善慧大士錄卷第一 -1
大士姓傅。名翕。字玄風。東陽郡烏傷縣稽停里人。烏傷。即今義烏縣也。父名宣慈。字廣愛。母王氏。世為農。
以齊建武四年丁丑歲五月八日生。端靖淳和。無所愛著。少不學問。時與里人漁。
傅翕はの、斉の建武4年、丁丑の年の5月8日に生まれたのじゃ。彼は、端正で穏やかな性格を持っており、何物にも執着することがなかったのじゃ。若い頃は学問を学ぶこともなく、時には村の者たちと共に漁をしておったのじゃよ。
每得魚。常以竹籠盛之。沈深水中。祝曰。欲去者去。止者留。時人以為愚。
彼は魚を捕るたびに、いつも竹の籠に魚を入れ、深い水の中に沈めてこう祈るのじゃ。「去りたいものは去るがよい、留まりたいものはここに留まるがよい」と。村人たちはこれを見て、彼を愚かであると思ったのじゃ。
梁天監十一年。年十六歲。娶留氏。名曰玅光。有子二人。曰。普建。普成。
梁の天監11年、彼が16歳の時、留氏という女性と結婚したのじゃ。彼女の名は
普通元年。年二十四。泝水取魚於稽停塘下。遇一胡僧。號嵩頭陀。
普通元年、彼が24歳の時のことじゃ。稽停の池の下流で魚を獲ろうと川をさかのぼっておったところ、一人の胡僧(異国の僧)に出会ったのじゃ。その僧の名は
語大士曰。我昔與汝於毗婆尸佛前發願度眾生。汝今兜率宮中受用悉在。何時當還。
その僧は傅大士に向かってこう言ったのじゃ。「わしはかつて汝と共に
大士瞪目而已。頭陀曰。汝試臨水觀影。大士從之。乃見圓光寶盍。便悟前因。
大士はその言葉を聞いて目を見開くだけであったのじゃ。すると頭陀は言った。「汝、水辺に行き、影を見てみよ」と。大士はその言葉に従い、水面を覗き込んだのじゃ。すると、そこには円い光に包まれた宝の器が映っておった。これを見た大士は、過去世の因縁を悟ったのじゃ。
乃曰。鑪韛之所多鈍鐵。良醫門下足病人。當度眾生為急。何暇思天宮之樂乎。於是棄魚具。携行歸舍。因問修道之地。頭陀指松山下雙檮樹曰。此可矣。
そこで大士はこう言ったのじゃ。「炉には鈍い鉄が多く、名医のもとには病人が絶えぬように、急いで衆生を救わねばならぬのじゃ。どうして天界の楽しみなど考えておる暇があろうか。」こうして彼は魚取りの道具を捨て、そのまま帰途についたのじゃ。そして修行の地をどこにするべきかと尋ねたところ、頭陀は松山の麓にある二本の高い樹を指して言ったのじゃ。「ここがふさわしかろう」と。
即今雙林寺是。大士於此結菴。自號雙林樹下當來解脫善慧大士。種植蔬果。為人傭作。與妻玅光。晝作夜歸。敷演佛法。苦行七年。
これが、現在の双林寺であるのじゃ。大士はこの地に庵を結び、「双林樹の下で未来に解脱を得る善慧大士」と自称したのじゃ。彼は野菜や果物を育て、他人のために働きながら生計を立てておった。妻の妙光と共に、昼は働き、夜に帰っては仏法を説き続け、七年間苦行を積んだのじゃ。
一日。宴坐次。見釋迦。金粟。定光三佛。來自東方。放光如日。復見金色自天而下。集大士身。從是身常出玅香。每聞空中唱言。成道之日。當代釋迦坐道場。既而四眾常集。問訊作禮。
ある日のこと、大士が静かに坐禅をしていると、釈迦、金粟仏、定光仏の三仏が東方より光を放ちながら現れたのじゃ。その光は太陽のごとく輝き、大士の身に天から金色の光が降り注いだ。その時から、大士の身からは常に妙なる香りが発せられるようになり、空中から「成道の日には釈迦に代わって道場に座ることになろう」という声が響いて聞こえたのじゃ。それ以来、多くの四衆(僧、尼、優婆塞、優婆夷)が常に集まり、彼に敬意を表して礼拝するようになったのじゃ。
郡守王烋謂是妖妄。囚之數旬。大士唯不飲食。而眾益歎異。遂釋之。大士還山。愈加精進。
郡の
遠近願師事者日眾。每旦鐘鳴。有仙人騰空而下。隨喜行道。
遠近から師と仰ぎたいと願う者が日ごとに増えていったのじゃ。毎朝、鐘が鳴るたびに、仙人が空を飛んで降りてきて、大士の修行を喜びながら共に道を歩むのじゃ。
嘗謂弟子曰。我得首楞嚴三昧。
大士はかつて弟子たちにこう言ったのじゃ。「わしは
又曰。我得無漏智。
また大士はこうも言ったのじゃ。「わしは
弟子僉曰。首楞嚴三昧。唯住十地菩薩方能得之。
弟子たちは皆こう言ったのじゃ。「首楞厳三昧は、ただ十地に到達した菩薩のみが得ることのできる境地でございます」と。
故知大士是住十地菩薩。示迹同凡耳。
それゆえ、弟子たちは大士が十地に到達した菩薩でありながら、あえて凡人と同じ姿を示しているのだと理解したのじゃ。
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