秋の訪れ
かなちょろ
秋の訪れ
「んん〜〜! 気持ちいい〜〜! 空気も美味しい〜! 紅葉も綺麗だし、来て良かった〜!」
長い夏が終わり、紅葉が訪れる秋がやって来た。
最近の秋は一瞬だけど、この時を楽しまないと!
私は【
私の趣味は登山&キャンプ。 キャンプ&登山かな? まぁ、どちらでもいいや。
そこそこのブラックな会社に入社してしまい、あくせく働く事二年。 仕事に疲れてしまった私は休日を利用してあてのない旅行に出かけた。
宿もランダムに適当な安い所を選び、荷物も適当に詰めて旅に出発した。
ゆったりと電車に揺られ、心地よい振動にたまに寝落ちしてしまいそうだ。
その目を覚ましてくれるのは、乗り換え時刻と木々の紅葉。
そして水筒に入れた温かい一杯のお茶。
電車の窓から見える景色は都会の喧騒から段々と緩和され、赤や黄色と色とりどりに染まった山が癒してくれているようだ。
目的地の駅に到着し送迎車を待つ。
しばらく待つと宿の名前が入った一台の白いワゴン車が到着する。
「お、いたいた。 お客様が照山紅葉さんですか?」
「はい……」
「そうでしたか。 私は【
「はい……」
「そのサイズなら荷台に入れなくても大丈夫ですね。 ではこちらにどうぞ」
素敵な笑顔で迎えに来てくれた初老の方は、運転しながら宿のある山の話しをしてくれた。
「どうです? この山の紅葉は? 旅館の部屋から見える紅葉も素敵ですよ。 今風に言えば映え? とか言うやつです」
「はあ……」
「ウチの旅館の周りは何も無いですが、無いからこそ||
「そうですか……」
そして初老の男性が言っていた通り、周りは何も無い。
今の私には丁度良いかも知れないな……。
出迎えてくれる女将さんも親しみやすく、中居さんは丁寧でこの旅館は当たりだなと勝手に思っていた。
「はぁ〜〜あ……、なにしよ……」
深いため息を吐き、イ草の香りがする畳に大の字で寝っ転がる。
静かだ……、あまりにも静か。
聞こえて来る音と言えば、風に揺られる木々の音。 近くに川でもあるのだろう、わずかに流れる水の音。
静寂に包まれたこの部屋で私は回っていない頭で考える。
「……、……そう言えば……送迎の人が言っていた無いけどある物ってなんだろう……」
気になって遠山さんを探しに向かう。
遠山さんは私の時と同じ素敵な笑顔でお土産売り場で接客していた。
「あ、あの、すいません」
「いらっしゃいませ。 紅葉さんでしたね。 お土産ですか?」
「いえ、あの、ここに来る時に話していただいた【無いのにある物】が知りたくて」
「なるほどなるほど。 それでしたらこの旅館を出て少し行った先にハイキングコースがございます。 そちらを上っていただければわかりますよ」
「ハイキングか……」
「なに、そんなにキツイコースでは無いですよ。 ゆっくりと上れますから是非」
「そうですか?」
せっかくだし、そのハイキングコースを上ってみようと思い一度部屋に戻り準備をする。
旅館の入口まで来るとさっきの遠山さんがいる。
「ハイキングに向かいますか?」
「はい、やる事無いので……」
「それはよかった。 それならこちらをお待ち下さい」
遠山さんが渡してくれたのは昔、駅弁と一緒に売っていた四角で蓋がコップになるお茶。
私は初めて見たよ。
「山は冷えるのでお待ち下さい」
「おいくらですか?」
「こちらはハイキングに行かれる方には無料で差し上げております」
「え? いいんですか?」
「もちろんです。 お気をつけて行って来てくださいね」
「ありがとうございます」
温かいお茶を受け取り、ハイキングコースを目指す。
旅館を出てしばらく進むと、ハイキングコースと書かれた看板が見えてくる。
コースは緩い坂が続いているようだ。
私は一本踏み出し上り始めた。
コースは確かに緩い斜面のためにキツく無い。 それより、紅葉した木々に囲まれ気温は低いのに暖かく感じる。
まるで山に包まれているような感じだ。
この暖かさは上っているから体が暖かくなったのかな?
それとも別の何かかしら?
ゆっくり上り一時間程で頂上に到着。
頂上から眺める景色は山が紅葉で染め上げられている。 色々な色で染まっている山はまるで宝石……。
いや、なんかもう宝石と言う言葉では表せない自然が持つ美しさがある。
「綺麗……」
私はその美しさをしばし見つめていた。
草の上に座り、もらったお茶を一口……。
「はぁ〜……、あったまる……」
温かいお茶が喉をスゥッと通過して行く。
仕事をしながら飲むお茶とは違いお茶の味が染み渡る。
しならくこの紅葉を眺めた後、下りて旅館に戻る。
「お帰りなさいませ」
「あ、お茶ありがとうございました。 とても美味しかったです」
「それはよかった。 ただのお茶も飲む場所で味も変わる物です」
「そうですね」
「それで、見つかりましたか?」
「はい! そんな気がします!」
無い物がある……。
都会にはあちこちにコンビニもあればショッピングモールもある。
電話一本で配達もしてもらえる便利さがある。
ここにはそれは無い。
でも山の上から見た景色は都会には無い。
私の空になっていた心に何かが入り込んだ感じだ。
そして冷えた体に温泉が気持ち良い。
ここからの景色もたまらない。
温まったまま、部屋に戻って美味しい和食の料理を堪能する。
飾りに使われている紅葉が秋を感じる。
食事後はもう一度温泉に入り、旅館を見て回る。
部屋には既に布団が用意されている。
ちょっと早いけど歩き疲れてるからもう寝よう。
部屋を暗くし布団に入る。
静寂な部屋にリーンリーンと虫の音が聞こえてくる。
これが都会だったら車の音や時々騒がしい人の声だったりするが、虫の音はうるさいと感じなく逆に落ち着いて眠る事が出来た。
翌日、私は帰路に着く。
旅館の女将にお礼を言い、駅まで送ってくれた遠山さんにもお礼を言う。
「本当に楽しい休暇となりました。 ありがとうございます」
「元気になっていただけたなら幸いです。 またいらして下さいね」
「はい! また必ず来ます!」
こうして私は都会の喧騒に戻って行く……。
ただ、あの山頂で見た自然の美しさに惚れた私は休みの日にキャンプや軽い登山をする様になり、自然を満喫して疲れを癒すようになりました。
でもキャンプ用品高いよ〜!
秋の訪れ かなちょろ @kanatyoro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます