第11話 蒸気戦車ロングホーンⅡ
気まずさを感じながらも、俺とナターシャはアサルトバニーの車内で周辺の警戒に集中していた。車体上部のキューポラに取り付けられた「ウサギ耳」──サーマルイメージャー、レーザー距離計、ミリ波レーダー、音響探知機などを内蔵した複合型探知機──が360度回転しながら、周囲の情報をモニターに映し出している。
「この戦車、本当にハイテクですね……」ナターシャがモニターを見つめながら呟く。「私たちが住むフルヴァイン王国の戦車なんて、蒸気機関でようやく動く程度で、観察機器もせいぜいペリスコープくらいなのに……」
ナターシャが少し羨望の混じった目でアサルトバニー車内を見ているのが伝わってくる。気まずさを誤魔化したかったのと、単純に興味が湧いたので、俺は彼女に訊いてみた。
「どんな戦車なの?」
ナターシャは一瞬、答えを躊躇うように視線を落とした後、「ロングホーンII型というのが私たちの最新鋭戦車なのですが……屋根なしのオープントップ型で、主砲はカルバリン砲。最高速度は約10km/h程度ですね」と、少し申し訳なさそうに説明してくれた。
聞いた瞬間、俺は思わず「うわぁ……」と心の中で絶句した。それ、どう考えてもチハに太刀打ちできそうにないじゃないか……。
俺の反応に気づいたのか、ナターシャは苦笑いを浮かべ、肩をすくめてみせる。
「お察しの通り、ロングホーンII型はチハに対抗する戦車としては、ほとんど役に立ちません。でも、私たちの科学技術では、これが限界。だからこそ、チハの残骸が必要なんです。これらを分析すれば、新しい技術が発展する可能性がありますから」
なるほど、わざわざチハの残骸を収集する目的が、単に回収だけではなく、技術の飛躍につながる期待もあるのだと気づく。
その時、突然、ウサギ耳探知機のモニターに異変が映し出された。左右から、それぞれ不明な車両が一両ずつ、こちらに接近している。
「ダッチ!敵戦車らしき熱源反応を捉えた。おそらく新たなチハだと思われる。3時と10時の方角からそれぞれ一両ずつ。それと、敵戦車の周辺に多数のアンデッドがいる」
俺の報告に、ダッチはすぐに反応した。車内のスピーカー越しに、作業班指揮者であるハイ・シェリフの鋭い声が響き、チハ回収作業が即座に中止される。ハイ・シェリフは素早く指示を飛ばし、回収班に後退を命じている。
「キヨシ、ごめん。回収班に負傷者が出たみたいで、すぐにはそっちに戻れそうにないわ。あなたの方で10時の方向から来る敵戦車を何とかできる? 120mm滑腔砲で撃破してみて」
ダッチの冷静な指示がインターカム越しに届く。こんな緊急事態に落ち着いて指示を出せるなんて、改めて頼もしいやつだ。
「わかった! やってみる!」
不安だが、やるしかない。俺はナターシャに視線を向け、彼女も事態の深刻さをすぐに理解してくれたようだ。
「ナターシャ! 砲弾の装填を頼む! 俺が砲手として敵戦車を狙い撃つから!」
「ラジャー!」ナターシャが力強く返事をし、すぐに装填作業に取りかかる。冷や汗が背中を伝うのを感じながら、俺は砲の照準を10時方向に向ける。モニター越しに、チハらしき戦車が不気味に進軍してくるのが見えた。
そして、戦いが始まる。
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