第10話 廃課金
重戦車AB-51アサルトバニーを中心に、俺たち調査隊10名は瓦礫の森を目指して進んでいる。とはいえ、トレーラーを引いてるせいで速度は20km/h程度。思った以上にゆっくりだ。
「なあ、チハ調査隊が10人って大所帯すぎないか?もっと減らせなかったの?」
俺が車内でそうぼやくと、ダッチが後ろで笑いながら答える。
「これでも絞ったのよ? 瓦礫の森は危険だからって、冒険者200人で護衛する案も出てたのよ。でも、人見知りのキヨシが嫌がると思って、その集まった200人を私がフルボッコにして黙らせておいたの」
「はははっ、あの時のダッチさん、凄かったですよ! さすがチハを討伐した冒険者だと皆が一目置いてました」と、隣に座っているナターシャが感心した様子で言う。
「ええ……ダッチってそんなに強いのか?」
「そりゃ、強くしたのはキヨシでしょ? 『プリンセス♡バニー』で廃課金しながら、ヒキニート生活をフル活用して、私をレベル207まで上げたじゃない」
「……って言われても、この世界の基準が分からんから、どのくらいの強さかピンとこないんだけど……」
するとナターシャが少し誇らしげに説明を始めた。
「私がお答えしましょう。一般成人のレベルは1~4程度、平均的な冒険者は5~6前後、熟練冒険者で6~11、近衛団長や勇者で11~30、伝説の人物は30~100といった感じです。ダッチさんの強さは異常と言っていいでしょう」
「へぇー……」
思わず俺が返事をしてしまうと、ナターシャが驚いたように目を輝かせた。
「キヨシ様、初めて私の言葉に返事をしてくださいましたね?」
彼女の期待に満ちた笑顔を見ていると、どうにも気まずくなり、俺はすぐに視線をそらした。
「……あ、そろそろお昼ね。戦車を停めてランチタイムにしましょうか」と、ダッチが気を利かせてくれる。戦車が止まると、ダッチは真っ先に降りて「ラビットキッチン」を展開し、みんなのために料理を作り始めた。
その場に残った俺は戦車の中でじっとしていたが、そんな俺を見かねたのか、ナターシャが声をかけてくる。
「戦車から降りないんですか?」
「いや、俺は人見知りだから……ここにいれば、どうせダッチが食事を持ってきてくれるし」
「そんなこと言わずに、一緒に降りてランチしましょうよー!」
ナターシャが無邪気に俺の腕を引っ張ってくる。それに触れられた瞬間、俺の中でどうしようもない拒絶感が湧き上がった。
「触るな!」
つい、声を荒げてしまい、ナターシャはびくっと怯えたように手を引っ込めると、小さく「ごめんなさい……」と謝って、戦車を降りていった。
しばらくして、ダッチが料理を持って戻ってきた。俺が一人残っているのを見て、すぐに察したようだ。
「ナターシャに怒鳴ったんだって? あの子、真面目だから結構ショック受けてたよ」
「……ごめん。人が怖くて……」
俺の弱々しい言葉に、ダッチは少しだけ寂しそうな顔をして、そっと俺を抱きしめてくれた。
「ごめんね、急ぎすぎちゃったかもね。だから、もしこの任務が終わってお金が入ったら、この村でも王都でもいいから、二人で家を買おうか。キヨシの心が落ち着くまで、私がずっとそばにいるから」
「……うん」
ダッチのあたたかい抱擁に包まれながら、俺は静かにうなずいた。ダッチがいてくれるなら、この世界でも、なんとかやっていける気がする。
ランチタイムが終わると、ナターシャが戦車に戻ってきた。さっきのことを謝るためか、彼女は少し涙の跡が残った目で俺を見つめていた。
「さっきは出過ぎた真似をしてごめんなさい。これからもよろしくお願いします」
おそらくダッチが彼女をフォローしてくれたんだろう。俺はダッチがいなきゃ何もできない……。
だからこそ変わりたいと思う。
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