イチゴ

高本 顕杜

イチゴ

 イチゴが落ちていく。


 それは、イチゴ農家の陽一が、収穫作業をしているひと時だった。

 そのイチゴは、陽一が特に丹精こめて世話をした株だった。

 病気にも、虫にも、負けず立派に育ってくれたのだ。

 そんな大切な一粒が、落ちていってしまう。

 陽一は、それでもと、咄嗟に手を伸ばす。

 その手はぎりぎりでイチゴに届きそう。

 よかった――。

 陽一が安堵したのもつかの間、陽一の手とイチゴの間にすごい勢いで何かが入ってきた。

 そして、あっけなくイチゴをさらっていったのだ。

 それは、妻、裕子の手だった。

 裕子は、さらったイチゴをそのまま口に放り込んでしまう。

「うん、上出来だね」

 陽一の大切なイチゴは、逝ってしまった――。

 しかし、裕子の顔は満面の笑みを浮かべている。

 大切なイチゴを失ったが、大切な妻の笑顔を見ることが出来た。

 陽一はうっすら涙を浮かべながらも、妻の姿に微笑むのだった。

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イチゴ 高本 顕杜 @KanKento

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