きっと僕にはわからない


「それではもう日も暮れる時間ですし、私たちの家にご案内しますね」


 ソフィアさんがそう言い机の隣にあったバッグを持った。

 仕事で使うものを入れてるのかな?


「そうです。書類とかそんなところですよ」

「大変ですね……」


 人事の仕事とか絶対大変だ。僕が大きくなっても絶対できなさそうなことだ。

 そんな仕事をしているソフィアさんが心配だ。

 

「どの仕事も大変ですよ?私は私が好きなことをやっているだけですよ。心配しないで」

「はい……」


 僕は自分が普通に働くのが苦手だと思っている。

 だからこの世界にきて、戦うことが仕事になったのが少し嬉しい。命を落とすかもしれないのが怖いけど。


「大丈夫ですよ。ローシェが一緒に戦ってくれますから」


 ソフィアさんが優しい笑顔でローシェさんを見ながら言う。

 ローシェさんはなにも言わずため息をつく。

 

「それじゃあ家まで一緒に行きますよ。付いてきてください」


 ソフィアさんとローシェさんの後ろを歩きながら、僕は二人の家まで向かった。






「ここが私たちの家ですよ」

「でかい……」


 自分が想像していたよりも大きい家だ。

 ギルドからそこまで時間はかからなかった。

 こんなに人が沢山いるところに家があるのか。二人とも凄いなぁ。

 

 ソフィアさんが家のドアを開け、僕とローシェさんも一緒に入る。


「綺麗……」

 

 玄関の通路はなく、すぐ見えたのは綺麗なリビングだった。

 沢山のドアがあって色んな部屋や通路に行き来できるようになっているみたいだ。


「ようこそ。私たちの家へ。そしてこれからあなたが住む家よ」


 こんなに良い家に僕が住んでいいのかな……

 そう思ってしまうほどにとても住みやすそうな家だった。

 

「直助さん用のお部屋の準備をしますので、ここで待っててください。ローシェ。お茶を入れてあげて?」

「わかったわ。直助。何が飲みたい?」


 さりげなく初めて自分の名前を呼ばれた。嬉しい。


「緑茶はありますか?」

「ある。用意するわ」


 そうしている間にソフィアさんがリビングから移動していた。

 女の人と同居……なにもないわけがなく……いやいや……ネットのノリで意味わかんないこと考えちゃった!


「なにかあったら始末するからよろしく」

「ごめんなさい……」


 ローシェさんがお茶を持ってきながら無表情で言う。

 ローシェさんはあんまり感情を出さないけど、何故か怖い感じがしない。本当は優しいのかな……


「余計な事考えなくていいから、とりあえずお茶を飲みなさい。この世界に来てからまだ水分補給してないでしょ」

「そうですね……お茶、ありがとうございます」

「どういたしまして」


 僕は言われるがままに棍棒を床に置きお茶を飲んでみた。

 美味しい!元いた世界とは少し味が違うけど、格別に美味しい!


「口に合ったならよかったわ」


 ローシェさんがそう言いながらお茶を飲む。

 そういえばローシェさんとソフィアさんはどんな世界からきたんだろう……

 ふと違う世界の話を聞いてみたくなった。


「私の世界では人間が人口のほぼ全てを占めていたわ。でも他の世界の人間と違って寿命も長いし、特別な能力を持つ人間が生まれてくることもあったわ」


 ローシェさんが僕の心を読んだのか、ローシェさんがいた世界について説明してくれた。

 

「それがソフィアさんとローシェさん……ということですか?」

「そうよ」


 だからソフィアさんもローシェさんも見た目以上に大人びてるのか。

 心を読む能力……便利だけど……ローシェさんのいた世界の人間に心を読まれるのを疎まれることはなかったんだろうか……

 

『私はローシェと同じように心が読めます。怖いでしょ?』


 ソフィアさんのあの言葉が引っかかっていた。

 怖がれたことがないのであればあの言葉は言う必要がない気がした。

 それに……もし僕のいた世界でそういう能力を持つ人がいたら……きっと……

 その先は考えたくなかった。だから僕はローシェさんのことを無心で見つめた。


「あんた……意外と勘が良いわね……」


 初めてローシェさんの表情が変わった。とても驚いた顔をしている。

 

「あんたも察しがついてるから言うわ。私たちは親に捨てられた」


 ローシェさんは表情を無表情に戻しながら言う。

 言葉がでなかった。僕の親は酷いものだった。だけど親に捨てられたことは僕にはない。

 だからこそローシェさんとソフィアさんには、言葉にできない苦しみがあったことが想像できた。いやできたのだろうか。わからない。


「なるほどね。姉さんが目を掛けるわけだわ」


 ローシェが直助に聞こえない大きさで呟く。


「ごめんなさい……」

「気にしなくていいわ。私が話し始めたことよ」


 そのさきは聞かなくてもわかった。だから僕は……僕は……


「いつか僕にも話させてください……僕の過去を……」


 ソフィアさんとローシェさんの過去の苦しみとは違う。違うようで似ている僕の過去……もっと仲良くなってから話したい……

 誰かに……誰かに知ってほしい。僕のことを……


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Take in the World ココロサトリ @kokoro_Satori

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