうな。弾がありませんでは洒落にならない」
「問題ありません。仮に弾が尽きた場合は予備兵力の金剛と榛名と交代します」
「弾薬運搬船を引っ張ってくるわけにもいきません。それまでに決着をつけるだけです」
「ハワイを攻撃している山口多聞中将の空母機動艦隊が転進すれば…」
「山口中将の世話にはならん。空母機動艦隊が主役と働いてもらわねばなるまい。我々の分厚い装甲は何のためにあるのだ。B-17の爆撃を一身に受けてやろうじゃないか」
八八艦隊は山口中将の空母機動部隊と分かれてミッドウェー島に向かった。攻略部隊の重巡戦隊と水雷戦隊を切り離して身軽と変わる。深夜に一撃離脱のミッドウェー島艦砲射撃を敢行した。日米開戦は見方次第だがハワイ攻撃ではなくミッドウェー島艦砲射撃を始点と認識できる。
ミッドウェー島は米軍が高度に要塞化する最中だった。大日本帝国が史実を圧倒する程の大勢力を誇ると必然的に警戒心を招致し、米国は早期から日本を仮想敵国に定めると太平洋の要塞化計画を前倒しする。本土からB-17を派遣して配備したり、沿岸砲に8インチ砲や5インチ砲を配置したり、精鋭無比の海兵隊を派遣したり等々の至れり尽くせりを極めた。
米国にとってミッドウェー島を制圧されると24時間365日体制でハワイが見張られてしまうのである。太平洋の最大拠点であるハワイを脅かされては堪らなかった。ハワイが落ちた時には自国の本土に上陸の危険が生じる。日本に前線拠点を与えるわけにはいかないと要塞化を推進した。
「第一波が砂浜に到達しました!」
「いつでも艦砲射撃を再開できるように照準を絞っておけ。通信は単語一つを漏らすな」
艦橋から双眼鏡を介して眺める先に大量の戦車と兵士が雪崩れ込んでいる。
~ミッドウェー島~
「砲戦車を先に出せ! 歩兵はまだ出るな!」
特大発と大発といった上陸用舟艇が到達する前に揚陸艦が砂浜に乗り上げた。戦争に上品さは欠片も必要ない。戦車と兵士を効率的に素早く下すために直接的に乗り上げるが手早かった。さらに、梯子やエレベーターなんて物は使わずに艦首(艇首)をバタンと下げて即席の渡し板に変える。
「戦車前へ! 砲撃と掃射は無視する!」
「前進します!」
「ヂーゼルを轟かせろ。アメさんはガソリン好きらしい」
日本は陸軍と海軍が歴史的な和解を経てお互いの良い所を凝縮した新兵器を数多も投入した。この揚陸艦も一つと言われている。最終的な排水量は約900トンの海防艦や大型駆潜艇ぐらいの船体に戦車の積載区画を設けた。主力の中戦車に換算すると最大で10両を運搬できる。そんな船体も電気溶接のブロック工法を全面的に採用した上に平面を多用して角ばった。最高速力は約15ノットと決して快速と言えないが大量の建造数で補おう。
「あの艦砲射撃と艦載機空襲の中を生き残っていたのか。アメさんは伊達じゃない」
「それなら10糎の榴弾でトーチカごとふっ飛ばせば良いでしょうに」
「簡単に言いますね。トーチカの穴に榴弾を放り込むことは針の穴に糸を通すよう」
「意外と簡単じゃないか。俺なら造作もない」
「織物が趣味ならでしょう。あいにく、目が良いことしか取り柄がないのです」
鋼鉄の装甲に纏われている中でも砲撃でビリビリっと震えた。機関銃の掃射を受けて小気味良いリズムが聞こえる。内部の乗員は額に冷や汗を浮かべるかと思われた。何てことは無いと余裕綽々を見せつける。
「零式砲戦車を舐めるなよ」
彼らは海軍の特別陸戦隊と島嶼部への強襲上陸作戦を専門にした。特別陸戦隊は専用装備に強襲艦と戦車揚陸艦を携える。主に敵地への上陸時に最も危険な最先鋒を務めた。本命の攻略部隊が安全に上陸できるように橋頭保を確保して内陸部への進撃路の入り口を作る。
これは言うまでもないが最先鋒が一番の危険に晒された。大艦隊が事前に猛烈な艦砲射撃と艦載機空襲を行って尚も抵抗は苛烈である。沿岸砲台は沈黙しているが野砲と機関銃が生きていた。戦車を一番最初に放出して正解だったと誰もが思うと同時に米軍守備隊の底力に感服せざるを得ない。
「榴弾を装填しろ。最初の目標は機関銃陣地だ」
「鹵獲しないで良いんですか? ああいう物は高値で売れそうです」
「ミッドウェー島を早々に無力化する。我々の装甲は味方の盾となり、我々の榴弾砲は味方の矛となり、敵軍に矛盾を押し付けるんだ」
「またわけのわからないことを言う。はいはい、やりますよ」
ミッドウェー島の砂浜をゆっくりと移動した。75mm級野砲の至近弾にもビクともしない。37mm級対戦車砲の直撃弾を意に介さなかった。最大100mmの重装甲が敵弾を悉く無力化している。もっとも、車体に固定戦闘室を採用した故に箱のような形状で不格好が否めなかった。主砲は10cm榴弾砲を車載化改造した物を搭載する。これは限定的な射界しか持たない都合で車体を頻繁に動かさざるを得なかった。操縦手は鈍重な動きに悪態を覚えながらも確実に理想的な位置を手繰り寄せる。
「てっ!」
ドウン!と10cm榴弾が飛んでいく先は機関銃陣地にドンピシャリだった。つい先程まで猛々しい機関銃掃射の音が自車の周りを支配している。あっという間に静寂を得ることができて満面の笑みを浮かべた。実際は砲撃音と掃射音が延々と続いているが重装甲が敵兵の悲鳴共々に阻んでいる。
「前進! 前進! 前進!」
「このまま飛行場まで突っ込んでやりますかい。重爆撃機を拝んでやりますわ」
「そうしたいところだが、ちょうど、味方が続々と到着している。彼らを守るのも仕事なんだ」
「こういう時は足の速さが欲しいもんです」
「分厚い皮膚を採るか、健脚の足を採るか、とても悩ましいよ」
特別陸戦隊が切り開いたところへ特大発と大発が波と押し寄せた。先進的な上陸用舟艇を誇るが如く中戦車と装甲車、歩兵を吐き出している。これに水陸両用戦車と水陸両用輸送車も参加して本格的な上陸作戦が始まった。今までは所詮序の口に過ぎないと大兵力が内陸部へ一歩一歩と進撃する。上陸戦の現場指揮官は一言で締めくくった。
「ミッドウェーは落ちるだけ」
続く
チート日本の大東亜戦争記録 竹本田重郎 @neohebi
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