第8話 難しい話し合いはスキップに限る


「ふんふんふふーん…」


 鼻歌を歌いながら、耕された土に小さく砕いた紫色の粉を撒く。


「…何をしているんだ…?」

「ん?」


 後ろから声をかけられ振り返ると、そこには明るい茶髪のイケメン騎士、ドルドフ君が立っていた。


「やあドルドフ君。何って、見ての通り畑を作っているのさ」

「畑…?」

「騎士って畑を知らないの?畑っていうのは…」

「馬鹿にするな!それくらい知っている!なぜ畑を作っているのか聞いているのだ!会議中だぞ!休憩時間だから探しに来たが…」

「畑を作る理由なんて植物を収穫するために決まってるだろ?会議とかは難しくて聞いてらんないよ。ほら、こっちこっち」

「ま、まて…手を離せっ…くっ、この…」


 準備を終えたので、畑から離れてドルドフくんを屋敷の影に強制的に案内する。


「一体何を…!」

「しー…見てな?」


 同じくしゃがみこみ、畑の方をじっと見つめていると…


「…っ?あれは…」


 門の方から二足歩行の苗のような生物が走ってくる。


「マンドラゴラだよ。色んな薬の材料になる万能素材さ」

「なぜマンドラゴラがこんな人のいる屋敷に…?」

「おや、知りたいかい?なら教えてあげよう!マンドラゴラは本来人の気配を感じると近づいて来なくなるし地面に埋まって動かなくなるというのはよく聞く話だろう。そんなマンドラゴラを呼び込むために、魔力が膨大に溜まった魔石を砕き、その粉末を畑に撒くことで土壌の栄養を直に感じるマンドラゴラは魔力に酔い、人の気配も感じれなくなりその栄養豊富な土壌に一直線ってわけさ。それももののの数分でだ」

「…そ、そうなのか…」


 そうやって説明しているうちに、マンドラゴラは地面を掘り、自分の身体を完全に埋め、地上には葉だけが残る。


「さて。それじゃあすぐに収穫だ」


 マンドラゴラは魔力を補給すると、どれだけいい土地でも自分の住処に帰ってしまう。なのでさっさと収穫しなければならないのだ。


「よいしょ」

「ま、まて!なんの準備もなく抜けば…!」


 葉の部分を鷲掴みし、引き抜く。


「──────き「そぉい!」


 そうして思い切り引き抜くと、マンドラゴラは大きく口を開き息をためる。その瞬間、俺はマンドラゴラをそのまま地面に叩きつけた。


 ビターンっッというような効果音がしそうなくらいの勢いで叩きつけられたマンドラゴラは、力なく垂れ下がる。


「は?」

「なかなか健康的な身体だ。これはいい素材になるぞ。ほら、ドルドフ君にも見せてあげよう」

「ど、どうなっている?マンドラゴラがこんな簡単に…」

「ん?あぁ、マンドラゴラって抜いたら叫ぶからな。その前に気絶させれば余裕だよ。ま、意外とコツはいるがな」

「………そうか」


 俺の説明を聞いたドルドフ君は手で額を抑えてため息まじりにそう声を漏らした。


「どした?まだ疲れてる?マンドラゴラいる?」

「っ!何でもない!一度くらい会議に顔を見せろ!それだけだ!」


 心配してそう聞くが、ドルドフ君はそう吐き捨てるように言い屋敷の方に戻っていった。


「………はぁ…顔見せるくらいはしとくかねぇ」


 色んな貴族が集まっていて正直めんどくさいが、王都奪還作戦は自由に行動するにしてもまあ挨拶くらいはしとくべきか。



 ▽



「おじゃまー」


 扉を開き、部屋に入る。そこには大きな円卓と、豪華な服を身に纏った貴族達が座っていた。


 その数20人超え。昨日伝書鳩を飛ばしたばかりなのにこの集まり。ジジイやイレーネちゃんの名に相当な影響力があることがよくわかる。


「誰だ貴様は?ここは関係者以外立ち入りは禁止していたはずだろう」

「こちら側の人間ではないですよね?どちら様でしょう」

「おい、デルドルーツ。何者だ?」


 そう口々に騒ぎ出す面々。まあそれもそうか。今の俺の姿は完全な不審者だしな。


「彼は…」

「私の名は朧の魔術師と申します。どうぞよろしく」


 そう適当に挨拶し、丁寧に頭を下げる。


 そんな俺の姿は、いつものほつれた紺色のローブに骸骨の仮面を装備した姿であった。


「朧の魔術師…これが例の秘策というやつか?」

「そうだ。彼は我々に全面的に協力するということになっている」

「ふん。そのような迷い事を我々の前で堂々と言うとは、戦鬼も老いには勝てんか…」

「ほう?彼が偽物だと?」

「当然だろう。朧の魔術師が我々に協力?馬鹿馬鹿しい。元々朧の魔術師など噂だけの産物だろう。そんな魔術師が存在するわけが…」


 ザラザラという音とともに、机が粉々になり崩れ落ちる。


「…は?」

「別に、私が本物かどうかはどうでもいい話でしょう?イレーネ様に協力するという契約ですので、貴方方がなにを思われようと関係ありません。ただ、現地で邪魔をされては困りますので一応挨拶をと思っただけです」

「………」

「こうなりたくなかったら、なんて言いませんよ?ただ、一応戦場には私もいる、ということは理解しておいてください。もし後ろから斬りつけられようものなら…安否は保証できませんので。では」


 指を鳴らし机を修復し、そのまま部屋をあとにする。


「…………ふぅ〜……!おい、どうだった!?」


 ある程度離れたところで振り返り、そう話しかけると…


“ぐっじょぶ”

“まずまずやね”

“これは強キャラ”

“いいぞグレイ”

“おつかれ”


 浮かんだ水晶には、沢山のお褒めの言葉が流れていたのであった。

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異世界配信者〜世界最強の魔術師ですが、森の奥で異世界から配信してたら住所特定されて草生えた〜 座頭海月 @aosuzu114514

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