みらい話『P』

ささやか


 はるか未来、地球上におじいさんもおばあさんもいませんでした。人類は不都合の多い肉体を捨て、無機物の身体を得ることに成功したのです。

 ある新人類の夫婦は年輪を重ねた割に可処分資源に乏しく、快楽物質生成に回すリソースがありませんでした。地球はおろか太陽系のリソースは全て発掘され尽くしているため、莫大なリソースを新たに得るためには銀河系を発見してテラフォーミングするしかありません。

 そこで二人は無作為に抽出された配列情報を用いて子供を作成し、その子供にリソースを獲得してもらうことにしました。満足なリソースのない夫婦にとって子供の育成は失敗できないタスクでしたので、二人は細心の注意を払って子供を育てました。

 その甲斐あって、ピーチ1と名付けられた子供はすくすくと成長し、やがて宇宙へと旅立つ時がやってきました。

 配偶者Aは、ピーチ1に対し、開拓済みである銀河系のデータと、未発見の銀河系の位置に関する推測データを渡しました。

 配偶者Bは、ピーチ1に対し、テラフォーミングによって効率よくリソースを得るためのノウハウを渡しました。

 生誕前から夫婦のために尽くすよう刷り込まれているピーチ1は二人に大層感謝して出立しました。

 作成した子供に未開拓の銀河系を発見させ、新たなリソースを獲得することは、リソースに乏しい行き詰まった新人類が考えるありふれた手段の一つですが、そう都合よく新たな銀河系を発見できるはずがありません。子供の作成と育成によって失ったリソースを回収することもなく、ますます行き詰まることがほとんどです。

 しかしながら、幸運にもピーチ1は配偶者Aから与えられた情報をもとに未開拓の銀河系を発見することができました。

 その銀河系には四個の惑星があり、ピーチ1は配偶者Bから与えられたノウハウによって順調に三個の惑星をテラフォーミングし、新人類に有益なリソースを産出する存在に変換することができました。しかしながら、残る惑星には有機生命体が棲息しており、なおかつ彼等は高い知性を有していたので、ピーチ1のテラフォーミングに対して強固に抵抗しました。この結果をふまえて試算してみると、これまでの方法ではテラフォーミングを完了することができず、それどころか最終的にピーチ1が有機生命体に敗北する可能性が高いことが判明しました。

 そこでピーチ1は既にテラフォーミングを完了した三個の惑星から産出されたリソースを有機生命体の根絶に利用することを思いつきました。有機生命体の棲息する惑星はその銀河系の中で最も豊かな惑星でしたが、残る惑星三個分のリソースには及びません。物量作戦によってピーチ1は有害な有機生命体を根絶することに成功しました。

 ピーチ1は最後に恒星にも適当な調整を加えて所有権の表明をした後、莫大なリソースと共に夫婦の元へ帰還します。もちろん夫婦は大喜びでピーチ1を歓迎しました。

 こうして莫大なリソースを得た新人類の夫婦はしばらくの間幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

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