第7話 放送事故ギリギリなんだが
「はははっ、そなたが朧の魔術師ということは、間違えないみたいですな」
「はぁ…」
“良かったなグレイ”
“本物だってよ”
“ニセモノジャナカッタンデスネ!”
「お前らは黙ってろ!」
さっきから茶化しが鬱陶しいコメント欄に一言小声で文句を言い、ジジイの方を向く。
「とりあえず、そこでおとなしく寝てろよ…」
「はははっ!わかっておるよ」
そう笑うジジイは、傷はあるもののそこまで外傷はない。
だが、それは外だけで骨にはヒビが入っているし、打撲等の痛みは結構あるだろう。
治癒魔術は苦手分野なので許していただきたい。別に突然襲ってきた仕返しで治癒してないわけじゃないよ?
「ま、作戦会議は明日らしいし、ゆっくり休めよ〜」
手をひらひらと振りながら部屋から出る。すると、茜色の夕日が廊下を照らしていた。
「もうこんな時間か…」
あの殴り合いから2時間。気絶したジジイを癒やして、屋敷の修復をしていたらこんな時間になってしまった。
別にどちらも放置しても良かったが、疑う気持ちもわかる。
ま、今回はサービスだ。今後は魔術で屋敷ごとぶっ飛ばすと言っておいたし、こういうことはこれっきりだろう。
そんなこんなで、今日はとりあえず休んで、明日色々と話をすることになった。
イレーネは俺とジジイの戦いを見届け、屋敷を修理している途中で限界に達したのか気絶するように眠ったし、騎士たちはイレーネとジジイの話し合いの前に限界が来たのかこちらも気絶するように眠っている。
どうやら、見た目以上に全員限界が来ていたようだ。
騎士たちはジジイ…いや、デルドルーツを信頼しているみたいだし眠るのはわかるが、イレーネはもう少し警戒したほうがいい気がするがな…
作業していたとき、突然倒れてびっくりしたが、あんな可愛い子がほぼ初対面の男の前で倒れるのは少々危険だろう。俺がもし悪い狼なら、配信閉じてぺろりと一口だ。
「んじゃ、俺も休むかぁ…」
“今日は終わりか?”
“おもろかったー”
“劇にしてはすごいクオリティだった”
“瓦礫修復配信者さんお疲れ様”
“乙”
瓦礫修復とジジイの治癒で同接は減ったが、意外と視聴者は残って現在3000人弱。
戦闘は受けが良かったみたいで、ジジイと戦ったときの同接は二万人超えだったので、それと比べると少ないと思ってしまうが、普段の平均が3000人なので終わりまじかでこれだけ見てくれているなら十分である。
「あ、この後枠変えて魔術講座があるから初見の人も見てってね〜」
“宣伝も忘れませんと”
“仕方ないから見てやるよ”
“光魔術途中だったもんな”
“デルドさんにやった治癒魔術教えろー!”
「治癒魔術と修復魔術も、さっき話せなかった詳しい解説とかするよ。20時頃になるかな?」
“おけ”
“了”
“り”
“おk”
「それじゃ、また後で〜」
そして、配信を切る。
「はぁ〜…疲れたぁ〜……」
今日は色々とあった。そして明日からはもっと大変になるだろう。
まぁ、偶然の出会いだが視聴者も増えたし、これからの展開も山あり谷ありになりそうだし、いい事だらけではあるんだけど…
「内容が冒険になると、本格的にバレてくるよなぁ…」
だが、配信をやめるわけには行かない。俺の目的のためにも、ここで引くわけには行かないのだ。
「………んしょ」
自分に当てられた部屋の扉を開く。
どこにでもあるような、ベッドと机と大きな窓がある普通の部屋だ。
飯は食べたし、配信時間まで後2時間くらいはある。
それまで仮眠…いや、魔術の鍛錬でもするか。
「空間収納、魔術書」
俺がそう唱えると、ベッドの上に俺が集めた魔術書が積み上がる。
そうして、俺はその中から基本的な魔術の指南書である書物を手に取り、栞を挟んでいたページを開く。
そこには『中級魔術の習得方法』と記されていた。
▽
ピロピロピロ、という中世の屋敷に似つかわしくない機械音が部屋の中に鳴り響く。
「………んお、もうこんな時間か」
そんな音を鳴らす水晶の頭を軽く叩き、アラームを止める。
現在時刻は19:55。もうそろそろ配信の時間だ。
本を仕舞い、配信の為に水晶の位置を調節する。
「こんなもんか…よし、んじゃ、始めるか。あー、あ〜…聞こえる?」
“聞こえる〜”
“キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!”
