第二話 アグリコラ村にて
アグリコラ村に入った私は2、3日ほど滞在の許可を貰うために、まず「アジェレ・プロコラートラ」という名前の村長の家を訪れる事にした。とは言っても、まだどれが村長の家かは分からない。
取り敢えず軽く村の様子も見つつ、それらしき装飾や大きさの建物を探していくが、まず目に止まったのは村の農地の広さだった。
「ほぅ……」
馬車から見た時にもそうだったのだが、農地がとにかく広い。一体何メートルあるのだろうか。それだけでなく、この村の農地は管理が丁寧なようで、土がふっくらとしており、土自体の色も良い。
こんな良い農地は見たこと無かったので少々目を凝らして見てみると、どうやら麦の新芽が出ており、元気にその姿を見せていた。
そういえばもう麦を育て始める時期か……そう思いつつ、私は幼い麦に軽く手を振ってその場を離れる。気づけばもう日が傾き空は茜色に染まり始めていた。
「コンッ、コンッ、コンッ、コンッ」
あの後小走りで村長の家らしき大きめの建物に着き、4回ノックをして返事まで待機する。少しすると、「今行きます」と遠くの方で返事が聞こえたのでもうちょっと待つ。
しばらくすると、多少装飾の入った木製の扉は開かれ、中からは若い男性が姿を現す。どうやら作業着を身に纏っており、軽くはたき落とされてはいたものの、土の汚れが目立っていた。
「あぁ、ファトゥムさんで御座いますか。ささ、中へどうぞ」
「では、お言葉に甘えて」
私は玄関の方で外履きを脱ぎ、その男性についていく。そうして通されたのは、
「ようこそこのような辺境へ来てくださいました。心より歓迎致します。今菓子とお茶を持ってくるので、こちらに座ってお待ち下さい」
そう言って男性はテーブルにあった三脚のイスのうち、一番近い椅子を指す。私はそれに従い、手荷物を降ろして腰掛ける。
男性が厨房室に入った後、茶と菓子が出てくるまでする事も無いので、私は家の中を見渡した。
情報によればどうやらここが村長の家……らしいが、それにしてはとてつもなく質素で、庶民らしい内装だ。
テーブル1卓、イス3脚、それに棚1つ。それに家具のどれもが
麦である程度は儲かっているはずの村だが、どうやらこの村の長は質素と倹約を好んでいるらしい。
「お待たせしました」
部屋を見渡す中、先ほどの男性が厨房から戻ってきて、丸められたやや大きめの羊皮紙と、2つ分の麦茶と木の皿に盛られた少しばかりの乾パンを出す。
「今はあまり良いおもてなしが出来ない事をお許しください」
「ん、大丈夫」
「ありがとうございます」
元よりこの村がそういう状態であったことは知っていたので、私はそういった意味で大丈夫と返事を返す。
「それでは初めまして。私はアジェレ・プロコラートラ。アグリコラ村の村長をやっております。気軽にアジェレとお呼びください」
「ん、私はファトゥム・バルオム。旅人をやっている」
「お噂はかねがね聞いております。最近ですと、かの悪名高きミノタウロスを一人で討伐とか」
前の街でやったミノタウロスの単独討伐……確かに自分が立てた功績ではあるが、いざ面と向かって話されると、少し照れくさい。
「う、ん。それで、話というのは?」
あまりの小っ恥ずかしさに特にいい雑談のネタも、上手い話の切り口も思いつかなかったので、私は単刀直入にそう言う。
すると村長は羊皮紙を広げ、そこに書かれたある一点を指差す。
「この村から北東の方へ行くと、近くに川が流れています。そこの川に沿って進んでいった先の洞窟にいる、ゴブリンの群れを討伐していただきたいのです」
羊皮紙には村の場所やその周辺の地図が大雑把に書かれており、そこには確かに北東の方面に細長い川の絵が書かれていた。
「分かりました。引き受けましょう」
「っ……!ありがとうございます!ありがとうございます!」
村長は何度も頭を下げ、私にお礼を言う。
よっぽど頭を悩まされていた問題だったのだろうか。まあそう言われれば確かにそうか。農家という作物を生産する職業である以上、畑を動物に荒らされたり、魔物に奪い取られたりされるのは誰がどう見てもあまり芳しくない問題だろう。
ということは村長はゴブリンに作物を荒らされていたからこのような質素な暮らしをしていたのか。なるほど。
「では対価は2泊で」
「それならばこの家の空き部屋をお使い下さい。一応、掃除はしてあります」
「分かりました。では、早めに準備を整えて出発します」
「どうかお気をつけ下さい」
旅する少女と、奇跡の宝玉〜幼い魔女は遥か北へと向かう〜 さんばん煎じ @WGS所属 @sanban_senzi
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