善慧大士錄卷第一 2

大士欲導群品。先化妻子。令發道心。即捨田宅。請四眾設大會。而說偈曰。


大士はまず妻子を教え導き、道の心を起こさせたのじゃ。そこで彼らに田宅を手放させ、四衆(出家者と在家者の男女)を招いて大会だいえ(規模の大きい法会)を開き、次のような偈を詠んだのじゃ。



捨抱現天心 傾資為善會 願度羣生盡

俱翔三界外 歸投無上士 仰恩普令盍


執着を捨て、心を天(清らかな心)に現し、財産を善行のために投じよう。

願わくば、すべての生きとし生けるものを、三界の外へと共に導き、無上の道を求めよう。 仏恩を仰ぎ、すべての者を救わん。



是年饑饉。設會之後。家無㪷儲。同里傅昉。傅子良等。入山供養。大士化諭妻子。鬻身助會。玅光受命。乃曰。唯願一切眾生因此同得解脫。


この年は飢饉に見舞われ、大会を開いた後には家には何も蓄えが残らなかったのじゃ。同じ村の傅昉や傅子良らが山へ供養に来てくれたのじゃが、大士は妻子を諭し、身を売っても大会を続けるよう命じたのじゃ。そこで、妙光(妻)はその命を受け入れ、「このことで、すべての人が解脱を得ることができるように願う」と答えたのじゃ。



大通二年三月。同里傅重昌。傅僧舉母。以錢五萬買之。大士得錢。即營設大會。乃發願曰。


大通2年3月、村の傅重昌や傅僧挙の母が5万銭で妙光を買い取り、これで大士は大会を続ける資金を得たのじゃ。そこで、次のように願をかけたのじゃ。



弟子善慧。稽首釋迦世尊。十方三世諸佛。盡虗空遍法界常住三寶。今捨賣妻子。普為三界苦趣眾生消災集福。滅除罪垢。同證菩提。


「弟子の善慧(大士)は、釈迦世尊、十方三世の諸仏、そして虚空と法界に遍在する常住三宝に頭を垂れます。いま、わが妻子を売ることを通じて、三界の苦しみを抱えるすべての生き物の災厄が消え、福が集まるように、罪垢が滅して、共に菩提を証することができますように。」



後月餘。傅氏悉遣玅光等還山。


その後、一か月あまりして、傅氏は妙光らを元の山へと送り返してくれたのじゃ。



大士有僕。亡匿為盜。時有同里傅昉。傅暀。罄產來施。大士轉為亡僕營救苦齋。周七七日。玅光紡績。傭賃。曾不少休。傅昉亦質妻子。得米來作供養。大士復轉給諸修道者。


ある時、大士(善慧大士)には仕えていた僕がいたが、その僕は逃亡し盗みを働いておった。同じ村に傅昉ふぼう傅暀ふごうという者がいて、財産を惜しまず施しにやってきたのじゃ。大士はその施しを逃亡した僕を救うための苦行の供養として使い、七七日(四十九日間)にわたり施し続けたのじゃ。妙光は休むことなく糸を紡ぎ、働きに出て稼ぎを続け、傅昉もまた妻子を質に入れて米を得て供養に当てたのじゃ。大士はその米を修行者たちに分け与えたのじゃ。



自後靈異益多。人或謗毀。大士倍生慈愍。


これ以降、さまざまな霊験が益々現れたが、人々の中には彼を誹謗し中傷する者もおった。だが大士は、そうした者たちに対してもさらに慈悲と憐みの心を抱いたのじゃ。



一日。去叔家。自稱。我是彌勒。故來相化。叔可作禮。叔遂作禮。


ある日、大士は叔父の家を訪れ、「わっちは弥勒菩薩じゃ。おぬしを導くために来たのじゃ。だから礼をするがよい」と言った。叔父はこれに従って礼をしたのじゃ。



又欲往從祖孚公。孚初不信。玅光諫曰。他謂汝失心。豈有叔祖作禮之義。慎無往也。


さらに、従祖父の孚公ふこうのもとへ行こうとしたのじゃが、孚公は初めは信じようとせなんだ。妙光が諫めて、「彼はおぬしが気が狂ったと思うておるのじゃ。叔父や祖父に礼をさせるなど、道理に合わぬことじゃ。どうか行かないでくだされ」と言ったのじゃ。



大士即撥胸前。作金色。出天香。以示玅光。玅光猶言。勿往。大士竟詣孚所。說令設禮。孚固不從。


すると大士は胸を撫で、金色の光を放ち、天からの香を漂わせ、妙光に見せたのじゃ。しかし妙光はそれでも「行かないでくだされ」と言ったのじゃ。それでも大士は孚公のもとへ赴き、「礼をしなされ」と告げたが、孚公は断固として従わなかったのじゃ。



大士歸。玅光問曰。孚作禮否。答曰。今雖未禮。明日會當步步作禮。


大士が帰ってきて、妙光が「孚公は礼をしましたか?」と問うたところ、大士は「今日のところは礼をしなかったが、明日には必ず礼をすることになるであろう」と答えたのじゃ。



是夜。孚夢八人迎大士去。孚隨之問。人叱曰。汝高慢不從聖訓。今復何問。


その夜、孚公は夢を見た。八人の者が大士を迎えに来ており、孚公はそれを追って「どうか教えを乞わせてくだされ」と尋ねた。すると一人が叱りつけて「おぬしは高慢で聖なる教えを無視しておるではないか。今さら何を聞こうというのか」と言ったのじゃ。



俄見大士金相奇特。翔空而行。孚追之。但見石壁橫空。大士。侍從直過無礙。孚不得而前。


さらに孚公は、大士が金色の美しい姿で空を飛び翔けていくのを目にし、彼を追いかけたが、途中で石壁が空に横たわり、孚公は進めなくなってしまった。しかし大士とその従者たちはその壁を越えて無碍に通り過ぎていったのじゃ。



既寤。悲悔。遲明入山。寖聞異香。遙見大士。雨淚稽首。願為弟子。大士曰。我從兜率天下。正為相接耳。孚公遂即依止。三業清淨。


目が覚めた孚公は深く悔いて、明け方になると山に入った。異香が漂ってくるのを感じ、遠くに大士の姿を見つけ、涙を流して頭を垂れ、「どうか弟子にしてください」と願ったのじゃ。大士は「わっちは兜率天から降りてきたのじゃ。まさにおぬしを導くためであったのじゃ」と答えた。孚公はこれ以降、大士に従い、三業(身・口・意)を清める修行に励んだのじゃ。


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