“待ってた”
“昼の配信見たけど色々凄かったな”
「お〜、あんな長いアーカイブも見てくれる視聴者もいてくれるなんてな。ありがと、配信も見てってくれよ」
“寝るまで見させてもらうわ”
「おけ。それじゃちょっと静かに配信しようかな。んじゃ、今日は昼の続きの光魔術の使い方から…」
そして、用意していた初級の魔術書を開き視聴者に見せようとしたタイミングで、突然扉が開いた。
「んおっ……イレーネちゃん?どうかした?」
そこには、茶色い毛皮の上着を身に纏った湯浴み上がりらしきイレーネが立っていた。
ほんのりと濡れた髪、上着から覗く真っ白な足、そして少しだけ赤らんだ頬。なんというか生唾を飲むような雰囲気がある。
「夜分遅くに申し訳ありません。お話があって…」
“かわいい”
“イレーネちゃんかわよ”
“えっど”
そうして彼女は続けて言う。
「私は貴方に救われました」
「はぁ…」
「本来なら私ではなくもっと素晴らしい者を紹介すべきではありますが、今、貴方に差し出せるものは…これだけしかありません」
「はっ…ちょ…!?」
すると、彼女は突然上着を脱ぎ、その真っ白な肌を俺達に晒す。
“おほ”
“これはこれは…”
“えっっっっ!!!”
“サービスキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!”
「ストーップ!!タンマタンマ!!!!」
“手退けろ〜!”
“グレイ邪魔だー!”
慌ててカメラの前で手を振り、少しでも映らないようにする。
そして、配信に彼女が映らないようにカメラと彼女の間に立ちながら近づき、床に落ちた上着を目を逸らしながら彼女に着せる。
「一旦、お洋服を着ましょうね〜?」
「お、お待ちください!初めてではありますが、初潮も迎えておりますし、そういった行為も可能です!ですから─」
「シャ〇ップ!!!」
「しゃ…?」
とんでもないことを口走るイレーネを更に汚い言葉で黙らせる。
「いいか!?よく聞けイレーネ…!!」
「は、はぃ…」
「───生配信で朝チュンはできないんだよ!!」
「………?」
俺の言っている意味がわからないのか困惑の表情と頭の上にはてなを浮かべるイレーネ。
「と、り、あ、え、ず!脱ぐ必要はないから!わかった!?」
「はい…わ、わかりました…」
そのまま両手で彼女を揺らしながらそう伝えると、イレーネは俺の必死さが伝わったのかコクコクと頷く。
“クソぉー!”
“え、何があった?風呂入ってて見逃した”
“スクショしました”
「い、一旦枠閉じます!今日はもう配信無いかも!それじゃまた明日!バイバイ!」
そのまま配信を切り、アーカイブを見れないように設定する。
とりあえずこれで問題はないだろう。一瞬だし、露出は多かったものの決定的な部分は隠れていたし…
大丈夫、大丈夫なはずだ。きっと、たぶん、おそらく、メイビー…
BANという不安を抱えながらも、イレーネの方を向きとりあえず言いたいことを言う。
「そのね?君みたいな可愛い女の子が俺みたいな男に簡単に肌を晒すもんじゃないよ?風邪も引くし、そういうのはもっと大人になってからさ。俺が好きってわけでもないだろうし…」
「ですが…」
「ん…?」
「私達には、グレイ様の助力が必要です。その為になら、私の身がどうなろうと…」
「…え?俺のことなんだと思ってるの??」
まるで俺が手を出すみたいな感じで話を進めているが、そもそもそんなことする気なんて微塵もない。なんでそんな話に…
「とりあえず、お茶でも出すから落ち着いて話をしようか?」
そうして、グレイは空間収納からマグカップを取り出すのであった。
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