旅する少女と、奇跡の宝玉〜幼い魔女は遥か北へと向かう〜

さんばん煎じ @WGS所属

第一話 旅の最中

 それは遥か昔、人々の間で語り継がれていた伝説であった。


『遥か北、天にて煌々と輝く星と自身が交わる地――星の収束地テンポスアリアにて、本物の奇跡を起こす神の宝玉がある』


 その伝説は信仰をしていた人々から徐々に広まり、やがて国を一つ動かす規模の人々が、『星の収束地テンポスアリア』と呼ばれる場所を目指し、ただひたすらに北へと向かった。しかし、誰一人としてその地へと辿り着くことは出来なかった。


 この伝説は、世界を創生した者……神々を崇め奉る宗教『神仰教しんこうきょう』が広めたもので、その伝説が真実かどうかは、この伝説が人々の間に広まり始めて約10年、定かとなっていない。


 そして――宝玉を求めた者たちは、北の極寒に阻まれ辿り着けなかったのか、それか道半ばで倒れたのか……それもまた、定かでは無い。

 ただ、結果として本物だと証明しようのない伝説に、何時しか人々の心は折れていった。


 しかし……そのような伝説を信じたのか、一人の少女魔女は伝説にある宝玉を求め、旅立ったのだった。



〜〜〜



 今日は澄み渡った青空に、心地よい風が棚引く良い秋の日だった。


 馬が土を踏み鳴らす音に、白い綿で作られたトンネル型の屋根がついた、木製の馬車が鳴らす音。そして、馬車から来る程よい振動。あとついでに掛け布団。

 こんな良い条件が揃ってしまえば、思わず寝てしまいそうだ。


「嬢ちゃん、そろそろアグリコラ村に着くよ」


 もう既にうたた寝モードに入っていた私だが、そう言われてしまったので顔を上げる。

 そうして見えたのは馬車が目指す方向には干草を使った屋根や、とにかく広大な農地が特徴的な農村であった。

 うむぅ……しばらく寝ようかと思ったのだが。仕方ない。


「はは、そんな不満げな顔をされてももう着いちまうんだから仕方ないだろ?」

「別に不満げな顔なんか……」

「分かったよ。嬢ちゃんがそう言うならそういう事にしておこう」


 御者のおじさんの妥協したような態度に苛立ちを感じるが……私はそれを押し殺し、いつでも馬車から降りれるように手荷物の準備を始める。

 そして手荷物の準備が終わり、いざ降りるかと思った頃合いには、馬車は村の入口にある簡素な木のゲートに着いていた。


「さ、ついたぜ嬢ちゃん」

「ん。ここまでありがとう」


 私は軽くお礼を言った後、御者台の方から飛び降りて馬車から降りる。


「じゃあな嬢ちゃん。bona fortunaボナフォルトゥナ

bona fortunaボナフォルトゥナ


 別れの言葉を言った御者は、手綱を片手だけ手放し、満面の笑みを浮かべてこちらへ手を振る。

 身体は筋骨隆々で、顔は渋い白ひげを生やしほうれい線がやや目立つような見た目の御者だが、その見た目から繰り出されるとは思えぬ笑みと態度なもので少しばかり吹き出してしまいそうだ。

 私は笑いを堪えつつ、御者に手を振り返す。

 それを見た御者は満足したかのように頷き、手綱を再び両手で持ち、2回引いて馬に指示を出す。

 馬車は方向を変え、先ほど通ってきた道を向くと、ゆっくり動き始めて離れていく。


「少し肌寒いな……」


 今まで馬車で多少なりとも防がれていた風が当たってくるのか、馬車で感じた風よりも少し肌寒く感じるような気がした。


「いや……布団で防がれていただけかも」


 私は顎に人差し指を軽く当て、少し思考に耽る。

 ……まあどんな理由であれ、こんな事ならもう少し厚着するべきだったか。


「うん、なら悩んでいても仕方ないか」


 少しの寒さは我慢することに決め、私はアグリコラ村のゲートをくぐったのだった。

 

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