第9話 女性神官ナターシャ
朝、ダッチにたたき起こされて、顔を洗い、歯を磨き、まるで操り人形のようにダッチに指示されるがまま外へと出る。
ああ、朝から面倒くさい……でも、ダッチに世話を焼かれるのも、なんだか悪くないかもな、なんてぼんやり考えていると、宿泊宿の馬繋場に停車している重戦車AB-51アサルトバニーの周りに、やたらと人が集まっているのが目に入った。
主に集まっているのは、どうやら子どもたちみたいだ。まあ、あの重戦車、キューポラにウサギ耳がついてるし、遊園地の乗り物みたいに見えるのかもしれない。子どもウケは確かにしそうだな。
「あ、キヨシ!見てみて。AB-51アサルトバニーに、魔女の呪いを討伐したキルマークを描いてもらったの。それと、次の依頼に向けて馬車用のカーゴトレーラーも追加してもらったわよ」
後ろからダッチが声をかけてきた。おお、確かにアサルトバニーには魔女討伐のキルマークが描かれていて、いつも以上に威風堂々として見える。
「ええ、もう次の依頼が決まってるの?」
「そうなの、私が引き受けたわ」
そして昨日、チハを浄化してくれた神官のナターシャが現れる。彼女は微笑んで、俺に向かって手を差し出してきた。
「初めまして、キヨシ様。私はナターシャと申します。昨日は、チハの浄化をさせていただきました。これからよろしくお願いしますね」
目の前で差し出された手を見つめる。……なんというか、こういう親しげな態度がどうも苦手で、気まずい気持ちが湧いてくる。なんだか胸のあたりがむずがゆくなるような、いや、ただただ恥ずかしいのかもしれない。
とっさに、俺はダッチの後ろに隠れた。ナターシャは驚いたように目を丸くしている。
「ええ……? 私、何か気に障ることをしてしまいましたか?」
困惑するナターシャを見て、ダッチが苦笑しながら肩をすくめる。
「キヨシは重度の人見知りでねぇ。まあ、病気みたいなもんだから気にしないで。この子のフォローは私がバッチリやるから!」
ナターシャは戸惑いながらも渋々手を引っ込めた。
「そうでしたか……では、改めて依頼についてご説明いたします。お二人がチハを撃破してくださったのは確認しましたが、撃破地点にはまだ多くのチハの残骸が残っているかと思われます。そこで、お二人にはその残骸の回収をお願いしたいのです。もし回収が難しい場合は、残骸の形状や位置を記録し、王都の魔女対策機関に報告していただきます」
ナターシャが事務的に説明するのを聞きながら、俺はついつい面倒くさい顔をしてしまった。うーん、ただでさえ朝からの活動は億劫なのに、そんな面倒くさい作業をやるのか?
「ちょっとキヨシ、面倒なのはわかるけど、これは結構なお金になるのよ! チハ撃破で500万G、この回収任務で400万Gがもらえるそうよ。さらに魔女対策機関が満足するデータが得られたら100万Gが追加なんだから」
「そもそもGって、どれくらいの価値があるの?」
「わたしの調査によると、この村の一食分のパンがだいたい0.5G。だから、日本のコンビニパン一個が130円だとすると……1000万Gは約26億円になるわ」
「マヂで!? 俄然やる気が出てきた!」
思わず食いつくと、ナターシャが少し心配そうな顔でこちらを見ている。ああ、この人たちと組んで大丈夫なのかしら、みたいな顔をされてるな。まあいい。俺は目の前の金額にすっかり夢中だ。
こうして俺とダッチ、ナターシャ、それに雇われた冒険者たち10名で出撃することになった。俺とダッチ、ナターシャはアサルトバニーに乗り込む。車長兼運転手はダッチ、砲手が俺、装填手はナターシャ。冒険者たちはカーゴトレーラーに乗り込んで準備完了だ。
村を出るとき、村人たちが手を振って送り出してくれた。よく考えたら、俺たちはちょっとした有名人になってるんだなぁ。いつもだったら人目が気になるけど、これだけ感謝されていると、悪い気はしない。
俺たちの冒険は、まだまだこれからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます