第12話 チハ狂いのレイナ
若きハイ・シェリフ、レイナは慎重にチハの回収作業を進めていた。ラニア村ではチハ研究の第一人者である彼女は、チハの構造や主要パーツに精通しており、クレーン作業班に指示を飛ばしながら、残骸の重要な部位を選別して回収させていく。
だが、カーゴトレーラーに積載できる量には限りがあり、全てを持ち帰ることは難しい。しかもチハの残骸には、不発弾や燃料タンクといった危険物も多く混じっており、回収作業は常に緊張が伴うものだった。
レイナは残骸の中に燃料タンクや怪しいパーツを見つけると、不燃魔法をかけて念入りに安全を確保していた。その様子を見ていたダッチが、作業の合間に肩をすくめながら言う。
「ねえ、チハってそんなに怖いもの? 私の重戦車AB-51アサルトバニーの方が高性能に見えるんだけど?」
レイナはその言葉に思わず眉をひそめるが、少しだけ微笑んで言い返す。
「茶化さないでくれ。……まあ、確かにキミたちのアサルトバニーは、機能面では素晴らしい戦車だ。ただ私から見ると、アサルトバニーは燃料タンクが小さすぎるし、遠距離の追撃には不向きだ。あれはおそらく、拠点防衛か決闘向けに作られたものだろう。局地戦では確かに有利だが、戦場全体の戦略機動では、チハのような長距離機動ができる相手には勝てない」
「お見通しなのね。確かにアサルトバニーの航続距離はチハの三分の一くらい。レイナって本当に鋭いのね……」
レイナはわずかに表情を緩めながら、鋭い目で残骸の中を探り続けていた。
「チハを作り出した文明は、私たちの科学技術を遥かに凌駕している。だからこそ、こうして残骸を回収して調査に役立てなければならないのよ。私は、これ以上大切な人を失いたくないから」
レイナの言葉に、ダッチが疑問の目を向ける。「それってどういうこと?」
その時、クレーンを操作していた作業員のリュックが突然爆発し、火花が飛び散る。作業員は命に別状はなかったものの、吹き飛ばされて足を強打してしまい、苦しそうにうめき声を上げていた。
レイナはすぐさま駆け寄り、真剣な表情で言う。「言ったはずだ。チハの残骸を勝手に触るなと。残骸には砲弾や燃料タンクが含まれていることが多く、少しでも油断すれば爆発する危険がある」
そう言うと、彼女は手をかざして作業員に回復魔法をかける。青白い光が作業員の足にあてられ、負傷した足の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「見かけは治ったが、骨にはヒビが入っているようだ。肉眼では分かりにくいが、完全に治すにはもう少し時間が必要だろう。作業が一段落するまでここで待っていろ。後でしっかり治してやるから」
作業員はレイナに頭を下げ、感謝と謝罪を述べた。
その様子を見ていたダッチが、ふと感心したように呟く。「レイナって、優しいのね」
レイナは少しだけ微笑んでから、無愛想な口調で返す。「優しくなんてない。私はただ職務に忠実でいるだけだよ。ここにいるのは、貴族社会で弾かれたワーカホリックの成れの果て。チハに取り憑かれた狂った女だ」
その背中にはどこか悲しげな影が宿っており、ダッチは何となく、彼女が普段のキヨシに似た雰囲気を持っていると感じた。その時、インターカム越しにキヨシから連絡が入る。
「ダッチ!敵戦車らしき熱源反応を捉えた。おそらく新たなチハだと思われる。3時と10時の方角からそれぞれ一両ずつ。それと、敵戦車の周辺に多数のアンデッドがいる」
ダッチは緊迫した表情でレイナに報告し、レイナも即座に状況を把握する。彼女は作業の中断を指示し、負傷した作業員を背負いながら後退を試みたが、10時方向から迫るチハとアンデッドの集団の移動速度が想像以上に速く、全員が無事に退避するのは厳しい状況だった。
やがて遠くに、アンデッドの大群が肉眼で確認できる距離まで迫ってきた。レイナは決意を固めたように地面に立ち、呪文の詠唱を始めた。
「穢れた者の歩みを阻む荊の針よ、地の深淵より我が呼び声に応え、刃となりて顕現せよ。穿ち、絡め、貫け、足枷となりて進撃を鈍らせよ──ニードルペイン!」
彼女の足元から無数の魔力のニードルが地面を突き破って生え、アンデッドの足を次々に貫いた。アンデッドは痛みを感じることなく突進を続けるが、脚部の損傷によって移動速度が落ち、進撃がわずかに鈍る。
だが、チハの進行を完全に止めるには至らず、状況は厳しさを増していた。その時、ダッチが隣で焦った様子で声を上げた。
「くそっ!アサルトバニーはラブポイントの消費が激しすぎて、残りがたった21ポイントしかない……!」
ダッチは懐からバニーファウスト──対戦車擲弾筒を具現化させた。この武器なら、命中すれば第二次世界大戦中の戦車なら撃破できる威力がある。
「レイナ!もっと足止めして!バニーファウストを確実に当てるには、チハの動きを遅らせる必要があるの!」
レイナは頷き、必死にニードルペインを連続で発動させた。彼女の額には冷や汗がにじみ、魔力を使い果たす覚悟で呪文を詠唱し続ける。そして、ついにチハの車体が見えてきたが、地面から伸びたニードルによってわずかに足を取られ、動きが鈍っているのが確認できた。
「今だ、ダッチ!発射して!」
ダッチは狙いを定め、バニーファウストの引き金を引いた。白煙を引きながら、擲弾がチハに向かって飛んでいく。しかし、その瞬間、チハの主砲が一瞬早く榴弾を発射し、擲弾は爆発に巻き込まれて撃墜されてしまった。
「……そんな……」
ダッチは青ざめた顔で硬直した。バニーファウストが破壊されてしまった今、チハを撃破する手段が完全に失われたことを悟る。
それを見ていたアンデッドたちは、不気味な高笑いを上げながら迫ってくる。
バニーガールナイトとニートの冒険譚 〜ええ!? イチャイチャすると戦車が手に入るんですか?〜 犬ティカ @inutika
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